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桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
*⋱✽⋰*❁番外篇 短篇❁*⋱✽⋰*
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第二集:鬼界随一の縫い師(その後)

 

 「――(われ)百罪百許(はくずいはくきょ)を授ずけられし神、地上に並ぶものなし」

 

 (ひつじ)(こく)正刻(せいこく)、タリアは下界にて移境扉(いけいひ)を開いた。


 移境扉(いけいひ)は別名、界道(かいどう)と言い、天上界の神々しか扱えない、鬼界(きかい)狐界(こかい)狼界(ろうかい)鹿界(しかかい)下界(げかい)、すべての五界(ごかい)を移動できる便利な能力だ。

 地面に円形を描き、(ふち)に添って天上界の文様(もんよう)や文字を並べ構成した図形の境界円(けいかいえん)は、神々の神力(しんりき)に反応し効果を発揮する。


 円の中央で目映い光の粒に包まれたタリアと(ほむら)は、一瞬で目的地たる鬼界(きかい)最東端(さいとうたん)の山に到着した。ふたりの両耳にぶら下がる滴型の赤い水晶の装身具(そうしんぐ)、フック部分が純金の耳飾りは、タリアの兄で(げん)堕神(だしん)のリイガウに結婚祝いで貰った贈り物だ。


 辺りは至って普通の森になる。道幅1.5メートル程の湿った山道はでこぼこしていた。周囲を見渡すタリアは白い鬼の角を二つ、装着している。星を散らせた長い睫毛が囲んでいる瞳は嬉々としていた。


 (ほむら)がタリアの左手を(さら)い、案内する。


 「足下に気を付けて、タリア」


 「ああ、ありがとう」


 タリアは(ほむら)に連れられ、勾配(こうばい)が緩やかな坂道を登った。風が織り成す木々の音色は心地が良い、清楚感を(ともな)った緑の香りが鼻腔(びくう)(くすぐ)る。もっと自然を堪能していたかったが十分も経たず、太陽の日差しを浴びる開放的な場所に辿り着いた。


 広がる平坦な一面の中に、巨大な鬼の右手が乗った八注(はっちゅう)様式、宝形造(ほうぎょうづくり)の殿がひっそり建っている。その後ろも同じ建物が三つ並んでいて、左は龍、真ん中は虎、右は蛇、が屋根に寝そべっていた。本物と同等の模造品は迫力がある。


 手前に佇んだ一階建ての殿の桟唐戸(さんからど)は、戸が嵌められていない。刹那、九字護身法(くじごしんぼう)の組手が赤文字で書かれた白布(しろぬの)暖簾(のれん)を潜り、「あ~だりいわ」と外に出てくる人物とタリアは目が合った。


 「…………」


 二本角の黒鬼(くろおに)は無言でタリアから視線をずらし、隣に立つ鬼界(きかい)火鬼(ひおに)(ほむら)の唐突で予定のない来訪にゆっくり首を傾げる。

 

 「……、孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様じゃねえか。何事だ?」


 「针裁(チェンツァイ)、キミに会いたい(・・・・)って、俺の嫁が」


 「あ、初めましてタリアです」


 タリアは簡略(かんりゃく)に名乗った。黒鬼(くろおに)こと针裁(チェンツァイ)がタリアを直視する両眼は鋭い。


 「……おいおいマジか孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様、嫁めっちゃ美人じゃねえかよ。女鬼(めおに)で断トツじゃねえの? あーオレとしたコトが、くっそ想像が甘かったわ」


 针裁(チェンツァイ)は数秒間タリアと見つめ合い、溜息交じりで呟いた。右手の平で己の(ひたい)を叩き、天を仰ぐ姿は悔しそうだ。


 「天地で一番の美人だって教えただろ」


 「あん? みんな自分の嫁は贔屓目(ひいきめ)で『一番だー、美人で可愛いー、世界一だー』つって自慢気味に誇張した印象を伝えてくるモンなんだよ。旦那側の情報は大半、当てに成んねえの」


 (ほむら)と屈託なく会話する针裁(チェンツァイ)は肩を竦めた(のち)、咳払いで喉を潤しタリアに訊ねる。


 「……自己紹介は苦手だ(はぶ)くぜ。面識ねえオレに会いたい(・・・・)って、何でだ?」

 

 「キミが作ってくれた花嫁衣裳はとても繊細で、優美(ゆうび)(ほどこ)された色彩豊かな刺繍や模様は綺麗だった。お陰で生涯の記憶に残る、良い思い出になったよ。短い時間で偉業を成し遂げたキミを誉れに思う、ありがとう针裁(チェンツァイ)


 彼は鬼界(きかい)随一の縫い師、()つ着物職人で、(ほむら)が婚儀衣裳を任せていた男鬼(おおに)だ。今回、日取りが三百年後から三日後と変更したにも(かか)わらず、限られる製作期間で丁寧に正確に妥協なく、熟練技で吉事(きちじ)に相応しい晴着を仕立ててくれた。


 自らの足で赴き、彼に直接、礼を述べるが道理だ。


 タリアは下界で生活が落ち着いた頃、(ほむら)前言(ぜんげん)の「会いたい(・・・・)」を懇願し、タリア一辺倒(いっぺんとう)でタリアの願いを無視しない(ほむら)がそれを叶え、現状に至る。


 「……女鬼(めおに)に礼を言われたの初めてで超絶コエーよ、鳥肌立ったわ。お前大丈夫か?」


 「アハハ……。大丈夫、正気だよ」


 「正気ねえ……孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様が結婚ってどんな天変地異の前触れだって思ったが……、まあお前なら納得だわ……。どこ出身だ? 白い角って雑鬼(ざっき)か? 孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様に脅されてんじゃねえよな?」


 怒涛の質問だ。最後の問いで(ほむら)の口端が艶やかに上がった。傾ける顔、灯った紅い虹彩(こうさい)禍々(まがまが)しい。


 「ハ、殺されたいか针裁(チェンツァイ)


 殺気を放つ(ほむら)をタリアは(なだ)め、正体がバレぬよう、しどろもどろ答える。


 「やめなさい(ほむら)、彼に悪気はない。针裁(チェンツァイ)、えーと……私は雑鬼(ざっき)で出身は……、すまない憶えていないんだ。互いの意思で決めた愛のある婚姻だよ、彼は私に誠実で脅したりしない」


 片頬(かたほお)を掻きつつ、微笑したタリアの笑みは柔らかい。畏怖の念を抱かせる儚さだ。


 「……へー。愛ね、愛……愛か驚くわ。まあ、申し分ねえ良い嫁さんに嫁いでもらったんじゃねえの? さすが孤魅(こみ)恐純(きょうじゅん)様だな、審美眼(しんびがん)()けてやがる」


 「フ、まあね」


 顎先を擦りながら褒めた针裁(チェンツァイ)に、両腕を組んで胸を張る(ほむら)が鼻を鳴らした。喜色を表す雰囲気で機嫌が良い。


 「二人共、ウチで茶ァ飲んでくか? 丁度、手が空いたところだしよ」


 「わあ、ありがとう! 折角だ(ほむら)、お邪魔させてもらおう」


 「うん」


 ふたつ返事する(ほむら)が心中で「タリアの服を(つい)でに何着か依頼しよう」と紡いだ言葉を、タリアと针裁(チェンツァイ)、ふたりは知る由も無かった。

おはようございます、白師万遊です(⑅•ᴗ•⑅)

最後まで読んで頂きありがとうございます!


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気づけば四月になっていました……(*´▽`*)❀

季節は早い桜は綺麗……ヾ(*ΦωΦ)ノ

今日は休日なのでゆっくりしたいと思います!


また次回の更新もよろしくお願い致します╰(*´︶`*)╯♡

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