俺の嫁はエルフ受けが悪い【87】
「何しやがるんだてめぇら!」
叫び声をあげながら飛び上がるように起きた虎のような姿の彼女は、俺らが取り囲んでいる状況と、自分の縛り上げられている状態を認識して、拗ねたような顔でそっぽを向きながら、ぶっきらぼうに続けた。
「早くこれ、拭いてくれよ」
「んー? 意外とすぐ静かになったねぇ。もうちょい噛みついてくるかと思ったのに」
言いながら、タンポポは彼女の鼻下に塗った気付け薬を拭った。
「あ、しばらく臭いは取れないと思うから、そこは諦めてね」
「マジかよ……」
げんなりした顔をしている彼女を見て、俺は内心ホッとしていた。
てっきりもう少しばかり落ち込むなり、心にダメージを負うなりしているもんかと思っていたわけだが、そうでもないみたいだ。
いや、もしかしたら表面的にはそう見えるってだけで、少なからずダメージは負っているのかもしれない。
どちらにしても、彼女にはいろいろと聞かなきゃならないことがある。
さて、どこからどう話したもんか、と考えていると、
「とりあえず、あんた名前は?」
静観していたザクロが問いかけた。
「ラコだ。てめぇらこそ、名前ぐらい教えろよ」
「……あんた、状況分かってるわけ?」
「アタシらの国は負けた、でもアタシには聞くべきことがある、その価値があるから生かしてる、ってとこだろ? だったらアタシがどんな態度を取ったって殺される心配はないだろ。それに」
「それに?」
「非道なやつらだったら、アタシも国の連中もとっくにまとめて全部消されてる。だから、あんたらの善意に付け込ませてもらうってだけだ」
不遜な態度の彼女にザクロは冷めた目を向けてはいたが、やがて「はぁ」とため息を吐くとひらひらと手を左右に振った。
「私が話してるとダメね、ただ無駄な喧嘩が増えそうだし。任せるわ」
「あはは、2人はけっこう気が合いそうだねぇ」
「どこが?」
「どこがだよ?」
「そういうとことかだよ。まあいいや、続きは僕とユウキで引き継ぐとして、うん、まずは自己紹介とかもしないとだね」
楽しそうに笑うタンポポが司会進行を務める形で、俺たちは互いの名前を教え合い、簡単な現状に関するすり合わせも行っていった。
「……マジかよ」
「マジだよー。君のご主人様は失われて、国は御覧の通り、うーん、崩壊? したって感じ。君のお仲間はあの通りがっちり変えられてしまった。しかも、ご主人様はヤバそうな女に持ってかれちゃってるし、いかにも彼の関係者って感じだった。どう考えても何らかの理由とか因縁があって持って行った感じに見えたし、その辺含めて話を聞きたいんだよね。もちろん君もあのお友達らに関しても、僕たちでできる限りの手は尽くしてあげるけど、そのためにも協力してほしいんだ。まあ、一方的にぶん殴りに来た連中の言い分を信じるかは君次第だとは思うけど」
一気に情報を詰め込まれたせいで、彼女はまた混乱しているようだったが、タンポポの言葉に対しては意外と素直に首を縦に振ってくれた。
「あいつが連れてかれた、ってんなら、アタシが協力しない理由はねぇ。お前らがあいつを連れ戻す手助けをしてくれる、ってんならなおさらだ」
「へぇー、見た目より柔軟だねぇ。まあこっちとしちゃ助かるけどさ、それでいいの?」
「……何が言いたいんだよ」
「いやまあ、うーん、君もそうなんだけどさ。あの子たちといい、なんというか、作り込みの甘さを感じるんだよねぇ、やっぱり」
「は?」
タンポポはサクラたちの指導を受け、楽しそうに給仕して回る元国民たちを見つめながら、どこか呆れたような目で言う。
「言っちゃなんだけど、君のご主人様が安っぽいというか、安易なオタクだったから能力をその程度にしか使えなかったのが原因、だとは思うんだけどさぁ」
「てめぇ、あいつのことを――」
「ああごめん、彼を馬鹿にするつもりはなくてさ。君自身の柔軟さは、なんというか、中身の薄さから来ているんだろうな、とは思うんだけど、それは良い部分だと思っててね。僕が言いたいのはどういうことかっていうと、このまま放置するのは良くないだろうな、ってこと」
考え込むようなタンポポに、ラコは怪訝そうな顔を向けた。
「どういうことだ?」
俺とハンナは、不思議に思って顔を見合わせる。
ヒイラギやザクロはどうやら分かっている様子だ。
「んーとね、僕らがここに来たのってさ、彼、あー、ジンジだっけ? あの転生者の能力がヤバいから、ってことだったよね?」
「ええ」
「そうだな」
肯定するザクロとヒイラギだが、俺は首を傾げてしまった。
「え、あいつが国を作って大変なことをしそうだからそれを止めに来た、んじゃないのか?」
それに、タンポポは苦笑いを浮かべて返す。
「まあそれもあるだろうけど、根本的な解決をしないとそういうのは意味ないでしょ? どっちかというと危険視されていたのは彼の能力であって、彼のやろうとしたことじゃないんだろうな、ってこと。んでそれはザクロたちが肯定してくれたから確定だとして、だ。そのヤバい能力持ちが今連れ去られた、ってのは大変危険だよね、って思ったわけ」
「なるほど……」
「んで、そのヤバさを認識した上で、君に質問だ」
タンポポはにっこりと笑って椅子を降りると、縛られた状態のラコに目線を合わせて尋ねた。
「あのヤバげな天使っぽい子、あれは何者?」
タンポポの問いを補足するように、俺も口を開く。
「オモト、ってあいつは名乗ってた。何か知らないか?」
すると、ラコは少し考えた後、俺らをぐるっと見回してから言った。
「マジで、オモト、って名乗ってたのか?」
「ああ」
「マジか……あいつは、昔ジンジが作ったやつで、アタシらの、そうだな、試作品、だったはずのやつだ」
作者多忙につき、更新が遅れてしまいました。
来週からはまた土曜日19時更新になります。




