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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
86/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【86】

「いやー、のんびりしてた僕たちも悪いよ? 余裕だろうからってさ、ゆっくり来たのは悪かったよ。でもさぁ」

 俺たちと合流したタンポポは、呆れ顔で目の前に並んだ連中を見た。

「1人は化け物になってるし、1人は完璧に気絶してるし、んでこれはもう1人なの? ただの肉の塊じゃなくて?」

 俺とタンポポを挟んで並んでいたのは、ジンジの配下だった3人娘である。

 もっとも、タンポポの言った通り、原型をとどめているのは1人だけなのだが。

「ってか、これがあの手のやつだったら、ザクロが燃やしてるあれはなんなの?」

 上がっている火柱を指差すタンポポに、ヒイラギは淡々と答えた。

「あれは残骸だ。異常な再生能力によって、切り落とした手が絡み合い、元の姿を取ろうとした結果だな」

「んじゃあのままいけばそのうち燃え付きそうかな?」

「おそらくは」

 そんなことを言っていると、ザクロが空から飛んできた。

「ねえ、あれなんだけど」

「そのままでいいみたいだぞ」

「え? どういうこと? ってか、それって、さっきヒイラギが切り出してたやつ? ってか、私の『プロミネンス』を止めといて後処理押し付けて消えたのはどうなの?」

 こちらもこちらで混乱しているようだ。

 ただでさえ混線続きでややこしい現状、ある程度の整理が――

「ユウキ」

「ん、ああ、サクラ……って、なんでそうなった?」

 声をかけてきた方を振り向くと、そこにはサクラとルジオ、そして、たくさんの国民たちの姿があった。

 しかも、よく見たら全員揃ってNPCみたいな感じから脱却してるし。

 マジで何があったんだ。

 とにもかくにも、さっぱり分からんことだらけ。

「……よし、とりあえず、全員で状況整理するか!」

 もう、なんか混乱し過ぎて頭が痛くなってきた。

 どうやらそれは皆も同じようで、それぞれに互いの作った状況を見ては不思議そうな顔をしたり、頭を抱えたりしていた。

 何はともあれ、ある程度戦闘もひと段落したと見ていいだろうし、ここは一度、腰を据えて話し合いをする必要があるだろう。

「お話をするの?」

「だったら椅子とテーブルと、お茶がいりますね!」

「用意しに行きましょうか。皆さん、お待ちになって」

 そうと決まれば、と動き出そうとした俺だったが、それよりも先に動き出したのは生き生きとした顔の国民たちだった。

 いやホント、何があったんだ、こいつらに。

「サクラとルジオが何かした、んだよな?」

 俺が聞くと、2人は顔を見合わせ、揃って頷きを返してきた。

「私が責任を持って魂を入れた。ルジオも納得の人間味溢れる姿になったよ」

「うむ、我のお墨付きである。素晴らしい職人だな、サクラは」

 うんうん、と妙に得意げなルジオに、それに誇らしげなサクラを見るに、どうやら共同作業から絆みたいなもんが生まれたようだ。

 どちらにも仲良くできそうな相手ができたってのは喜ばしい。

 まあ、この2人が仲良くしてる、ってのは世界的にはヤバいのかもしれんが、そこには目を瞑るとしよう。

 俺の管轄外です。

「んじゃまあ、用意してもらったら、改めて話すとするか」


◆◆◆


「――というわけで、俺が切り出した本体があれだ」

 ヒイラギがざっくりとしてくれた説明によると、まず、あいつが本体を切り出して、どこか安全なところに1度運んできたらしい。

 で、また戻ってきたわけだが、その頃にはすっかりあの手だらけの怪物は復活していた。

 俺も目の前のことでわりと手一杯だったので、再生の瞬間は見はぐったわけだが、ザクロはそこを見逃していなかった。

「で、私が元に戻ったあれを焼き切って縮めて、炎の柱に閉じ込めた、ってわけ。ヒイラギの言ったことが本当なら、そろそろ燃え尽きてるかしらね」

 ティーカップを傾けながらザクロが指を鳴らすと、激しく燃え続けていた火柱が一瞬で消え、今度は俺たちがお茶するテーブルの近くに魔法陣と共に出現した。

 そして、驚く間もなく火柱が消えたかと思えば、

「あ゛……あ゛あ゛……」

 魔法陣の上にスイカぐらのサイズ感の真っ黒に焼け焦げた塊だけが残った。

 少し警戒して見ていたが、どうにも再生する気配はない。

「ふむ、どうやら、多少なり残滓があるようだ」

 言いながら、ヒイラギは黒い塊を手に取ると、横たえていた肉塊の上に置く。

 すると、肉塊がもぞもぞと動き出し、まるで貝が口を開くかのように広がったかと思えば、黒い塊を丸呑みにして取り込んだ。

 おいおい、また来るかこれは、と立ち上がりかけた俺だったが、肉塊はその後少し動いたかと思うと、再び動かなくなってしまった。

「……大丈夫そう、か?」

「んー、じゃない? ってか、今更だけど、これは酷いねぇ」

 タンポポはすっかり大人しくなった肉塊と気を失ったままの怪物を見て、その瞳に憐みを強く浮かべていた。

「作られた命とはいえ、それを無理やりに作り変えるなんて、あまりにも惨いと思うよ。僕も作り出す系だから余計に頭に来るね」

 それに激しく同意するように頷くサクラ。

 彼女がやったこともある程度聞いたが、彼女は彼女なりにジンジの行いに思うところがあるのだろう。

「うーん、あの子たちはどうしたものかな。治す、ってのとも違うから、どこまでやってあげられるかなぁ」

「お前でも厳しいのか?」

「ただの状態異常とか、体のパーツがちぐはぐに切られて縫い付けられてる、とかだったらまだ何とかする手段も浮かんだかもだけど、あれは根幹から違う生き物に変換されてる、って感じだからねぇ。んー、極端に言うとだね」

 タンポポはカップを掲げて指さした。

「これを材料に、フォークを作りました、って感じ? カテゴリとしては食器だから、材料になったし結果も反映されてるけど、もしできたとしても、過程がどうあれ2つは全くの別物なわけだ。で、これが変身してるだけとかならまだしもそもそも違う存在として作り変えられてるとなったら、戻す、っていうのがそもそもあり得ないんだよ。やり直す、とかはそもそも通用しないんだ。もう違うものだからね、不可逆とかいうレベルじゃない。そもそもあの姿になる材料となったものはこの世にないし、あの姿のあの子たちにはかつての姿、なんて概念もない。あれが今であって、あの姿になった瞬間が1番古い過去なんだよ」

 その説明を受けながら、改めて彼女たちの方を見る。

 すっかり変わり果ててしまった2人と、そのままではいられた1人。

 かろうじて助けられた人がいて良かったと思うべきか、3人とも助けられたはずだと嘆くべきか。

 どちらにしても、ジンジの行いへの怒りと、自分の無力を呪うばかりだ。

「んでまあ、無理なもんは無理だからもう考えない方向でいくんだけど、こっからが僕から出せる今後のための提案ね」

 ぐっと残りのお茶を飲み干して、タンポポは言う。

「あの変えられちゃった2人に関してやれそうなのは2つ。1つは、かつての姿を残った子たちにヒアリングして、僕とサクラでそれっぽい姿に教育してあげること」

 残った子というのは、周囲で好きに過ごしている国民たちと、気絶している虎っぽい彼女だ。

「んでもう1つは、今の状態を受け入れてもらって、他者と生きられる形の教育を施すこと。どっちにしても今のままだとまともに誰かと一緒に生きられそうないからねぇ。他者に危害を加えるだけの魔物を野放しにはできないし、どっちにしても再教育は必要だと思うんだ。まあ、元々は僕1人でやるしかないかな、って思ってたんだけど、この様子だとサクラと一緒にやった方が良さそうだよね」

 ニヤリと笑みを向けるタンポポに、サクラはこくこく頷いていた。

 この3人娘に関してはタンポポたちに任せるのが良さそうか。

「どっちがいいかは、難しいとこだよね。勝手にこっちでやるのもどうかと思うし、とりあえずサクッと起こして聞いちゃう?」

「そうだな……そんなこと聞かれても困るって感じなら、俺たちで改めて話し合おう」

 OK、と頷いて、タンポポは席を立つと、念のため縛り上げてある虎っぽい女性の前にまで行き、何やら軟膏みたいなものを取り出した。

「げっ、あんたそれ……」

 そして、その軟膏を見たザクロが顔をしかめる。

 ヒイラギも、いつも以上に険しい顔をしていた。

 対してタンポポはにたーっと笑っている。なんなんだ。

「こういう時じゃなきゃ使わないからね、これ。せっかく作ったんだし、活用しないと!」

 そう言いながら、タンポポは気絶したまま項垂れた彼女の鼻下に、取り出した軟膏を塗りつけた。

 すると、

「ぎゃああああああああっ!!!!」

 すぐに絶叫が響き渡り、彼女は飛び上がって意識を取り戻すのだった。


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