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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
90/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【90】

「……はっ!」

 気絶から目を覚ますと、辺りはすっかり暗くなっていた。

 見覚えのない天井だが、どうやら屋内に寝かせてもらっていたらしい。

 何がどうなったか思い出しつつ起き上がろうとした俺だったが、

「んん……」

 腕に絡まる温かな感触にそちらを見て、思わずごくりと生唾を飲んでしまった。

 眠っていた俺の腕に抱き着くような形で、ハンナが眠っていた。

 穏やかな寝息を立てる姿に、ついつい見惚れてしまう。

 あまりにも無防備な様子だが、幸い俺はハンナの夫である。何も問題はない。

 かと言って、ここで何か事を起こすわけにもいかない。

 たぶんだが、俺たちが寝ているのはどこかの元国民の家だろう。

 よそ様の土地で、仲間たちと一緒に来て暴れた後に民家を奪ってお楽しみなんて、どんな悪党だって話だ。

 いやそもそも、寝ているハンナに勝手に手を出すようなことは決してしないが。

 しかし、このままだと起き上がることもままならない。

 なんとかして、ハンナを起こすことなく抜け出したいものだが、彼女の腕はしっかりと俺をホールドしてしまっている。

 こればっかりは仕方がないか、ともうひと眠りすべく目を閉じた俺は、きぃ、と扉が開くような、小さな物音を耳にした。

 聞こえた場所からして、たぶんこの部屋の入口。

 寝転がった俺らの足元側からそんな音がした理由は、シンプルに考えるなら、たまたましまりの悪い扉が風で開いたか、侵入者があるか、ってところだ。

 あいにくと俺は武人とかではないので、気配を探ったりするのはそこまで得意じゃない。

 とはいえ、伊達に魔王と戦ったりしてきたわけでもないので、人がこっそり動いてる気配ぐらいなら多少感じ取れるつもりだ。

 抜き足差し足、のつもりなんだろうが、多少床が軋んでしまっている。

 音は軽いし、たぶん男ではないんだろうが、さて、どうしたものか。

 俺が1人で寝ていて、そこに入ってくるだけなんだったら放置でも良いんだが、あいにくと今はハンナが横で寝ている。

 ハンナに危害が加わるようだったら、許すわけにはいかない。

 彼女を起こしてしまうのは本意ではないが、ここは、背に腹は代えられない、ということで、動くとしよう。

 近づいてくる何者かに対して、距離が十分に詰まったなと思った辺りで、バサッ、と被っていた毛布を被せ浴びせる。

「わぷっ!」

 怯んでいる様子の向こうが動く前に、俺は起き上がって攻撃、しようと思ったのだが、

「うぉっ!」

 がっちりとハンナがホールドしている腕が全く抜けなかった。

 普段の温和でふわふわした感じから忘れがちだが、ハンナは俺よりずっと身体能力が高い。

 細くて柔らかな腕をしているくせに、中身はしっかりとエルフのスーパーパワーで満ちているのだ。

 人間なんぞと比べ物にならない彼女の腕力が、無意識下ということもあって、容赦なく俺の腕を捕まえることに使われてしまっている。

 これでもエルフの中では非力な方だというんだからびっくりだ。

 というわけで、勢い良く起き上がろうとした努力も虚しく、俺は再びベッドの上に転がされてしまった。

 マズい、と身構える間もなく、入ってきたやつがシーツを引き剥がして声を上げる。

「いきなり何の真似をするのだ、貴様ぁ!」

 その声を聞いた瞬間、一気に気が抜けてしまった。

「何してんだ、ルジオ」

「それはこちらが言いたいのだがな!?」

 部屋に入ってきたのは、ルジオだった。

 ぶんすこしているルジオは枕を抱えており、国民たちにもらったのか、寝巻らしきゆったりとした白い服を着ていた。

「悪いな、侵入者かと思ってさ」

「む、それは、その……」

 平謝りする俺に、ルジオはルジオで気まずそうに目を逸らす。

 何だこの反応、と首を傾げる俺に、ルジオは半分枕に顔を埋めながら、少し照れた様子で上目遣いに聞いてきた。

「一緒に、寝たいと思って……」

 うーむ、可愛い。

 あのルジオがこんだけしおらしくなってるだなんて、やっぱり幻覚の俺、相当すごかったんじゃないか?

 とはいえ、この姿に勝てるやつは基本的にいないと思う。

 これが父性か。

「いいぞ、来な」

 俺は毛布を取ってもらって、軽く詰めてスペースを作った。

 いくら今のルジオが小さいとはいえ、さすがに3人でベッド1つは中々に狭い。

 体を横にしたいところなのだが、あいにくとハンナに腕を取られてしまっているので、それも厳しい。

 動かせない腕を下にしたらハンナの腕も巻き込んでしまうし、逆側はそもそも向けないし、といった具合だ。

 仕方ないのでルジオにも横向きで寝てもらうことにしたのだが、

「お、落ち着かない……」

 右でハンナが、左でルジオが寝ている形になるわけだか、どちらも顔を向けてきているので、なんとも、こそばゆい落ち着かなさだ。

 こんな状態でもうひと眠りとかできるのか? 無理では?

「ふふ、こういうのも、ちょっと憧れていたのだ」

 嬉しそうに笑うルジオは、ハンナの真似をしているのか、同じようにして俺の左腕に抱き着くようにしてきた。

 ああもう、完璧に身動きがとれなくなってしまった。

「おやすみ、ユウキ」

 静かにそう告げると、ルジオはあっさりと寝息を立て始める。

 俺が何か言う間もなく、2人の間に挟まれた俺は、いつか寝落ちできることを願いながら、静かに天井を見つめるのだった。


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