第十一集:タリアの原点
午の刻の正刻、密度のない蒼穹の空は宇宙と境界線がない。悠久が鏤められた青きが亘る世界だ。天上皇の慈悲で溢れた天上界に常闇の翳はない。
「――……」
真昼の内城は神々で行き交っている。各々の任務で忙しい様子が窺えた。声の聞こえないその光景を、ふたりの人物が見下ろしている。
「――タリア、楽しいか?」
「――うん!」
上位神アマトと上位神タリアだ。ふたりは内城の遥か上空にいた。空中で胡坐をかいているアマトの膝上に、背中を預けた体勢でタリアが座っている形だ。
アマトが器用に羽ばたかす十二枚の翼は羽音がしていない。タリアの翼は使用しない故、神力で透明化し蔵ってある。風音もない空間は静けさが極まって無音の神秘を煌かせていた。
「じゃあ、あっちは何だ?」
「あっちは外城!!」
タリアの元気な回答は正解だ。アマトは一重で切れ長の瞼を一層、細め、継いで質問する。
「じゃあ、あっちは何だろうな?」
アマトは誕生したばかりの末弟タリアに天上界の歴史、掟を教える係を猜拳で勝ち取っていた。好奇心、探求心、主体性、独創性、創造性の原動力は物事を区別、比較、分類する悟性的な能力を示した知性にある。それらを行動の一環に組み込ませ、活動のなかで自発的に働くよう、アマトは教育していた。
上位神の幼少期は秩序に敏感だ。日々で行う習慣、順序、所有物など一見、見逃しがちな事柄が知性の土台となってくる。
アマトはタリアに一日の流れを理解させ、周囲の環境を見極めさせ、自分で「次」を考えさせた。その際、大切にすべき点はひとつ、行く場所や物を片す場所等々、毎日「同じ」で安心させなくてはいけない。
タリアに自分の羅針盤を自由に扱わせることが大切だ。
「……んー、紅い柱の門……」
「紅いな、屋根は?」
「屋根は金色!!」
「お~金色だな、何階になってる?」
「……二階?」
「賢いじゃん、タリア」
ふたりは天上界内城と外城を繋ぐ門、楼門構造の七福門の問答をしていた。褒められて面映ゆいタリアの虹彩が光で揺れている。
「……ありがとう、アマトお姉ちゃん」
「素直で可愛い末弟に説明してやろう。あれはなタリア、七福門だ。左門神と右門神がいる。アタシ達、上位神は許可はいらないが、神聖で高明な内城に入る下神の神々は許可がいる」
「私達にない許可が他の神はいるの?」
純粋で正しい疑問だ。平等を謳う天界に滲んだ不公平は既成概念で確立していた。
「アタシ達、不朽の愛で創られている上位神と下位はまあ、魂の根源が違うんだ。アタシとタリア、上位神の兄姉弟は皆が同等、下位は下等だ。彼らがアタシ達上位神と関わるときは何でも許可がいる、会話、接触、がそうだ。タリア、お前はこの掟をどう思う?」
「……んー、ちょっと悲しい」
「悲しいのか? 理由は?」
「……私達は心臓があって内臓があって……生体上、変わらないから」
否定できない答えだ。五歳児の的を射た発言にアマトが目を丸める。
「――……ぷっ、ハハハ!! 生体上な!!」
刹那、噴き出した。大口を開ける豪快な笑い方だ。
「ア、アマトお姉ちゃん?」
「はー……久々に腹いっぱい笑ったわ。フフ、お前は悪くないタリア、アタシはアンタの誠実さに感激したんだよ」
タリアの自然で飾り気のない真心は尊い。末弟の性質の美点だ。しかし換言すれば、上位神で最も、異質と呼べた。
「感激したの?」
「まあね。タリア、アンタはアンタの信念を貫きな。施された恩恵は忘れず、与えた恩寵は忘れろ。相性は類似性と相補性が要因で、まあ、タリア次第だ。他に惑わされず、タリアが好きなヤツを好きでいていい。嫌な思い出は速攻で焼却しな、良い思い出は生涯、胸に刻んでおけ。見聞を広めて、どんどん吸収しろよ」
具体性がある危惧の念を抱くアマトの口調は早い。案の定、低い美声で矢継ぎ早に言われたタリアの頭上は疑問符で賑わっている。
「……? うん、頑張るね」
「いい子だタリア、法を司るアタシにとって、アンタは自慢の末弟だ」
数年、数十年、数百年、成長過程で自分の納得がいく正解に辿り着けたらいい。アマトは小さなタリアの体を抱き締め、微笑したのだった。
おはこんばんは、白師万遊です(*'▽')
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【追記】
猜拳=じゃんけん




