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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第一集:とある鬼達の、刹那の災難


 (いぬ)(こく)正刻(せいこく)、タリアと(ほむら)鬼界(きかい)(りょう)(ひがし)獄楽街(ごくらくがい)にいた。


 「((ほむら)が統治する街はとても興味深いな)」


 紅い蒸気が覆う上空、赫灼(かくしゃく)と照らされた闇夜、立ち籠める臙脂(イェンチ)の霧が染めた幻怪(げんかい)な世界は下界と異なりどこか妖しく艶めかしい。


 「――タリア、離れないで」


 「――ああ、すまない(ほむら)


 統一感ある赤い外観の建物に加え、弓なりの紅い反橋(そりはし)や、温泉川を灯す手鞠(てまり)型の竹灯籠(たけとうろう)(つい )で最奥に(そび)え立つ十二階建ての紅い楼閣(ろうかく)を眺めていて、つい、気が逸れてしまっていた。タリアは謝りつつ、解けかけている腕を再度、引き締まった焔の右腕に絡める。(ほむら)は珍しく袖のない黒い漢服(かんふく)の装いだ。タリアは以前、凛活街(りんかつがい)で購入した変装用の白い鬼角を頭部に装着し、白と淡い桜色で愛らしい襦裙(じゅくん)を着用している。無論タリアの衣は(ほむら)が用意したものだ。


 陰と陽、邪と善、そんな対照的な雰囲気を(かも)し出す見目麗しい二人は、ただ歩いているだけでも目立っていた。


 「……孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様だ」


 「……じゃあ隣にいる女鬼(めおに)が噂の」


 「……結婚したってマジだったのか?」


 「……獄楽街(ごくらくがい)で『孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様が求婚していた』って、悪質な風聞(ふうぶん)だと思ってたぜ」


 「……おい見ろ、女鬼(めおに)と揃いの指環を()めてるぞ」


 「……ありゃ鬼界(きかい)で希少な天然水晶じゃねえか!」


 二人が左手薬指に嵌めている濁りのない赤い水晶の指環は、洗練を極めた上品な輝きを放っていて美しい。下っ端の鬼人(きじん)はまずお目にかかれない高価な品物だ。


 それ故、賭博をする赤鬼(あかおに)青鬼(あおおに)、大皿で酒を酌み交わす雑鬼(ざっき)や、通りに立って耳を(そばだ)てた鬼人(きじん)達の注目の的になっている。けれどタリアは微塵とその視線は(おろ)か、コソコソ話す会話にすら全く気づいていない。


 しかし鬼界(きかい)で最恐の三鬼(さんき)三災鬼(さんさいき)のひとり、天地に名を轟かす悪名高き火鬼(ひおに)孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)は違った。三鬼(さんき)の中で最も残酷、冷血、無慈悲な彼は死屍累々の頂点に君臨する、血を好んだ魑魅魍魎(ちみもうりょう)の化物さえ(おのの)く自然が生んだ渾沌の果て、神の天敵と呼ばれる鬼神(きじん)だ。彼の第六感は鋭敏で、()(いびつ)な性質が含まれている。


 「…………」


 無言で威圧した睛眸(せいぼう)は鋭い。


 「――――ッ」


 (ほむら)から垂れ流れる殺意の臭いに全員の喉仏がゴクリ、上下した。ここ獄楽街(ごくらくがい)はあらゆる快楽を限定しない幸福度で満ちた娯楽の区域だが、東の領主、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)の一声で簡単に命が奪われる場所だ。言い訳や反論は許されない。


 恐怖で青褪める周囲の面々、粟立てた全身が硬直している。張り詰めた空気に耐え切れず、呼吸を忘れ、失神する鬼達もいた。


 (みな)腹の太い図体だ、ドサリと倒れる音は大きい。それには天上界随一の鈍感を有した流石のタリアも反応する。


 「――ん? ……彼らはどうしたんだ?」


 きょろきょろ辺りを見渡し、物音の出所を発見したタリアは、艶のある桜色の長い睫毛を瞬かせた。心配で一歩、右足が出かける。が、(ほむら)がタリアの腰に片腕を回して止めた。


 「大丈夫」


 「大丈夫と思えない状況だ。様子が知りたい」


 「酔って、ああなった。自業自得だよ。介抱を嫌う連中だし、アイツらにとっては日常茶飯事だ。行かなくていい」


 「……本当に? 彼らは平気なのか?」


 確かに転がる鬼達の顔は真っ赤で、泥酔した様相(ようそう)だ。(ほむら)の説明に疑いの余地はない。されど手助けが要らないか、タリアは判断に困る。天上界の神は種族の差別なく、公平で平等の慈悲を注がなくてはならない。


 「うん、平気だよ。お前達、大事無(だいじな)いだろう?」


 タリアの憂いを拭うため突如、(ほむら)が鬼達に問いを投げた。低声で柔らかい口調とは裏腹に、顎を上げ、睥睨(へいげい)する両眼は禍々しい。


 決まった答えの選択肢はひとつだ。ひとりの青鬼(あおおに)が慌てて返答する。


 「はっ、はい!! 昨日と比べりゃ、そりゃあ可愛い醜態ですぜ! ぇえと……我らが統領の太太(タイタイ)とお見受けしますそちらの方ッ、お目汚しをッ、すみません!」


 時折、言葉に詰まりながらも、一言一句、歯切れのいい謝罪が響き渡った。一帯の雑音が掻き消される声量だ。


 「え? あ、いや、いいんだ謝らくていい。あまり呑み過ぎてはいけないよ、お酒は程々に」


 適切でない過剰な気遣いは相手を不快、または困惑させてしまう。タリアは唇を強張らせた一本角の青鬼に眉尻を下げ、取り敢えずの注意はしておいた。


 「はい! 仰る通りで!!」


 首が捥げる勢いで頷いた鬼にタリアは苦笑する。


 「ほらタリア、花火が打ち上がる前に楼閣(ろうかく)へ行こう」


 「ああ」


 今宵、二人が獄楽街(ごくらくがい)を訪れた目的と理由だ。(ほむら)に促されるタリアは二つ返事で素直に従った。善意で留まって迷惑はかけたくはない。

 

 タリアは不安げな表情をしている青鬼(あおおに)に小さく会釈をし、止めた歩みを再開する。女神の如く神々しい女鬼(めおに)と並んだ孤魅恐純(災難)も共に去り、残された鬼達は二人の背中が遠くなるや否やへたり込み、安堵の溜息を吐いていたのだった。

おはこんばんは、白师万游です(*'▽')

最後まで読んで頂きありがとうございますm(_ _"m)


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また次回の更新もよろしくお願い致します!


【太太】タイタイ

奥さん、奥方、の意味

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