表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
桜紅初恋(オウコウ・チューリエン)1月24日番外更新☆  作者: 白師万遊
第一幕:~.。.:*✽桜紅の出逢い✽*:.。.~
10/134

第九集:火鬼の正体

 

 「――道士様、道士様! こっちです! こっち!! 去年ジッちゃんが旅立っちまって、ちょっと村と離れてますが、誰も住んでねえんで!! 自由に使って下さい!!」


 「食べもんはちびっとですが野菜があっちに!!」


 「ゆっくりしてってくれなあ、道士様!!」


 「すまない、ありがとう皆さん」


 村人達の計らいで、泊まる場所を確保できた。村人達はぺこぺこ頭を下げ、事件解決に安心し各々の家に戻って行った。


 藁葺屋根(わらぶきやね)の小さな家だ。


 中は片付けてあって、何もない。

 野菜が、中央にある山桜の木が用いられた囲炉裏(いろり)(すみ)に置かれていた。継ぎ目は立派な木で囲炉裏鉤(いろりかぎ)に鍋がかかっているが、もちろん中は空で何も入っていない。(かまど)もあるが(まき)は囲炉裏に一本、貴重だ。


 「雨風を凌げればいい」


 焔は特に気にした様子はない。スタスタ囲炉裏の傍に行き、冷たい床板に座る。


 「寒いでしょタリア、いま暖める」


 焔は薪に火をつけた。火は不思議と心が休まる。焔の能力に感謝だ。


 「ありがとう。鬼力は大丈夫かい? 孤魅恐純(こみきょうじゅん)


 タリアも焔の正面に腰を下ろした。火鬼の名で呼ぶタリアに焔は肩を竦める。


 「すっかりね」


 火鬼――孤魅恐純、鬼界で最恐の三鬼(さんき)三災鬼(さんさいき)の一人だ。

 あと漆黒(しっこく)(いばら)と二人いるけれど孤魅恐純は魑魅魍魎(ちみもうりょう)を統べる別格の存在と名高い。


 「俺が恐い?」


 黙するタリアに焔は不安げだ。胡坐をかく組んだ膝に肘を突き、タリアの反応を窺っていた。


 「恐くないよ」


 「本当に?」


 「ああ本当だ、君は私を助けてくれた。恐いはずがない。誰かに庇ってもらうのは数百年ぶりかな、記憶にないずっと前だ。ありがとう」


 孤魅恐純と焔は同一鬼(どういつき)だ。彼の過去の行いは知っている。しかしタリアを助けた事実も本物、タリアは現在の焔の誠実な一面を否定したくない。


 「俺は五百年で初めてだった、助けてもらったの。天地(てんち)の誰にも助けられた経験はない、タリアが初めてだ」


 強い口調で焔は打ち明けた。神妙な面持ちだ。


 「君はいま幾つ?」


 「五百歳かな、封印期間の五百年は足さないで」


 成程、千歳弱の火鬼だ。計算するタリアに焔が怒る。


 「足さないで」


 「ハハッ、充分に若い。私は数えるのを()うにやめた年齢だ」


 タリアは天上皇が造った神、生きている年数は計り知れない。地上の千年もタリアにとっては刹那の時間だ。


 「タリアが下界にいる理由、当てようか」


 突然、焔が核心を突いた。驚くタリアに補足して言う。


 「下界に降りた本来の目的、って神官壱(しんかんいち)が言ってたでしょ」


 村人を殺した罪人を調べるか否か、押し問答していた先刻のやり取りだ。


 「神官壱って、ウォンヌだ彼は」


 「へえ、興味ないな」


 訂正するタリアに焔は反省しない。間を取り本質に触れる。


 「――で、タリアは俺を封印しに来たの?」


 「嘘はつかない。君を封印した(ふだ)の効力が弱まっていると報告があったんだ。私が下界に降り、現状を確かめ、新しい神札(しんさつ)で封印をし直す任務、だったんだ」


 淡々と正直に話すタリアは片頬をぽりぽり掻いた。本人は気づいていない長年の癖だ。


 「タリアが指名された理由は?」


 「指名じゃない、志願した。深い理由はない。天上皇の眠りで、銘銘(めいめい)、担う仕事で忙しい。でも私は暇な上位神だ」


 「暇な上位神、いいじゃないか面白い。お陰で俺はタリアと出逢えた、嬉しい」


 語調は弾んでいるが焔の表情は至って真剣だ。タリアは微笑み、同調した。


 「偶然はない、必然だ。(えん)かな、私も焔と出逢えて嬉しいよ。ところで焔、君は自分で封印を解いたのか?」


 タリアの認識は「封印が弱まっている」だ。タリアの素朴な疑問に焔が肯定する。


 「まあね。寝起きに鬼力の残量を確認した。徐々にじゃない、五百年で感覚ズレちゃっててさ、一気に鬼力放出だ馬鹿だよね。そしたら、弱まっていたボロ札が解けて鎖が砕けた」


 「ふむ……」


 タリアは合点がいった。辻褄は合っている。疑わしい点はない。


 孤魅恐純は鬼界と下界の狭間にある正浄山(せいじょうざん)、そこには一定の距離で長方形の巨大な岩が、六角形になるよう向かい合い聳え立っている。神の御言葉(みことば)が岩に刻まれており、無数の札と天上皇の神札(しんさつ)六枚が貼られてあった。それぞれの岩に巻かれた鎖は中央に延びている。その中心に焔が両手、両足、首を縛られ封印されていた。


 数百年の休眠で力のさじ加減を誤る者は多い。神も然りだ。焔は一気に鬼力を爆発させ、消耗、現在に至るのだろう。


 「五百年、千年、封印されてもいい。タリアになら構わない」


 焔は封印を拒絶するどころか自ら申し出た。


 「君の鬼力なら私を(かわ)し鬼界に逃げることも可能なのでは?」


 孤魅恐純は上位神と同等か、或いは上だ。一戦を交えるとなればタリアの敗北は必死である。


 「ハハッ、まあね。けどタリアに嫌われたくないし、やめておくよ。ただ、ひとつ条件がある」


 「条件?」


 自由を捨てる選択の条件だ。途轍もない要求かと思いきや、予想に反した希望だった。


 「毎日会いに来て、俺に」


 「――え」


 タリアはぽかんと呆ける。焔は人差し指を立て、指を左右に振った。チッチッチと舌を鳴らす。


 「大事な条件だ。タリアに毎日会える、二人がいいな」


 「はあ、まったく君は――大物だ」


 「まあね」


 タリアは無条件に等しい前提に脱力した。褒めていないが威張る焔は得意顔だ。


 「(普通の青年だよな……)」


 (ひい)でた火鬼、天上界は彼が他を傷付けない平和な地上を望んでいる。過去の過ちは消せないが封印の年月、五百年は酌量(しゃくりょう)の余地がある。過去、現在を一括りにしてはいけない。タリアは暫し思考を巡らせ、違う提案を持ち掛けた。


 「天上皇に再考してもらい、封印じゃなく、私の監視下にいる。っていうのはどうだろう?」


 「―――」


 タリアに意表を突かれ、焔が目を見張る。揺れた朱色の瞳に映る破顔したタリアは神々しい。


 「嫌だった?」


 「嫌じゃない。タリアの傍にいられるなら何だっていい」


 「じゃあ、決まりだ。天上皇の起床後に私が拝謁(はいえつ)する」


 交渉がとんとん拍子に運んだ。慈悲深いタリアを焔は懸念する。


 「タリアの立場に影響はない?」


 「あったとしても些細なことだ、気遣いはいらない大丈夫」


 「心配する」


 断言した焔の語気は鋭い。タリアは眉尻を下げ、苦笑した。


 「わかった。問題があれば君に相談しよう、約束だ」


 「うん。約束したし――はあ、ご飯にしよう」


 一応の合意で話題が移る。頷く焔は胸元で両手を組み合わせ、上に腕を伸ばし、背中の凝りを解した。満遍なく室内も暖かい。


 「もらった野菜でスープを作ろう」


 「いいね、手伝うよ」


 立ち上がるタリアを追って焔も腰を上げる。足取りは軽い。タリアは神に備わる能力で包丁や水を用意し、焔が囲炉裏にある鍋で準備を始めたのだった。

読んで下さりありがとうございます(*'ω'*)

ブックマーク&ポイント評価を頂けると励みになります!


ご感想、楽しみに待ってます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘シーンも華麗さがあって良いですね。 和風テイストなファンタジーって なろうでは少し珍しいので、 好きな人はとことん好きになる作品と思います。 というかもっと多くの読者に読まれるべき作品…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ