表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第一幕:~.。.:*✽桜紅の出逢い✽*:.。.~
12/134

第十一集:金髪の親子

 

 天上界外城、ウォンヌは中央往来(ちゅうおうおうらい)()を使い天上界に昇ってきた。下層に屋根のない二階造りの楼門(ろうもん)を潜る。前方にハオティエンがいるが足取りが悪い。原因は黒狐(こくこ)との一戦だろう。


 神兵の中で剣の腕前は一番と名高い武官が情けない。


 「――手当は華陀様(かださま)か。まあ精々、可愛がってもらえよ」


 医研官(いけんかん)(おさ)、華陀は無類な解剖好きだ。

 今回の一件で狐族(こぞく)の遺体、即ち狐体(こたい)が二体、彼の手に渡る。

 彼は奇傑(きけつ)医神(いしん)、自ら関わる神は数少ない。


 「――ふん」


 ウォンヌはハオティエンを横目に颯爽と五法殿(ごほうでん)に向かった。

 五法殿は芥子色(からしいろ)釉薬(ゆうやく)が塗られた薄手の平瓦(ひらがわら)が特徴的で、裏は蓮の花の形をかたどった庭園があり、床は石床(せきしょう)、表構えは三階建てと中々に大きく、毎日五界(ごかい)に関する会議が開かれている。


 「――ウォンヌ」


 途中で界事(かいじ)を司る神、五事官(ごじかん)(おさ)ウリと邂逅(かいこう)した。目的地に到着する前に会えたが、確実に偶然ではない。


 「すみませんウリ様、お待たせしてしまい」


 「用事の(つい)での(おり)にです、気にしないで下さい。」


 亜麻色(あまいろ)でロング丈の長袍(チャンパオ)を着たウリは、ウォンヌの父親だ。

 任務時の格好で神札のピアスはウォンヌと同一、今日とて目元の隈が濃い。

 

 「怪我がなくて安心しました」


 「ウリ様に頂いた和弓(わきゅう)のお陰です」


 「いえ、鍛錬の賜物でしょう」


 ウリが遥か昔、友の男神に譲り受けた和弓は、現在ウォンヌの手元にある。ウリが武官となったウォンヌを祝し託したのだ。


 ウォンヌは黒軍帽(こくぐんぼう)(つば)を指先で握り本題に入る。


 「――とある村で電蔵主庵(でんぞうすあん)と遭遇しました」


 「下界にいる部下に届伝力(かいでんりき)で、(おおよ)その報告は受けました。電蔵主庵は三毒狐(さんどくこ)で最も凶悪な雷狐(らいこ)、数百年以来の極めて重要な案件になります。上位神タリア殿の身に何かあっていたら、天上界は狐界と戦争になっていたでしょう」


 「……はい」


 上位神タリアは天上皇(てんじょうおう)が自ら造った男神(おがみ)だ。天上界の神は皆、天上皇の子で愛されている。平等な愛に偽りはないが、翼を与えられた特別は色濃くある。上位神は天上皇の分身と言っても過言ではない。


 上位神を傷付ける行為は天上皇を汚す罪だ。ウリの発言通り万一の仮定が発生していた場合、狐界が電蔵主庵を明け渡すはずがなく、戦争は必須であった。


 「記憶上、下界で電蔵主庵と対峙した神官は百年ぶりです」


 電蔵主庵は指揮官型の性格だ。自身は狐界におり、彼の命令に従う者が人間の臓器を収集する。人間の臓器収集は電蔵主庵の趣味で生業(なりわい)だ。多用途に活用している。


 「紫の番傘を差しておりました。僕は見目形(みめかたち)はあまり……」


 村人が攫われ変事(へんじ)が起きた。ウォンヌは白狐(びゃっこ)を追う間際、暗闇で薄ら笑う電蔵主庵の口元が視界に入った程度だ。


 「よいのです。神官の無事が最優先事項ですよ。電蔵主庵の特徴は、上層は認識しています。神兵(しんぺい)に共有をしていなかった僕の責任です」


 「情報開示を希望してよろしいでしょうか」


 ウォンヌの要求にウリは即断する。


 「ええ構いません。狐界の三毒狐、鬼界(きかい)三災鬼(さんさいき)狼界(ろうかい)三厄狼(みやくろう)鹿界(しかかい)二凶鹿(にきょうじか)、ここに揃えてあります」

 

 予測の範疇(はんちゅう)だったらしい。ウリは左脇に挟んでいた資料を手渡した。


 「あ、りがとうございます」


 五事官の長は仕事が迅速だ。ウリの識見の高さに適う五事官はいない。


 「未確定性がある点は記載していません、ご容赦を」


 「ご配慮、感謝します」


 丁寧に頭を下げ、ウォンヌが礼を告げた。一区切りつき、ウリは困惑した表情で話を切り替える。


 「とても言い難いのですが、実はつい今し方、天上界から下界を監視する神官から別の報せがありまして、昨晩はいた火鬼が今晩は正浄山(せいじょうざん)にいないと」


 「――ゴホッゴホッ!」


 驚愕したウォンヌが咳き込んだ。ウリが跳ねる背中を擦った。


 「大丈夫ですか、ウォンヌ」


 気遣うウリの手を肯定の仕草で退け、ウォンヌは強い語気で疑問を投げる。


 「――いないって、火鬼の封印が解けたと仰っているのですか!?」


 「……ええ、事実です。いないものはいない。はあ、僕も胃が痛いんです」


 天を仰ぐウリは、過労で消滅しかけている。(まなこ)に生気が宿っていない。


 「(――自分で? 誰かが?)」

 

 天上皇が封印した火鬼は人間の心臓を三百抉って燃やし、五人の神官の心臓を抉り食らった獰悪(どうあく)に満ちる鬼だ。それが地上に放たれた、忌々しき事態だ。


 「(電蔵主庵も数人引き連れていた……、火鬼の仲間か?)」


 続々と正起(せいき)する問題、電蔵主庵に加え火鬼、ウリの心境を察する。

 

 「ウォンヌ、タリア殿に天上界に帰還するよう言伝(ことづて)をお願いします」


 「火鬼の封印は如何なさるんですか」


 「はあ……。天上皇の眠りで、武官が捌ける人数もいまは限りがあります。天上皇が封印なさった火鬼です、天上皇の御心(みこころ)に任せましょう」


 「…………」


 ウォンヌは反論できない。手練れの武官は天上皇護衛や天上界の守備に尽力し、上位神タリアに神兵が付き添えるほど神員(しんいん)が不足していた。


 「(……タリア様に)」


 タリアに相談は可能だ。上位神タリアは剣の腕前も一流、ウォンヌとハオティエン、二人がタリアを支え三人で戦えば勝利する見込みはある。


 ウォンヌが意思を固めた瞬間、自分にかかる影に気づいた。


 「――アレス武官長」


 「蛇足なお前がいて華美(かび)なタリア様はいないのか」


 開口一番に文句だ。ウォンヌの蟀谷(こめかみ)怒筋(どすじ)が刻まれる。


 序列四番目の神官、戦いを司る男神、武官の長アレスはハオティエンの父親だ。ウォンヌ同様の黒軍衣を身に纏っており、身長は188㎝と高い。

 二人の黒軍衣で異なる箇所は金色の肩章(けんしょう)、ズボンのサイドを囲む緋色の縁、黒軍帽の鉢巻と天井部のパイピングが緋色、この三つだ。軍刀の刀帯(とうだ)(つか)(さや)も又、緋色で統一されている。

 容姿は黒子と沈着した隈以外、ハオティエンに瓜二つであった。


 正義感があり天上皇に忠実な武官の長アレスは、崇高な三美神タリアに密かに憧れを抱いている。数カ月に数回の御目見得(おめみえ)が彼の目標だ。


 「タリア様は下界ですが」


 「……チッ、ハオティエンは」


 「万医生殿です」


 「ハッ、ざまあねえな負け犬め」


 嘲笑するアレスは語法(ごほう)に欠けていた。ウォンヌは彼の相手をしている暇はない。


 「僕はそろそろ下界に、父上、失礼します」


 挨拶をしたウォンヌにウリは首肯する。


 「ええ」


 踵を返すウォンヌだったが、「ちょっと待て」と左腕を掴まれた。アレスだ。


 「逃げんな」


 「……逃げていません。武官長、僕は下界でタリア様に――」


 「ああ、ああ、わかったわかった。雑務をくれてやる」


 乱暴に大声で言葉を遮ったアレスは、ウォンヌの首に腕を回し連行する。引き摺られて行くウォンヌに、ウリは目を瞑り「ストレスですかね」と呟いたのだった。



最後まで読んで下さりありがとうございました(*'▽')


感想、評価、ブックマーク頂けると更新の励みになります!

よろしくお願いします(*‘ω‘ *)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱり文章力と世界観の構成が凄いですね。 魅力的なキャラがたくさん出て来て目移りします。 後、服装の拘りが凄いですね。 作者様はリアルでもお洒落さんっぽい♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ