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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第一集:我が魂は尽未来際キミの傍らに


 鬼界(きかい)の東は火鬼(ひおに)の治める領土だ。

 火山が生んだ自然の渾沌(こんとん)――火鬼(ひおに)は、天上界の神に監視警戒された鬼族(きぞく)で最恐の三鬼(さんき)、人間に災厄を撒く三災鬼(さんさいき)と呼称されるなかで(もっと)残忍酷薄(ざんにんこくはく)と名高い。


 火鬼(ひおに)は秩序無き出生に等しく、古来より蛇蝎(だかつ)の如く嫌われた存在だ。されど天上界の上位神(じょういしん)と同等の強い鬼力(きりょく)を持ち、妖艶で眉目秀麗な鬼(ゆえ)、私利私慾で近付く者は数多(あまた)にいた。曖昧を(さず)かる火鬼(ひおに)として誕生した孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)も例外ではない。鄙劣(ひれつ)(まみ)れる毒心(どくしん)賎陋(せんろう)(さかずき)で溢れた欺罔(きもう)血潮(ちしお)()える姦邪(かんじゃ)姦譎(かんけつ)で溺れた悪巧(わるだくみ)が付き纏い、(つい)でに彼の奸佞(かんねい)奸凶(かんきょう)(よど)んだ不浄たる性質が相まった結果、容易に想像は付くだろう。


 彼は不確かな愛情や友情を、自分以外の鬱陶(うっとう)しい他者を、一切信じなくなった。


 誰も救ってはくれない。脆弱(ぜいじゃく)な者は死に、強靭(きょうじん)な者が生き残る。四界(しかい)は生存競争が激しい優勝劣敗(ゆうしょうれっぱい)の世界、下界と異なった四界(しかい)常磐(ときわ)だ。


 だがそれは、豊かさと開花を司る上位神(じょういしん)タリアに出逢う前の尋常(じんじょう)だった。


 「――……ら、――(ほむら)?」


 「…………」


 艶のあるタリアの髪を一束(すく)い、理由なく昔を思い出していた(ほむら)は、無言で自分が映る透き通った桜色の瞳を見つめている。(きらめ)きを放つ透明な懸珠(けんしゅ)(けが)れはない。


 「大丈夫? お腹が減った?」


 呼びかけで返事をしない(ほむら)にタリアは小首(こくび)を傾げ、その右頬(みぎほお)を撫でた。細い指先に擦り寄る(ほむら)の表情は至極柔らかい。


 「ハハ、腹はまだ平気だよ。ただタリアといる心地良さに浸ってただけ」


 (うま)(こく)の現在、ふたりは自分達が身を置く村と隣接した森の奥にいる。天然の花々が広がった美しい場所だ。


 ふたりは(ほむら)の誘いで時折、タリアがお気に入りであるこの花畑を訪れていた。特段の目的はない。()いて言えば「花が好きなタリアのため」に来ている。


 タリア一辺倒(いっぺんとう)で、タリアを喜ばせたい、タリアにしか発動しない、(ほむら)の人道的な一面で叶った時間だ。


 「確かに――、キミといられて私も心地が良いな」


 「でしょ、两情相悦(そうしそうあい)だ」


 寝そべる体勢で横になり、寄り添い合う二人は、色鮮やかな空間と季節の刹那(せつな)を堪能していた。青空に七色の花びらが舞う光景は煌びやかで美しい。


 ふたりの両眼(りょうがん)は揃って(さなが)ら万華鏡のように光を反射している。


 「……タリア」


 (ほむら)が天地で唯一の愛しい名を呟き、タリアの(なめ)らかな項部(こうぶ)に右手を滑り込ませ、ゆっくり引き寄せた。


 「ん……」


 弾力のあるふっくらした唇が(ほむら)の背筋を震わせる。間近で(まぶた)を瞑ったタリアの長い睫毛(まつげ)、漂う桜の香りは(ほの)かに甘い。


 「帰ろうタリア、帰って続きがしたい。タリアのすべてを望んでいい資格があるよね、俺には」


 火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)上位神(じょういしん)タリアの正真正銘、創世(そうせい)宇宙を含める万物を創造し天帝(てんてい)――天上皇(てんじょうおう)が認め前途を祝した夫だ。一介の神は天上皇(てんじょうおう)の次に清らかで(たぐ)(まれ)神体(しんたい)上位神(じょういしん)に直接接触はできないが、(ほむら)は無論、種族は違えど立場上、タリアに触れる際の許可はいらない。


 「……資格はもちろんある。でも太陽が高いし、村人が訪ねてくる可能性もある」


 「ああ大丈夫、俺が結界の(とばり)を下ろすの得意だって知ってるでしょ? タリアの可愛い声は外に漏れないよ。物音や気配も消せるし、ね」


 タリアの懸念を拭う返しをした(ほむら)は、タリアの右手を取り、自分の期待で高鳴る心臓付近に押し付けた。伝わる鼓動は速く、劣情(れつじょう)が剥き出しで、極極(ごくごく)生々しい。


 タリアは(ほむら)の誘いに耳朶(じだ)を赤くしている。


 「……、……」


 そして暫し迷った挙句、天上界で宣言されている喜びと満足の源泉――愛を語らう行為を拒めず、やや目線を地面に、承諾の意味でこくりと頷いた。


 「可愛い……」


 恥ずかしがるタリアの(ほお)に、(ほむら)が整った鼻先を摺り寄せる。儚く尊いタリアの闇を跳ね返す(ぎょく)の魂は純一無雑(じゅんいつむざつ)で一滴の濁りもない。


 (ほむら)は自分の心臓が万一、生まれた火山にて滅び、天地が変遷(へんせん)しようとも、愛しいタリアを忘れない灵魂(れいこん)で一心、秋の満月に祈り、新鮮な春雨(しゅんう)で咲いた花と真心、誠実を捧げ、タリアの傍にいる決意だ。反動のないこの誓いは永久で虚言にない。事実、タリアも既知している。


 目笑(もくしょう)を交わすふたりの生涯は永遠と等しい。けれどお互い、恋心を抱き学んでいた。一分一秒が畢生(ひっせい)でどれ程に短い一頁(いちページ)で切ないか――。


 だからこそ目一杯いまを大切に、禍福(かふく)さえ楽しみ、成すべき徳行(とくぎょう)を積み重ね、ふたりで歩む明日の至高善(しこうぜん)を重視する。燦爛(さんらん)と爆ぜた粒を背景に微笑する(ほむら)とタリアは、与えられて掴んだ不滅の幸福で包まれていたのだった。

 

おはこんばんは、白师万游です(*'▽')

最後まで読んで頂きありがとうございます!


感想、レビュー、評価、いいね、ブクマ等々、

頂けると更新の励みになります(*´˘`*)/


また次回の更新もよろしくお願い致します٩(*´︶`*)۶

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