第九集:タリアと遊ぶ係
天上界内城、西側は一面、大草原だ。
広大でなだらかな新緑の絨毯は宇宙と境界線がない。
地上に無い独特な絶景、副交感神経系を活性化する澄んだ空気は絶品だ。雲一つない碧天の下で、タリアは天上皇授かりし純白の二翼の翼を広げ、低飛行していた。
時刻は申の刻の初刻だ。ふたりの男神がタリアの練習を見守っている。
「――お~、タリアちゃん上手い上手い」
「――いいぞタリアッ!!」
上位神ラファフィルと上位神クロスだ。ふたりはタリアの自発的遊び係を、猜拳で勝ち取っていた。子供の随意的な遊び時間は心身の調和、協調性、自己主張の発育を培う重要な学習だ。武術や礼儀作法だけが幼児期に必要な教育ではない。
タリアの意見を尊重し、タリアの活動を豊かにする。タリアの目的達成のため、計画的に環境を構成、場面に応じ様々な役割を果たす役目は、ラファフィルとクロスにあった。
上位神であるタリアだが、幼児期に相応しい充実した生活の展開は必須だ。上位神の威厳と品位、資質の啓発は彼らの務めにない。
タリアの学ぶ意欲や好奇心をたつとび、刺激し育て、課題に即した指導を行い、諸特性、諸能力を伸ばし、生きる神力の基礎を育成する。
天上界が掲げた徳目や掟は現段階、必要がない。
「……ハア、……、ハア……」
タリアは地上に降り、呼吸を整えた。満面の笑みで振り返り、駆け出す姿はあどけない。美を象徴した末弟は天上界随一の華やかさを纏い、ラファフィルの腰付近に抱き着き、問いかける。桜色の虹彩がくるり、光を帯びた。
「ラファお兄ちゃん、私、上手かった?」
「ん~、凄く上手だったよ~! さすがタリアちゃん、僕の弟だね~!」
ラファフィルは膝を折り曲げ、タリアの頭をよしよしと撫でる。タリアは微笑み、ラファフィルの隣にいたクロスの濡羽色の漢服を掴んだ。
「クロスお兄ちゃん、ラファお兄ちゃん、凄く上手かったって」
クロスを見上げる眼差しは純粋で尊い。褒めれたことを素直に喜んでいる。
「お~お~! 本当、上手かったぞタリア! お前は僕の自慢の弟だ~!」
「わ、わ……!!」
クロスは時空の杖を持っていない右手でタリアの小さな頭部を捏ね繰り回した。黒いリップを塗る唇が弧を描き至極、楽しそうだ。
「クロスくんクロスくん、タリアちゃんの髪がボサボサになってるよ」
ラファフィルの指摘通り、整えられていたタリアの美髪が鳥の巣状態になっている。乱れた斬新な髪型でタリアは前が見えていない。
「へ? ……うわっ!? ごめんタリア! ちょ、待って! 動かないで!」
クロスは純朴たるタリアの余りの可愛さに手加減を忘れていた。能力で黄楊櫛を取り出す。椿油で手入れされた高級感ある四寸の櫛はかまぼこ形だ。妹アライアに「運動後、タリアの髪はこれでとかしてね」と手渡されていた。
黄楊櫛は材質の木の密度が細かい。弾力性があり折れ難い特色がある。
「お~、滑りいいな」
一瞬でタリアの髪が艶を取り戻した。地上の暖かい地域に分布する天然のつげの木を使用し、緻密且つ洗練された技法で仕上げれている櫛は精度が高い。
頭皮を傷付けない優れた美点があり、やはり一味違う。元々、瑞々しいタリアの桜色の髪質の表面が更に潤い、煌いていた。
太陽の光を浴び、反射している。
「っしゃ~、動いていいぞタリア」
「ありがとう、クロスお兄ちゃん! ね、次はね、お花の冠作りたい!」
「だってよラファ~」
「ん~、移動しようか。おいでタリアちゃん、あっちの花畑に行こう」
「はーい!」
タリアはラファフィルの左手指先と、クロスの右手指先を握った。か弱い手の平で必死に離すまいと力を籠める愛くるしい仕草の破壊力は凄まじい。
クロスが左腕で涙を拭い、叫んだ。
「……くぅ……、弟万歳!!」
「ハハ、タリアちゃんは大物になるね」
クロスの反応に一笑したラファフィル、ふたりの歩調はタリアに合わせていて遅い。並んだ三人の背中は、遠くで写真を撮っていた、末弟愛を拗らせ始めているエルのお気に入りの一枚となったのだった。
おはこんばんは、白師万遊です( ᐢ˙꒳˙ᐢ )
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【追記】
猜拳=じゃんけん




