第三集:それぞれの願い
天上界内城の天空にロートアイアン製の扉がある。十二枚の翼を持つ上位神のみが辿り着ける場所に、創炎の間はあった。
内部は天上皇の神力で異空間となっている。
上空は青い空、下は薄い水面だ。境界線のない、360度、高積雲が漂った空を映す鏡の世界は幻想的で美しい。
中央に約百センチの高さで浮かんだ透明の炎は燦爛、且つ、上品に煌いていた。命の灯火は宇宙で最も尊い奇跡の塊だ。
上位神達が横一列に並んでいる。天上皇の天声が七色に反響した。
「――長男エルを順に、希望と血を一滴、無垢なる末子に贈りなさい」
「はい父上」
正面左端にいるエルが返答し、進んだ。ブレードの長さが8cmのステンレスナイフを能力で取り出し、まだ形になっていない淡い末子の手前で立ち止まる。
「……可愛くて強い、思いやりがある子に」
エルは願いを囁き、ナイフで人差し指の指頭を切り、一滴、炎に零した。踵を返し、ナイフをルキに手渡す。ルキが交代で前に出た。
「……美人で強い、優しい子に」
エルと手順は同じだ。「会える日が楽しみだ」と一言加え、三番目のリイガウにナイフを手渡し入れ替わる。
「……純真で強い、穏やかな子に」
リイガウは天真な末子を愛おし気に見つめ、襟元を正すラファフィルにナイフを託した。ラファフィルの歩武は慎重だ。
「……嬋媛で強い、慈悲に溢れた子に」
ラファフィルに続く五番目はシリスだ。ラファフィルに渡されたナイフは袖口で隠れて見えない。
「可憐で強い、芯の強い子に」
六番目はクロスだ。シリスに投げられるナイフをあわあわ受け取り、駆け足で末子に寄った。
「……え、と……。優美で強い、高潔な子に」
クロスは「待ってるね」と囁き、七番目のアライアにナイフを繋いだ。アライアも早歩きで末子と距離を縮める。
「……閑麗で強い、魅力が充溢した子に」
八番目はシュトリアだ。緊張気味な様子でアライアのナイフを分捕り交代した。
「……繊麗で強い、崇高な子に」
九番目はエシュネだ。シュトリアにナイフを貰い、落ち着いた足取りで末子と距離を詰める。
「……婉麗で強い、清い子に」
十番目はキッドだ。シュトリアのナイフを掻っ攫い、末子のもとに片足で跳んだ。
「……清淑で強い、気高い子に」
十一番目はアマトだ。シュトリアにナイフを拒否し、親指の爪で一指し指の指先を切り、末子に語りかけた。
「……優雅で強い、公平で平等な子に。元気に生まれておいで」
上位神、全員の希望の一欠片と一滴の血が、寂光たる炎に溶け込んだ。澄み切った光の輪が波打ち、兄姉の贈り物に喜んでいるかのようである。
「…………っ」
上位神達の眼が潤んだ。唇を震わせ、各々、天に拱手した。
「――いつでも会いに来なさい。下がって良い」
「はい」
上位神、それぞれの返事が同声になる。そして後ろ髪を引かれながら、十二枚の翼を羽ばたかせ内城へと降りた。純白で神々しい翼を一様に畳み、刹那、騒ぎ始める。
「~~ねっ、ねっ、もお!! やばい~!! 途轍もなく可愛い子が誕生するんじゃね!? 僕、末弟、末妹、どっちでもいい気がしてきた~!!」
クロスが歓喜で頭を抱え、アライアが同調した。火照る両頬は赤い。
「クロス私もよ!! そりゃあ末妹がいいけどっ!! あの炎の尋常じゃない透き通りッ、可愛さが宇宙一になる予感がするわ!!」
「ダア~~ッ!! 待ち遠しい!!」
シュトリアが頭部を乱暴に掻き、叫んだ。その奥でルキが顎に右手を添え、微笑している。
「さすが最後の上位神、ジジイの入れ込み具合、半端じゃねえな。煌々としてたぜ」
「父上は俺達ひとりひとり、精密に創り慈悲を下さっている。まあ、燭光は上位神で断トツかもしれん。俺達兄姉もすでに末子に耽溺しているしな。俺は今から末子の衣類調達に行く、お前も来るかルキ」
エルがルキの感想に納得しつつ肩を竦め、流し目で問うた。直後、ガクンとエルの上半身が前のめりになる。エルの体勢を崩した犯人はキッドだ。
「俺も行く」
「あらあら、私も行くわ。ルキくんも行くでしょう、ね」
エシュネが団扇を口元に当て、ルキの左腕に自分の右腕を回した。ルキは口端を上げ、首肯する。満面の笑みが太陽で輝いていた。
「ったり前だろ! 俺は兄だ。エシュネやキッド、お前らが初めて着た衣類だって俺やエルが選んでやったんだぜ」
鼻を鳴らすルキは誇らしげだ。エシュネはにこにこ話を聞いている。
「あらあら、まあまあ」
「あ~!! 待って僕も僕も~!!」
「ちょっと!! 置いてかないでよ!!」
動き出す四人の背をクロスやアライアが追いかけ、結局、全員で末子に必要な用品を揃えることになったのだった。
おはこんばんは、白師万遊です(*´▽`*)❀
最後まで読んで頂きありがとうございます!
感想、レビュー、評価、いいね、ブクマ、フォロー等々、
頂けると更新の励みになりますヾ(*ΦωΦ)ノ
また次回の更新もよろしくお願い致します(๓´˘`๓)♡




