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《いいよね?もう、我慢したし良いよね?》


 走る、走る、走る。倒れそうになる足を、ふり続ける腕を、酸素が足りずに止まりそうになる肺を、無理矢理に動かして1歩、2歩と歩みを進める。


 出口の見えない暗い森の中を、ただ一人がむしゃらに進む。体は震え、涙や汗が溢れ出し熱いのか寒いのかすら分からない程俺の体は限界を迎えていた。


「はぁはぁ...はぁはぁ...」


 心臓の鼓動を強く感じる。ドクン、ドクンと煩い音は耳から離れようとせずに。

 

「え...?あれ?)


 急に、視界が揺れる。脳に、酸素が届いて無かった為かしばらく自分に何が起こったのか分からなかった。


「イッっ......‼︎あ、あぁああ」


強烈な鋭い痛みと赤く腫れた足を見て、俺は、ようやく自分が転んだということを理解できた。


「逃げなきゃ...はやく..」


 近くの木を、支えに立ち上がろうとするが体は鉛の様に重くまるで自分の体では無いと思われる程いう事を聞かなくなっていた。


 それでも前へ。


「は、ははっ...」


 声にもならない乾いた笑いが口から漏れる。そうだ、これはきっと期待した罰なのだろう。なんで、期待なんかしたんだ俺は...俺は...俺は。


 もはや、己が体を支えるだけの力は体に残されておらず。地面に倒れ込む。けれど、芋虫の様に自分の両腕を使って地面を這う。その歩みはもはや目を逸らしたくなる程痛々しい。


(なんで...俺...こんなになってまで...進んでるんだっけ...)


 体はボロ雑巾の様に。心は砕けた硝子の様に。けれども、少年はそれでも進み続けた。

 そして、それが功を成したのか掠れた目で俺は目の前の洞窟の様なものを見つける。


 ズル...ズル......と、ゆっくりとそれでも確実に洞窟へと向かう。だが、後一歩、後一歩の所で少年の意識は闇に落ちた。









 

遠くから声の様な物が聞こえる。誰だ?俺は死んだのか?駄目だ。意識が朦朧とする。頭の中がもやがかかった様だ。

 頭が痛い。このままじゃ、内側から割れてしまいそうだ。



「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 何か、、声の様な音と共に冷たいものが俺の頭に乗る。その心地よい冷たさが、先程までそこにあった不快さを和らげてくれる。


 ...そうだ。昔はよくこうやって母に看病してもらっけ。


「あ...おかぁ...さん...」


 その声は、無意識に喉から出していた。懐かしい母の記憶に、動かない手を伸ばす。



 俺は、母の懐かしい温もりと心地よい冷たさの中、もう一度意識を落とした。





















 今朝、家の前で男の子を拾った。それも、人間の男の子。他の子に食べられる前にすぐに襲おう(意味深)としたのだが、


「ひどい...」


 服は、ボロボロで全身傷だらけ。足に至っては、それ以上に痛々しく私はすぐに彼をベットへと運んだ。


「うぅ...」


 時より聞こえる微かなうめき声から、まだ僅かだが意識を感じるが、このままだと彼の命は危ないだろう。それにしても、


「はぁはぁ、美味しそう.....はっ、駄目‼︎まだ我慢しないと」


私は、幼体の為そこまで性欲を感じないと思っていたのだが、初めて見た男の人は私にとてつもない衝撃を与えた。


 汗をかいているせいか、男性特有のいい匂いが部屋中を包み込み私は無意識に唾を飲み込む。それに、破れた衣服から見える肌が余計に私に彼が男だという事を認識させた。


 私は、彼をベットに乗せて顔に手を乗せてみる。彼の体温が、息遣いが、その汗が、私の心と体を熱く沸騰させる。私は、既に我慢が出来なくなっていた。


「いいよね?もう、我慢したし良いよね?」


 誰に、聞くまでもなく私は声をあげる。人生で、一回会えるだけでも幸運なのにそれを、遥かに上回る豪運。その奇跡を逃さない為にも、私は彼を...!!


「あ...おかぁ...さん...」


 不意に、声が聞こえた気がした。蚊の鳴くようなか細い小さな音。それでも、確かに聞こえたのだ。駄目だ、彼は弱っているのに私はなんて事をしようと...。


 己が、過ちを戒めつつ顔を覗き込む。苦しそうにしていた彼は今は安らかに寝息をたてている。その幸せそうな顔になんだか私も嬉しくなる。


 そうだ。今の彼を守れるのは私しか居ないのだ。見たところ護衛も付けずに深き森にいるなんてきっと訳ありなんだろう。だが、大丈夫だろうか...。


不安が、頭をよぎる。ただのスライムである私が果たしてこの森の中で彼を守ったまま生きられるだろうか?

 もし、上位種である妖狐や強力な群れを持つウルフ族、他にもいろんな種族がいる中、彼目掛けて襲いかかって来たとすれば、私じゃ例え天地がびっくりが返っても勝つのは無理だろう。


 駄目だ。私が、不安になってたら彼に余計な心配をさせてしまう。私が、私だけが彼を守れるんだから。


「私は、何があっても貴方を守るから...‼︎」


 私は、この日死んでも彼の事を守ると強く心に誓うのであった。


 

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