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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第一集:文歴官

 

 輝々(きき)と昇る太陽が真上にきた(うま)(こく)、下界のとある村にふたりの男神(おがみ)が降り立った。精妙(せいみょう)美事(みごと)に彫られてある神像を眺めたふたりは頷き合い、ひとりが藁葺屋根(わらぶきやね)で造られた、静かな環境に溶け込んでいる古い家の戸を叩いた。


 入口先の花壇に植えてある花々が、通りかかった(はやて)で揺れている。


 そして刹那(せつな)の沈黙後、風が花びらを(さら)った時、玄関の(かんぬき)が上がる音がした。ギイ、と鈍く扉が開けられる。ひょっこり姿を現した人物は天上界随一に美しいと(うた)われ猫も杓子(しゃくし)も胸を焦がす、天上皇(てんじょうおう)が創った最後の最高傑作、上位神(じょういしん)三美神(さんびしん)の一人、カリスの一柱タリアだ。


 タリアは拱手(きょうしゅ)し黙している客人、もとい、男神(おがみ)ふたりにきょとんとしていた。


 「キミ達は……」


 「…………」


 天上界で最も天上皇(てんじょうおう)に近い神体(しんたい)上位神(じょういしん)下位(かい)の神は直接の会話、接触は許されない。ふたりは天上界の掟を忠実に守り黙ったままだ。タリアは「えーと」と片頬(かたほお)を掻く仕草で困惑を表し、取り敢えず、対話の許可をする。


 「いいよ、言動を容認する」

 

 「文歴官(ぶんれきかん)神文(シェンウェン)中級三神(ちゅうきゅうさんしん)神官(しんかん)エヴァンゲロスと」


 「文歴官(ぶんれきかん)神文(シェンウェン)中級三神(ちゅうきゅうさんしん)神官(しんかん)アファナシィが」


 「上位神(じょういしん)タリア様に御挨拶申し上げます」


 ふたりは(つつし)んだ姿勢を崩さず、鄭重(ていじゅう)語調(ごちょう)で己の身分と名、属す官職(かんしょく)を名乗り、最終的に(こうべ)()れ、息ぴったりな阿吽(あうん)同声(どうせい)で述べた。継いで感謝を伝えるべく口を開いた者は、エヴァンゲロスだ。


 「不躾(ぶしつけ)な訪問にも(かか)わらず、下位(かい)容受(ようじゅ)するタリア様の御心(みこころ)万謝(ばんしゃ)申し上げます」


 二百歳と若いエヴァンゲロスは文歴官(ぶんれきかん)の服装規定、長袍(チャンパオ)に身を包んでいる。丈長で深銀灰(シェンインホイ)(しょく)だ。袖口の折り返しの配色は白で文歴官(ぶんれきかん)の新人、神文(シェンウェン)の立場を示していた。腰に薄紫色の革ベルトがあしらわれてある。丸い金の装飾が八つ並んでおり、金属部分に取り付けられた八つの短いベルト紐が魅力的だ。下は黒の(ずぼん)を穿いている。靴は黒い長靴(ちょうか)だ、地面に接した厚底は白い。


 凹凸(おうとつ)がハッキリしている凛々しい顔立ちだ。くっきりした二重瞼(ふたえまぶた)を囲んだ紫色の睫毛と同一の瞳は、かけているボストン型のサングラス奥で正義感を宿していた。ゴールドフレームが眩しいクリアライトイエローレンズのサングラスは無論、伊達眼鏡だ。


 髪色は京紫(きょうむらさき)で艶やかな色合いがいい。髪型は独特()つおしゃれなウルフカットだ。全体はミディアムマッシュベースのカットだが、襟足は長めにカットしてある。スパイラルパーマで癖付けされたアップバング、即ち前髪を立ち上げているスタイルは束感があって爽やかだ。


 背丈は190㎝弱、筋肉質の図体の割に威圧感はない。


 「清廉(せいれん)で尊くあらせられるタリア様の(けが)れ無き(まなこ)に、下位(かい)の我々を留めて頂き、万謝(ばんしゃ)申し上げます」


 続いてアファナシィが深謝(しんしゃ)を重ねた。


 こちらも二百歳と若く、文歴官(ぶんれきかん)の制服規定、エヴァンゲロスと同じ長袍(チャンパオ)を着衣している。黒い(ずぼん)、靴も然りだ。ただエヴァンゲロスと違い、アファナシィはベルトをしておらず、ネックレスを首にかけていた。金のチェーンは胸元付近まである。象嵌(ぞうがん)(ほどこ)した円形の翡翠(ひすい)()げた首飾りだ。円満と幸福、高貴と純潔を象徴する翡翠(ひすい)の品質は上等で気品があった。


 中性的で端正な顔はたまご型だ。蝋白(ラーパイ)色の明眸(めいぼう)はパッチリな二重瞼(ふたえまぶた)をしている。ふさふさな睫毛、鼻と唇の均整がいい。

 髪は白髪でミディアムヘアだ。レイヤーが入った蝋白(ラーパイ)色の軽い毛先は、ワンカール巻いて散らしてある。


 身長は183㎝で細身の体格だ。系統は言わずもがな、可愛い。


 「あー……うん、宜しくね。エヴァンゲロス、アファナシィ、楽にしてくれて構わない。私の性分か、位階(いかい)で神を分かちたくないんだ。もちろん上位神(じょういしん)(うやま)うキミ達は私達の誇りだよ、誤解しないで」


 ふたりの堅苦しい挨拶にタリアは眉尻を下げ、苦い笑みを浮かべつつ告げた。天上界の序列、秩序や掟は大事だ。決して破ってはならない。けれど、上位神(じょういしん)と崇められるのは数世紀と苦手だ。むしろ好んでいない。


 タリアの言葉にふたりは目端で意思疎通を図る。上位神(じょういしん)と思えぬ優しい命令、否、お願いに少々、戸惑った様子の一瞥(いちべつ)だ。


 「――タリア様の恩典(おんてん)、受け賜わりました」


 断る理由はない。ふたりは呼吸を一拍置き、同時に拱手(きょうしゅ)を解いた。


 「文歴官(ぶんれきかん)は軍事以外の行政事務を執り行う官職(かんしょく)だよね。地上の書物の保護や監視もしている。(おさ)は知恵を司る男神(おがみ)エアナブだ。彼は面識があるが、任務での関りは薄い。私にどんな用だ……?」


 もし地上で厄介な事件が発生すれば五事官(ごじかん)(おさ)ウリが届伝力(かいでんりき)で知らせてくる。故にその線はない。文歴官(ぶんれきかん)の来訪は初めてで皆目見当がつかないタリアは、色白で細い指を顎先に添え質問した。小首を傾げるタリアの仕草は可憐(かれん)佳麗(かれい)の暴力で、形容し難い(きらめ)きを浴びせられた男神(おがみ)ふたりは赤面している。


 「――タリア」


 そこへ突如、低い声が地を這った。(あか)い影がタリアの肩を引き寄せる。一辺の酸素を一瞬で奪ったかのような、剥き出しの殺意が侵食する空気は重々しい。


 「…………っ」


 ふたりは気配なく出現した、火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)に硬直する。恐怖で動かない両足、粟立(あわだ)つ肌、体中が警報を鳴らす異様な感覚に襲われていた。自然の火山が生んだ渾沌(こんとん)、神の天敵、火鬼(ひおに)禍々(まがまが)しい(じゃ)は純血で恐ろしい。ふたりの脳裏に連想させた単語は「消滅」だ。


 俯くエヴァンゲロスとアファナシィの顔色は(いちじる)しく悪い。タリアは原因である(ほむら)の右頬を撫で、暴圧を極めた鋭い眼光を和らげさせる。


 「(ほむら)、彼らは若い神官(しんかん)だ。虐めないで」


 「虐めていない」


 「ほら、私の後ろにいてくれ」


 反論は認めず、タリアは(ほむら)を自分の背に追いやった。196㎝ある(ほむら)は一見、隠れてはいないものの、幾何(いくばく)唾棄(だき)厭忌(えんき)を含んだ眼勢(がんせい)は沈静化している。()まった(つば)をようやく飲み込めたエヴァンゲロスとアファナシィは心中で安堵し、上位神(じょういしん)たる高潔なタリアが翼のない下神(かしん)の自分達を気遣う対応に益々(ますます)、感服した。


 エヴァンゲロスは一度下唇(かしん)を噛み、タリアを見据えると、火鬼(ひおに)の登場で途切れていた先程の質問に答える。冷静さを保った虹彩(こうさい)は誠実を灯し、微動だにしていない。


 「……タリア様、文歴官(ぶんれきかん)課役(かえき)として特段の謁見(えっけん)(よし)はないのです。久しぶりの下界で任務を終え、先日、結婚なされたタリア様がここの村におられると聞き、懲罰を覚悟の上、ご尊顔を拝する栄光をと参った次第――」


 「いえタリア様っ、僕が浮薄(ふはく)卑劣(ひれつ)だったのです! 文歴官(ぶんれきかん)(おさ)エアナブの息子エヴァンゲロスと、許万官(きょばんかん)(おさ)テイソンの息子の僕だったら推尊(すいそん)するタリア様に拝謁(はいえつ)することが叶うかと……! 友で幼馴染のハオティエンやウォンヌがタリア様の護衛を全うする雄姿(ゆうし)が、恥ずかしくも羨ましく……、『やめておけ』とエヴァンゲロスに注意されましたが説得し、いまに至ります」


 エヴァンゲロスの語尾を掻き消す勢いでアファナシィが訂正した。一滴と偽りが混じっていない細声(ほそごえ)は小刻みに震えている。


 瞬きを繰り返すタリアの透き通った桜色の天眼(てんがん)は読めない。されど、ふたりはタリアが不快を抱き、確実に遅い門前払いを食らうと諦念(ていねん)した。


 が、予想だにしない反応をされる。


 「へえ! キミ達はエアナブとテイソンの息子でハオティエンやウォンヌの友達だったのか! 謝罪はいい、嬉しい経緯だ。会いに来てくれてありがとう。これも何かの(えん)だ、丁度お茶を淹れたところだし、狭いが寄って行ってくれ。お腹は減ってない? 下界の食は得意かな?」


 「え? いや……」


 上位神(じょういしん)下神(かしん)に「ありがとう」などと極極(ごくごく)(まれ)だ。挙句、とびきりの笑顔が返ってきた。優雅が零れる微笑みの裏に怒りや呆れ、拒絶の感情は(まぎ)れていない。


 「さあ入って」


 「チッ……」


 (うら)らかに誘う女神の後方で、火鬼(ひおに)が露骨に舌打ちをし、エヴァンゲロスとアファナシィを睨んだ。温度差が激しいタリアと巨悪の根源火鬼(ひおに)、とんとん拍子で進む経験のない展開、押し寄せる究極の二択、善後(ぜんご)処置、ふたりの思考は追い付いていない。しかし気づけば「失礼します」と口走り、生と死が混在する門を潜っていたのだった。


おはこんばんは、白师万游です(*'▽')

最後まで読んで頂きありがとうございます!


感想、評価、レビュー、フォロー、いいね、ブクマ等々

頂けると更新の励みになります(*´˘`*)♡


いつも読みに来てくださっている皆さん、

本当にありがとうございます(๓´˘`๓)♡

11月に入り寒さも増してきたので、

お体に気を付けてお過ごしください(*ฅ́˘ฅ̀*)


また次回の更新もよろしくお願い致します⸜( ‘ ᵕ ‘ )⸝

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