第十集:タリアの舞楽係
上位神アライアの宮殿、蓮包殿は天上界内城東南にある。
淡い青色の屋根瓦と高麗門式の冠木門が特徴的な宮殿だ。木造建築で優美な角楼がふたつ聳えていた。
外壁に施されてある極彩色の装飾は見事だ。床は磨かれた石床で美しい。
後庭は広大だ。池で囲まれてある。蓮や睡蓮が咲き誇っていた。水面に浮かんだ鮮やかな花々は優雅で品がある。表面が艶々しい円形の葉は切れ込みがあり水を弾いていない。天に生息した天鯉が水中を彩っていて、自然的で情緒のある光景だ。
今日はその中央に十六帖分の畳が敷かれていた。管楽器と打楽器の音色が響いている。
「――いいわよタリア、しっかり音を聴いて」
「――あらあらまあまあ、タリアちゃん足下に気を付けてね」
太陽の日差しが降り注ぐ申の刻の初刻、タリアの舞楽、華道、礼儀作法、女神の慎みを指導する係を猜拳で勝ち取った女神アライアとエシュネが、精一杯、畳の真ん中で舞っているタリアに声をかけていた。
タリアは粉鳳仙色の漢服、襦裙を着用している。衿元が右前の短い上衣の襦、腰紐の裙、下裙はウエストスカート状だ。肩や裾の桜刺繍は繊細で可愛らしい。履いている靴は襦裙の模様と統一した布靴だ。
魅力的な旋律、雅楽を奏でるは、アライアが選んだ中位神の神々、三名であった。彼らは序列二番目の階位の神だ。黒い漢服、上衣下裳を着ている。
顔を覆った黒布の頭巾に「禁」の文字が白文字で達筆に書かれてあり、美で満ちるタリアの目視、接近は無論、不必要な発声も禁止されていた。
元々、天上界の掟で上位神下位の神々は上位神との直接の会話、接触は許されていない。念には念を入れ、アライアが命令を下している経緯だ。
「……ッ、……」
上位神の末弟は最後の一音、しっかり体勢を崩さず、演じきった。厳格な仕切りで複雑な構成の舞をタリアは数日で習得している。子供故、些細な手先の伸びや頼りない足運びは完璧でないものの、先天的な能力は十分、発揮されていた。タリアはゆっくり胸元で拱手する。
「ありがとうございました」
「タリアッ、なんって素晴らしいのかしら!! さすが私の妹だわ!!」
「ふふふ、あらあらアライアちゃんったら。私の妹でもあるのよ? 上手く舞えていたわよ、タリアちゃん」
姉二人がタリアの傍に寄り、褒め称えた。片頬を掻き照れているタリアの両頬はほんのり赤い。
「お姉ちゃん達が喜んでくれて嬉しいよ。家で練習していたんだ」
才能もあるがタリアは努力を惜しまない。すべての学問で習った内容は帰宅後、忘れぬよう、身に付くよう、復習している。兄姉の善導は慈悲だ、タリアはそれを幼いながらも理解し、蔑ろにせず、感謝の心で学び、知識を得ていた。
「……練習ってタリア、お姉ちゃん泣いちゃう。お稽古サボってたキッドと大違いね。外見も中身もタリアが断然、上よ上」
上位神の八男キッドはアライアとエシュネ、ふたりの弟になる。数世紀前、彼の幼少期、タリア同様に二人は彼の舞楽教育をしたが大抵、「腹が痛い」だの「頭痛がする」だの屁理屈をこね、逃げていた。資質や能力を捻じ曲げ兼ねない育成法、無理強いはしてはならない。子供の意思、気持ちの尊重は大切だ。故に女神二人は唐楽や高麗楽などの類はキッドに合わない分野と諦め、彼が豊かになる未来を総体的に描き、特性を活かせる環境に託した――結果、いまのキッドが存在する。
「あらあら懐かしいわ。キッドくんは武術が好きだったもの。正に男神って感じだったわよね。タリアちゃんは男神要素がないわ、体もしなやかで曲線美もある。練習していたのねタリアちゃん、偉いわよ」
「うん! 次はお姉ちゃん達と一緒に舞いたい、だめかな……」
「だめっじゃない!! 良いに決まってるじゃない! ねえ、エシュネ!」
「ええ、ええ、もちろんよ。三人で舞いましょう、ふふ」
三頭の蝶々が織り成す世界は神々しい。カシャ、と遠くでエルが写真を撮っていた事実は場にいる誰もが知る由もなかった。
おはこんばんは、白師万遊です♡
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【追記】
猜拳=じゃんけん




