《玄関はトラックなのか》
ハーレム。それは、男としての性を受けたなら誰しも一度は夢見た人類にとっての希望。だか、その存在は決して日常ではなし得ない。それでも、その触れざらる神秘にこそ世の男共はどこか心惹かれるのでは無いだろうか?
前置きはこのぐらいに。俺はここで宣言しよう。
俺は、ハーレムが大好きだ。よくあるハーレム系ものでもなんでも良い。諸君、一度目を閉じ想像して見てくれ。
男一人に対して、女の子沢山。それでいて、その女の子達は当然の様に無償の愛を捧げてくれる。
......最高じゃないか⁉︎妹、姉、隣の家に住むお姉さん、幼馴染からクラスの真面目の学級委員長はては、先生までその全てが愛してくれるのだぞ!?
おっと...いかん。つい熱く語ってしまった。結局俺がここまでで何を伝えたかったかというとだな。
「やっぱ、そういうのは現実ではあり得ないんだよなぁ...」
相神創は、繋がれた首輪を横目に呟いた。
Q.さて、何故俺がこうなったのか?
A.玄関はトラックだったから
それは、朝の出来事だ。
鳥の歌声で目を覚まし、朝のニュースの占いをBGMにしながら朝食を食べる。ここまではいつもの朝だ。
でも、玄関を開けたらそこは異世界だった。
いや、そうはならへんやろ。
...待て、待て待ていや、おかしいだろ⁉︎今の文章明らかに可笑しかっただろ。こんなのよくある異世界ものでしか見ないぞ。え?何?いつから俺は異世界物の主人公になったんだ。もしかしてうちの玄関はトラックだった??
てか、この少女達is誰??この鎖は一体⁉︎そもそもここ何処⁉︎無理よ?ここでハーレム系の主人公達みたいに直ぐに環境に適応して「君たちは一体...?」とか「ツゥ...!!ここは一体何処なんだ!!」とかそんなの言える訳無いだろ!!
それに、ほら見てよ彼女ら明らかに人間じゃ無いじゃん。だって、ケモ耳とから尻尾とか生えてるし...いや待てよ、これドッキリじゃね?ほら、最近YouT...
「ねぇ、もう食べちゃおうよ」
「駄目よ。ボスが帰ってきて無いでしょ。我慢よ、我慢」
おいおい、死んだわ俺。取り敢えず、もし無事にこの状況から生還出来たとしたら今朝の占い師にクレームを入れに行くか。何が人生最高の日だ。このままじゃ、人生最後の日じゃねぇか。
拳を強く握りしめ心に誓う。あの嘘ばかりの占い師に一撃入れてやるというそんな決意。だが、それも耳をつんざく咆哮を前に容易く崩壊してしまう。
「あっ、ボス達だ!!」
「ボス達が帰って来たわ!!」
少女達は尻尾を激しく揺らしながら外へと駆けていく。バタバタとしたその足取りからでも充分に感情が伝わってくる。
しかし、それは同時に俺にとっては死の宣告でしか無い。お終いだぁ。このまま、一人も彼女も出来ずに食べられるんだ。頼むからせめて死ぬ前に机の引き出しの中は燃やさせてくれ。
今にも、泣き出しそうになりながらも俺はせめての抵抗として自らを縛る鎖をなんとか外れ無いかと、思考を巡らすと...
「ん...?え?あれ?」
鎖はどこにも繋がれていなかった。
恐怖と錯乱で気づかなかった。俺を繋いでいると思った鎖は、そもそも始めからどこにも繋がれてなどいなかったのだ。
これは彼女達のミスなのか?それとも、運命の悪戯か?でも、今はそんな事を考えている暇など1秒すら無い。
(今すぐにでも、ここから逃げ出さないと...!!)
急いで立ちあがろうと足に力を込めるが、どうにも上手く力が入らずその場によろめいてしまう。
(落ち着け...落ち着くんだ俺...まずは、素数を数えて...って、違うそんな事考えてる場合じゃ無い。ゆっくりだ、ゆっくりと立ち上がるんだ)
深呼吸をし、なんとか落ち着いたお陰もあってかなんとか立ち上がる事が出来そのまま逃げ出そうとする。
(早く、早くここから逃げないと!!)
走り出そうと前に出した足を前に、理性が俺の体に急ブレーキをかける。
(待てよ...今走って逃げても下手に物音を立てるだけでまた捕まる可能性高い。なら、ここは潜伏しながら行くのが最適)
普段の妄想とゲームで鍛えた潜伏スキルが、きっと俺を引き止めてくれたのだろう。
さて、逃げる機会を逃したら待つのは死。その一回のチャンスを台無しにしてはいけない。慎重かつ出来るだけ素早く行わなければいけない。
ゆっくりと音を立てずに、窓から外の様子を覗き込む。運良く外には誰かが立っている様子も無く見張りはいない様だ。
それにしてもというべきか。やはりここは日本ではない様だ。
親の帰りを、喜ぶ者。仕留めた獲物を、両手に抱え何処かに運ぶ者。獲物の後処理をする者。その全ての住人に先程の少女達の様しっかりと耳と尻尾が付いていたのであった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ...やった...やったぞ!!無事に、逃げられたんだ‼︎」
家の配置や周りの音のお陰もあってか流石の獣人でも、俺のたてる小さな物音には気づかず難なく脱出する事に成功した。
なお、首輪はそのままなのだが...まぁ、命がある分マシだと思おう。
全速力で久しぶりに走ったのと、さっきまでの恐怖心が薄れたのもあってか俺はその場にへたり込んだ。
いつもは不快な汗も、今は心地よく生きているという実感を湧かせてくれる。
「あぁ、生きてるって、本当素晴らしいな」
「えぇ、そうですね。生きてるって素晴らしいですよね」
あぁ、タンポポ?が風で揺れてる。ふふっ、蝶々さんも飛んでるなぁ。ははっ、平和だなぁ......さて...と...
「平和っていいよなぁ...」
「ふふっ、そうですよね。こんなにも、素敵な殿方との出会いを与えてくれる世界に感謝ですね」
ゆっくりと俺はその場から立ち上がりおもむろに準備体操を始める。その間、決して横を向かない。
「も、もうじき、春かなぁ...?」
「春?聞いたこと無いですけど、なんだか、素敵な言葉ですねぇ」
「アハハ.....ははっ、は?」
急いでその場から走り出す。ふざけんなよ⁉︎何がたんぽぽだよ何が蝶々さんだよ。てか誰⁉︎どなた!?いや、やっぱり良い。知りたくない。絶対知らない方が良い気がする。
俺の足は既に限界を迎えているのだが、今は少しでも距離を取るために走る。
「追いかけっこですか?良いですね。愛する二人が互いを求めて追いかける...あぁ、考えただけで熱ってしまいそうです‼︎」
何言ってんだこいつ!?頭おかしいんじゃねぇの⁉︎
てか、待って。声めっちゃ、近いんだわ。なんなら、真後ろなんだわ。
「ふふっ、ふぅ〜」
「ヒィッ...‼︎」
首筋に、息を吹きかけられゾクッというこそばゆいい感触ともに思いっきり前のめりに倒れる。
「あだっ、うぅ...」
倒れた体を起こし直ぐにでもこの場所から立ち去ろうとするが...
「あっ、、、」
目が...合ってしまった。女は、自身の黒く長い髪を風になびかせ俺の前に立っていた。巫女服の様な服装、丸みを帯びた黒い尻尾。そして、獣耳。
決して、日常ではあり得ない見た目をしている物の彼女のその顔はどこか儚げな面影を感じさせる美少女だった...
ら、どんなに良かっただろうか。だが、残念だが実際にはまだ続きがある。
まず、服装。興奮している為かそれとも先程走ったからなのかは、分からないがともかく彼女の服装は側から見たら、あまりよろしくない物になっていた。
スカートから覗く生足は、透き通る様に白くしかし、どこか色っぽさを感じさせる。衿に至っては、ぶらんと右肩まで垂れ下がりあと少しで、大事な所が見えてしまう所まで下がっていた。
そして、上を見上げると、
「ヒッ..‼︎」
顔を、これでもかという程紅く染め上げ今にでも、襲いかかってきそうな獣がそこにはいた。目の前の獣には、一瞬感じた清楚の面影など微塵も感じられず口から、涎の様な液体が垂れ流されていた。誰だよ、儚げとか言った奴。
「あぁ、なんて可愛らしい殿方なの。さぁ、私と一緒にいい事しましょう?」
「oh...」