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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
83/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【83】

「さて、と」

 まるで書類仕事でも片付けたかのような気の抜けた声をあげて、1つ伸びをしてからザクロは近くの瓦礫に腰かけた。

 絶えず燃え続けている怪物は、小さくなったり大きくなったりを繰り返しているように見えたが、その姿はおおよそ人間ぐらいの形で保たれようとしている。

 もっとも、再生能力らしきものが機能する度に再生した箇所が燃え尽きるため、完全な姿には決して戻りはしないのだが。

「本体は人間……ってわけじゃないわね、あれ。どうせ作ったキャラに変な改造でもしたんでしょうけど……どこまでも救えないやつ」

 ユウキたちがいるであろう方向を睨みながら、ザクロは呆れたようにため息を吐いた。

「ま、ヒイラギも行ったし、なるようになるでしょ。帰りの準備でもしとこ」

 帰宅用の魔法を用意する間にも、火柱は燃え続けるのだった。


◆◆◆


 大きな火柱が上がり、ある程度まで切り縮められた怪物がそれに飲まれると、そこにいた人々は皆、そちらを見て少しだけ動きを止めた。

 それは住人を蹂躙していた魔王たちも例外ではない。

「そろそろ、終わりかな」

 そう呟くサクラが振り向くと、

「私、これからはお土産作り以外にも挑戦してみます!」

「ああ、どうして今まで何も考えてこられなかったのかしら……」

「もっといい男見つけるためにも、女磨きしなきゃ!」

 生き生きと語り合う住人たちと、満足そうなポキの姿があった。

「サクラ、どう?」

「うん、いい感じ。魂が入った」

 うんうん、とこちらも同じく満足げに、サクラは頷く。

 サクラとしては、こちらを手早く済ませてユウキと一緒に行くつもりだったのだが、ついつい熱が入ってしまった。

 遡ること数十分。

 ユウキたちがようやく本陣に乗り込んだ辺りで、サクラは淡々と住人を潰していたが、それが余計に彼女の心を苦しめていた。

 仲間が目の前で傷つけられても、ましてや殺されたとしても、住人たちには反応する機能がなかった。

 そのあまりにもずさんな在り方に、サクラは怒り、大いに暴れようとした。

 しかし、

「のう、サクラよ」

「何?」

「このような木偶をいたぶったところでお主の心は晴れんじゃろ」

 意外にも、その怒りを鎮めたのは遅れて彼女の隣に立った魔龍ルジオだった。

「お主からは職人の気質を感じる。と言っても我も言うほど人間を知るわけではないが、こちらに来る前に会った服職人にも同じようなものを感じたぞ」

「む……」

 それはあまり嬉しくない、と口に出そうになったものの、サクラはルジオが言っているのは職人かたぎな部分が似ている、ということだと理解して口を噤んだ。

 決して、創作物に対する変態的な情熱について言っているのではないのだろう、きっと。

「我の目から見てもあれはどうにも、いただけんな。あれは人ではない」

「分かるの?」

「これでも幻想の中で偽物の人と出会い続けてきたものでな。とはいえ、我の前に現れた者たちの方がよほど人間らしかった、と我には感じたぞ。製作者の腕の違いじゃな」

「そう、これではあまりにも作られた者たちが可哀想」

 そう語るサクラの目の前には、動かなくなった者を前にフリーズする住人や、攻撃が掠めたせいで腕をまともに動かせなくなったのに、それでも与えられた作業をこなそうとする住人、そしてそれらを見ながら悲鳴すら上げようとせず、今までと同じような行動を取り続けようとする住人たちの姿があった。

 サクラは人形遣いであり、自らの手で人形を作り続けてきた。

 彼女の作り出す人形は、大半が命を吹き込まれ、自らの意志で動き回ることができる。

 手ずから動かすのはお気に入りの数体だけであり、基本的には生み出した後は自らの意志に任せて日々を過ごさせるのだ。

 幾多のパーツを繋ぎ合わせ、生き物から取った部分もあれば無機物から生み出された部分も持ち合わせるサクラの作品たち。

 しかし彼女は決して、不幸な命を徒に生み出すようなことはしない。

 ユウキたち人間からしてみれば、生み出してその辺に放り出しているかのように見えるかもしれないが、サクラの認識は違った。

 彼女は生み出したからには、生を謳歌してほしいと願っていた。

 こちらの都合でこの世に生を受けさせてしまったのだから、自分なりの毎日を送ってほしい、と新たに生み出した人形に意志を持たせて送り出す度に願っていた。

 最近はあまり新たな人形を作るようなことはしなくなったが、もしサクラがまた新たに人形を生み出したとしたら、その命には責任を持ち、人形としての日々を全うできるように全霊を持って魂を吹き込むことだろう。

 だからこそ、彼女にとってこの町の住人たちの在り方は受け入れがたかった。

 魂を持たないただの肉人形、そんなものは、生み出した存在のエゴでしかない。

 それゆえに最初は全てを滅ぼすつもりだったが、ルジオに語り掛けられ、いくらか冷静さを取り戻したことで、それではいけない、とサクラは思った。

「……可哀想なまま終わらせてしまうのは、もっと可哀想」

 そう続けたサクラに、ルジオはにっこりと笑う。

「我もそう思う。哀れな命といえど、未だこやつらは生きておる。いやさ、これは生きているとは言えんな。つまるところ、未だ生を受けておらぬということだ。人の形を持つ者に魂を込め、生を与える――それはお主のような、本物の職人が得意とすることではないか?」

 ルジオの言葉に、サクラの中で何かが燃え上がった。

 そうだ、ここにいる彼女らは『未完成』なのだ。

 あまりに歪な命、ずさんな中身、全てが中途半端な、とても生きているとは言い切れないような肉人形。

 それが彼女らに求められた姿? 否、断じて否。

 少しでも人間のような振る舞いを求められて生み出されたというのなら、目指すべきはどこまでも完璧な『生きた人間と見まがう人形』ではないか。

「ポキ」

 サクラの言葉に、静観を続けていたポキが応える。

「ここからは、お仕事?」

「うん。この子たちに、魂をあげよう」

「ふふ、そっちの方が楽しそう」

 そうして、ポキとサクラによる、村人たちへの処置が始まった。

 彼女らの肉体に直接干渉し、脳や魂を魔力で弄る。

 人間であれば忌避してもおかしくない手法だが、魔王に躊躇する理由はなかった。

 むしろ、彼女らからしてみれば、よほどこれは人道的な行いだ。

 自由を許されず、自らの意志をはく奪され、そしてそれに気付くことすらできない状態で飼い殺すような行いに、ノーを叩きつけるのだから。

 次から次へと放たれる魔力の糸が、村人たちの中身を変えていく。

 やがて、くまなく弄られた彼女たちに、ポキが告げた。

「お勉強しようか」

 彼女の言葉に呼応するように、一か所に集められた村人たちは、生気の抜けた様子でポキの語る人の在り方に耳を傾けた。

 フラットな状態に戻された彼女たちの肉体に、意識が、心が、魂が少しずつ注ぎ込まれていく。

 そうして、ユウキたちの戦いが終わる頃には、

「ありがとうございます、魔王サクラ様!」

「頑張ったのはあなたたち。今からは自由に生きて」

「はい!」

 輝かしく、生き生きと笑う村人たちの姿が、ずらりと並んでいるのだった。


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