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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第一集:ダイヤの指环(ジフアン)


 五百年前、人間は罪なき鬼の子供を二人なぶり殺しにした。


 火山が生んだ自然の渾沌(こんとん)、無慈悲が成す悪行で死屍累々(ししるいるい)亡骸(なきがら)の頂点に君臨する火鬼(ひおに)は、報復として三百の人間と五人の神官(しんかん)を殺す大罪を犯し、天地、宇宙、万物の創造主、自己完結した絶対真理で全知全能の天帝、天上皇(てんじょうおう)神札(しんさつ)にて、下界と鬼界(きかい)狭間(はざま)に封印される。


 しかし五百年後、天上皇(てんじょうおう)の数年に数回訪れる眠りと同時に、その封印の(ふだ)の効力が弱まっていると報告が上がった。それを豊かさと開花を司る男神(おがみ)上位神(じょういしん)タリアが耳にし、火鬼(ひおに)封印札(ふういんふだ)を新しく変えるため、下界へ降りたのだった。


 「――怖がらないで、私は君の味方だ」


 火鬼(ひおに)とタリア、ふたりの出会いは、偶然で必然の運命となる。

 火鬼(ひおに)上位神(じょういしん)タリアは惹かれ合い、互いを(いつく)しんだ未来へ進み、恋人期間を経て先日、天運(てんうん)の赤い糸で結ばれ、永遠の愛を誓い、結婚したのだった。


 タリアは生涯、火鬼(ひおに)に愛を、情けを、罪を学ばせる(やくめ)を担うことになったが無論、後悔などは一切していない。


 監視する側される側に不満のない不思議な因果を持つふたりは、今日も又、どちらからともなく合わさった小幅で同じ速度の時を歩んでいる。


 「タリア、疲れてない?」


 「平気だ、ありがとう」


 ――(さる)(こく)初刻(しょこく)、ふたりの姿は鬼界(きかい)の西にあった。


 鬼族(きぞく)で天地に悪名を轟かす三災鬼(さんさいき)三鬼(さんき)のひとり、乱螫(らんどく)惨非(ざんひ)が統治する領域だ。荒れた土地、(いばら)蔓延(はびこ)んだ光景が広がっている。景観の水分と色彩は乏しい。


 半刻(はんとき)前、乱螫(らんどく)惨非(ざんひ)から届いた手紙で(ほむら)が突如、「ちょっと鬼界(きかい)に行きたい」とタリアに申し出、今に至る経緯だ。

 (ちな)みに手紙は乱螫(らんどく)惨非(ざんひ)がふたりの結婚祝いにくれたサボテンが「ペッ」と唾付きで吐き出したものだ。サボテンは彼と通信を自在に行える能力を備えていた。


 「着いたよタリア、ここだ」


 辺りに何もない辺鄙(へんぴ)な場所で(ほむら)が止まる。荊棘(けいきょく)に囲まれ埋もれて外壁や看板、全体的な外観はまったく視認できないものの、長方形の入口らしき空洞があった。戸は嵌められていない。


 「支払いして受け取るだけだから、一分、待ってて。一歩も動かないで」


 (ほむら)はタリアの右頬を撫で、薄暗い内側に消える。


 「……何か買ったのかな?」


 何も聞かされていないタリアは小首を傾げていた。何を買ったのだろう、と鉛色(なまりいろ)ではっきりしない空を眺めた矢先、(ほむら)が戻ってくる。一考(いっこう)の余地もなかった。


 「タリア」


 「早かったね(ほむら)、一分も経っていない」


 「まあね、準備がよくて助かった。左手、いい?」


 「……? はい」


 タリアは疑問符を浮かべつつ、(ほむら)の右手に左手を乗せる。すらりと伸びた華奢(きゃしゃ)な白い指先、手入れされてある爪の先は綺麗だ。


 (ほむら)は左手でタリアの薬指を飾った赤い水晶の結婚指環を指の腹でなぞり、極限に細いガラスの輪で形成された指环(ジフアン)を結婚指輪に連ねる形で()めた。上になる輪の半分は数字の8を90度回転した無限大の記号だ。最大の輝きを放っているラウンドブリリアントカットされたダイヤモンドが中央にあり、極上の紅い涙型(なみだがた)のダイヤモンドが銀のチェーンでぶら下げられ、二重に煌いている。


 「鬼龍(きりゅう)の涙で作ったんだ。硝子(ガラス)は割れないよ安心して」


 「鬼龍の?」


 鬼龍(きりゅう)鬼界(きかい)の上空にいる生物だ。下界の地上に棲んだ龍神(りゅうじん)はたまに飛翔し天上界で拝めるが、四界(しかい)の龍達は天上界に昇らない故、タリアも数千年で数回、遭遇したかどうか記憶が曖昧になるくらい、稀覯(きこう)(しゅ)であった。


 問い返すタリアに(ほむら)が丁寧な口調で説明する。


 「うん。鬼龍(きりゅう)は百年に一回、一滴の感涙(かんるい)を流す。空気に触れたらダイヤモンドになる希少(きしょう)な涙だ。そろそろかなって(いばら)に入手するよう、頼んでいたんだ。ここはダイヤをカットして指環にしてくれる老舗だよ」


 (いばら)の突然の連絡や(ほむら)の急いだ行動、ここを訪問した理由が明らかになった。タリアは可憐で繊細な指环(ジフアン)を天に掲げる。美醜(びしゅう)を見分けた審美性(しんびせい)のいい設計でぴったりの大きさだ。


 光の粒を零す透明度の高いダイヤモンドは神々しい。


 「そうだったんだ。成程……、感涙(かんるい)か。とても美しいね、私が貰っていいの?」


 「もちろん、タリア以外に俺の愛はない。気に入った?」


 「うん……、嬉しい。ありがとう(ほむら)、大切にする」


 高価な贈り物より(ほむら)の気持ちが嬉しい。花々を顔付近で飛ばすタリアは満面の笑みを浮かべ、(ほむら)に抱き着いた。一生懸命、両腕に力を入れ、感謝を表している。


 「キミに愛される私は幸せ者だ。私も私の愛でキミを幸せにしたい」


 「……タリアが笑顔で俺の腕中(うでなか)にいる十分、幸せだよ」


 紡ぐタリアの言葉は尊い。(ほむら)はタリアをゆっくり掻き抱き、耳元で囁いた。蜜を含んだ甘い声音が(くすぐ)ったいタリアは耳介(じかい)を赤らめ、(ほむら)の胸元に逃げ小さく縮こまる。夫婦になって尚、こういった純粋無垢な反応をみせるタリアが、(ほむら)は可愛くて堪らない。


 ふたりは三十分程、店前で淡い桃色の雰囲気を醸し出していたのだった。外出したい店主が溜息交じりに引っ込んだ気遣いを、タリアは(・・・・)知る由も無かった。

 

おはようございます、白師万遊です(*´▽`*)❀

今日も最後まで読んで頂きありがとうございます(*´︶`*)♡


感想、評価、レビュー、いいね、ブクマ、フォロー等々、

頂けると更新の励みになります(๑´ლ`๑)嬉


また次回の更新もよろしくお願い致します(*ˊᗜˋ*)ノシ

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