俺の嫁はエルフ受けが悪い【84】
「いやぁ、いつも思うんだよね」
立ち昇る火柱、整列する住人、あちこちに生まれた瓦礫の山々を見ながら、タンポポは憂いを帯びた顔で言う。
「ああいうど派手な火柱だとか爆発だとかさ、ザクロはすごいじゃん」
「そうですねぇ、あんなにすごい魔法を次々使えるなんて、ザクロちゃんは本当にすごいです」
こくこくと頷きながら、ハンナも同じように火柱を見上げているが、こちらはいつも通り朗らかな様子だ。
「サクラたちもさ、さすがに魔王なだけあって、あんな人数相手にしてても全然平気だったわけでしょ? なんならただ倒したりするでもなく、あんな生き生きさせてさ」
「さすがですよね、サクラちゃん。作って見せてくれるお人形さんたちも、どなたも本当に生きてるみたいですし」
続けて、タンポポが視線を向けた先には、すっかり動かなくなった真っ二つのゲル状の何かがあった。
「んでヒイラギは意味不明に強いじゃん」
「ヒイラギさんの技術は私も驚きのものばかりです……あんな速度で動いたり戦ったりなんて、私が強化しても無理ですよ」
仲間たちが作った、数々の戦いの形跡。
人の手によって作られたとは考え難いほどの破壊の跡は、大半が今も燃えている怪物やユウキたちによって無力化されたジンジとその配下によるものだが、それらにさほど苦労もせず対処してしまったのが、ザクロたちの戦った結果である。
そういった、仲間たちの活躍を前に、タンポポは改めてため息を吐いた。
「いやぁ、ホント、皆のと比べると思うよ。僕の能力って、つくづく地味だなぁ、って……」
「そ、そんなことないですよ!」
慌ててフォローするハンナだったが、それでもタンポポの憂い顔は変わらない。
そんな彼女の様子を見て、ハンナは久しぶりの感覚にわずかな懐かしさを覚えながらも、厄介な状況に巻き込まれてしまったと困り果ててしまった。
「タンポポちゃんの能力だってすごいですよ! 私の魔法だけじゃあんなにすぐ毒に対処できませんでしたし、いつも出してくれる爆弾とか、銃とかもすごい威力ですし!」
「ああいうのもさぁ、そりゃ威力だったり性能に関しては僕だって良い物を出せてるって自信はあるよ? でもさ、やっぱ派手さがないよね。爆破するにしたって、ザクロの魔法の方がかっちょいいじゃん。こっちのは、こう、暴力感がすごいんだよね。ただただぶっ壊すためのもの、っていうかさ。魔法みたいなかっこいい魔法陣とか出ないしさぁ!」
くっそぉー! と大の字になってバタバタと暴れ始めるタンポポに、ハンナは苦笑いを浮かべるしかない。
タンポポちゃんがこんな拗ね方するの、いつ以来でしょうか……。
ハンナが思い出していたのは、かつて全員で揃って旅をしていた時のことだった。
◆◆◆
「ねぇ、どうしたらいいと思う!?」
「えーっと……」
それは、ユウキたちがパーティを組んである程度馴染んできた頃のこと。
幾度かの戦闘を経験したある日、唐突にタンポポがハンナを呼び出して聞いてきたのだ。
「僕の能力、皆と比べて地味過ぎない!?」
「それを私に言われましても……」
「ハンナだったら僕の悩みを理解してくれるかもと思ってさ。というか、ハンナも自分で思ったことないの?」
「私は、その、地味どころか異端者でしたので……」
「あーっ! そういう狡い属性持ってるんだ!」
「ず、狡い、ですか?」
「そうだよー! かっちょいいじゃん、異端者!」
「そういうものでしょうか……?」
「そういうもんなの! くっそぉー、ハンナは絶対仲間だと思ってたのにぃー!」
大の字になって駄々をこねるタンポポを見て、ハンナは苦笑いと共に首を傾げてしまった。
異端者が、かっちょいい、というのは、どういうことなのか?
ハンナからしてみれば、辛い記憶ばかりだったので、彼女の言っている意味がさっぱり分からなかった。
異世界の方々特有の感覚、というものでしょうか? ユウキさんに聞いてみたら分かりますかね?
そんなことを思っている間も、タンポポの拗ねっぷりは加速していく。
「だいたいさぁ、僕の能力、もっと分かりやすい感じにならなかったのかな? 何、なんでも作れる能力って! そりゃすごいかもしれないけど、結局何作れるかは僕次第なわけじゃん。ザクロの超強い魔法とか、ヒイラギの超強い剣の腕みたいなもっと分かりやすいのが良かったなぁ!」
「で、でも、タンポポちゃんの能力がなければ大変なことだってたくさんあったじゃないですか!」
「……例えば?」
足元から向けられたじとっとした視線に、ハンナはついつい目を逸らしてしまいながら、必死に頭を巡らせる。
「えーっと、ほら、地底湖の探索をする時に出してくれた、らいと、でしたっけ? あれはとっても便利でしたよ! 熱くもないし水の中でも使える灯り!」
ハンナは、初めて見たライトに痛く感動したことを思い出す。
光を用意すること自体は、魔法でわりと簡単に行うことができる。
しかし、手元や進行方向など、局所的な場所を照らすとなると多少難しく、さらには水の中であっても問題なく通すことのできる灯りとなってくると、これは複雑などと言うレベルではない魔法技術が必要だ。
それを、指先1つで点けたり消したりすることができるというのは、ハンナにとっては初めての経験であり、感動するぐらいの代物だったのだ。
だが、タンポポにとってはそうではないらしく、
「あれぐらいなら私たちの世界じゃ普通だからねぇ……それに、明るくなるからって派手な効果があるわけじゃないし……」
寝転がっても大して広がらない短めの髪をいじりながら、タンポポはいじけたような声を出した。
「じゃあ、えっと、あれはどうですか? 岩をどかーんって、吹き飛ばしたやつです!」
「ああ、あれはなんか、ダイナマイトとC4火薬の間みたいなものね……なんかこういうの映画で見たなー、ぐらいの感じで作ってみたんだけど、あれもねぇ」
「魔力も使わずにあんなこと、普通はできませんよ!」
「でもザクロの方がもっと威力出せるでしょ? 僕の能力でザクロと張り合うってなったら、もう水爆とか作らないと無理だしなぁ」
「えーっと、えーっと、とにかく、です!」
ザクロは寝転がっているタンポポを引っ張って起き上がらせ、彼女の肩に手を置いて、真っ直ぐに瞳を見つめながら、真剣に言った。
「私は、タンポポちゃんの能力はとってもすごいと思います! 確かにタンポポちゃんの言う通りかもしれませんけど、皆さんの力とそれぞれ比較できるってことがすごいことなんです。普通は、こんなにたくさんのことはできませんから!」
「それは、そうかもだけど」
「私なんて、エルフなのにできないことがたくさんあります。薬を作るのだって苦手ですし、魔法だって強化や治癒ばっかりが得意で、普通のエルフが使うような魔法はほとんど使えません。でもタンポポちゃんはなんだってできるじゃないですか!」
「む、むむ」
「私はそんなタンポポちゃんがすごいって思いますよ。私たちの中で、誰よりも実はすごいんじゃないかって思ってます」
「そ、そう?」
「そうです! タンポポちゃんが1番すごいです!」
力強く言い切るハンナに、タンポポは照れ臭そうに鼻の下を人差し指で擦った。
「へ、へへ、そうかな?」
「私が保証します。タンポポちゃんはすごいです。最高にすごい能力を持った人なんです!」
そうして言葉を重ねられるうちに、少しずつ、タンポポの顔にいつもの絵顔が戻っていった。
やがて、
「そこまで言われちゃったら、僕も悪い気はしないなぁ!」
どや顔で胸を張る、小さな姿が出来上がっていた。
「ハンナがこんなに褒めてくれるなんて、やっぱ僕も捨てたもんじゃないってことだよね!」
「そうですよ! だから、これからもその能力で、皆さんを助けてくださいね!」
「もっちろん! 任せてくれたまえ!」
はっはっはー! とすっかり元気を取り戻した彼女を見て、ハンナは内心胸を撫で降ろす。
と、同時に、ハンナは不安になる。
こんなにも載せられやすい性格で、この人は大丈夫なんでしょうか、と。
◆◆◆
「――ですから、タンポポちゃんはすごいんですから、これからもその調子で大丈夫です!」
「そっかぁ、ハンナがそんなに言ってくれるなら、きっと大丈夫だよね!」
そして現在。
かつてと同じように、ハンナが褒めに褒めることで、タンポポの機嫌もすっかり元通りになっていた。
昔と同じように、ハンナは思う。
タンポポちゃん、いざって時はちゃんとしてくれますから、きっと大丈夫ですよね……?




