第五集:あまりの煌き
太陽の日差しが天上界の真上にある正午、エルとルキは内城の天空、ロートアイアン製の扉前にいた。昇っている最中、上空でばったり会い、一緒に飛んできた流れだ。
「――末子、元気してっかな」
「――早くしろルキ」
「――っるせえな、お前だけが待ち遠しかったわけじゃねえんだよ」
ふたり共、昨日、一昨日と多忙で来れていない。二日ぶりの再会となる。エルに急かされ、ルキが創炎の間の扉を開けた。
二人同時に入り、翼を畳んだ。直後、ルキが眩しさで瞼を瞑る。
「――っうお!?」
「――くっ……」
エルも左腕で目元を覆い、遮光した。
天上皇の神力で作られている創炎の間の異空間に問題はない。ふたりが目を凝らす先で見つけた光の原因は、中央にて浮遊している末子の炎だ。煌きが浅い水面で水光し、凝縮された万華鏡の如く、摩訶不思議で魅力的な、美しい世界を広げている。幻想を超えた神秘的な赫奕たる光彩は尊い。
それは末子の透き通った炎の純度を示している。
「ちょ、おいエル!! 助けろ!!」
「……っ、これを装着しろ」
エルが能力で黒い偏光サングラスを取り出した。
偏光レンズは入射する光の性質を利用して、見たい対象物に取り巻いた不要な乱反射光を取り除き、必要な可視光線だけを透過させられる、優れた構造のサングラスで、かければ視界は快適になる。
「……よし、こっちは平気だ。エルそっちは?」
「俺も平気だ」
ふたりは肩を撫で下ろし、炎の傍に寄った。装着するサングラス越しで煌々と色鮮やかに咲く華は純粋で穢れがない。澱みのない神光だ。
上位神の澄んだ魂の誕生をこれまで見守ってきた双子だが、サングラスの使用は初めての経験になる。高次元のエネルギー神体だ。恐らく性質や生気、精神は天地で最も天上皇に等しい。
「……まさかよ、こんな輝きで生まれてこねえよな? サングラス必須とか?」
ルキが真情を吐露した。現段階、末子は裸眼で直視できないレベルだ。
「杞憂だルキ。父上が……、きっと、まあ、調整してくれる」
エルの語調はたどたどしい。確信はあるが「もしも」は拭いきれない。
「……何なんだよエル、ハッキリしねえな。明日だぞ、コイツが生まれんの」
「絶対は父上だ。父上が確定する」
要は天上皇次第だ。天上皇の御心で末子の魂に似合った容姿も創られる。上位神が口を出すことは許されない。天上皇の意向に従う、それが上位神の揺るぎない信念だ。
「――案ずるなルキ」
刹那、天声が響いた。精巧、且つ、規則的にある無辺な宇宙で秩序を持つ完結した存在、天上皇だ。七色に反響する声は神々しい。
「本当だろうなジジイ」
ルキが疑いの眼差しで彩雲を睨んだ。天上皇の真意を問う男神はルキ以外いない。通常は万死に値する無礼千万な行いも、上位神に限り免罪、諒とされていた。
「――虚言は申さん。末子の精光はお前達、上位神の希望が一体になった証拠だ。明日を楽しみにしておくといい」
「……って、さっさと去りやがった。片言隻句かよ、あれだけ言うためにわざわざ降りて来やがったのか」
天上皇の気配はない。空は元に戻っている。
「一言芳恩、が如何に大きい温情か。俺達の心配を晴らして下さった。ありがとうございます父上」
エルが首を垂れ、拱手した。ルキは鼻を鳴らし「やってろ」と拱手はせず、末子に話しかける。眩耀した炎でルキの虹彩はまるで宝石のようだ。
「精彩に富んだ色調だなお前は、っと可愛い奴……。俺達の希望だぞエル、俺達の血を引く宝だ」
「……ああ」
「お前……、涙は明日にとっておけよ」
「煩い、俺は泣いていない」
ルキの言葉を否定するエルの目元は湿っていた。命の尊厳を表す灯火に感動しない神はいない。
「そうかよ。おい末子、お前を迎える準備は整ってる。俺達兄姉がお前の前途を祝福してやる、安心して生まれてこいよ」
ルキが低声で零した囁きに応え、末子がパチパチ火花を散らせる。ルキとエルは目笑し、ここ数日の出来事を末子に聞かせていたのだった。
おはこんばんは、白師万遊です( ᐢ˙꒳˙ᐢ )
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