プロローグ
薄い桜色の長い髪がはらはら風で揺れている。
撫子色の深衣の袖を靡かせ、一人の男が駆け寄って来た。
五百年生きて初めて見る、美しくも儚い光景に釘付けとなった。
「――怖がらないで、私は君の味方だ」
涙など流したことがない目が熱くなる、その透き通る声は耳に優しい。自分を見下ろす瞳は光が反射していて、万華鏡の如く色鮮やかに輝いていた。
古代の人間がまだ森羅万象に信心深く信仰心が強かった時代――地上は下界、鬼界、狐界、狼界、鹿界、の五界と呼ばれる領域に分かれ、それぞれの歴史を刻んでいた。
遥か昔より天上界が見守り、助け、導き、時に試練を与える下界には人間が住んでいる。その下界を取り囲むように四つの界、所謂、四界が存在していた。
天上界の父である万物の天帝、天上皇を中心とする天地の神々を祀ることは下界の天子の権利であり義務でもあるが、下界の多くの老若男女は天を仰ぎ、天の御心を信じ、天に願いを放ち、神々を進行していた。
天上皇も又、愛すべき人間の祈願に耳を傾け神々に任務を与えた。下界の安寧を図り起こりうる問題を解決すること、自然の保護と五界の調和も然りである。
そして何よりは、か弱き人間に危害を及ぼす四界の人ならざる者達を征伐、加えて発生した事案の対処をするよう、神々を地上に降り立たせたのだった。