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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
82/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【82】

「ったく、しつこいわね……」

 ジンジが倒れるとほぼ同時刻、ザクロは手ばかりの怪物を睨み上げて悪態をついていた。

 何度か炎の槍で貫いているものの、その度に怪物は不快な叫び声をあげるばかりで、倒れるような素振りは見せやしない。

 彼女の視界には、ヒイラギによって無力化されているジンジの姿が見えてはいたものの、それでも動きを止めたりしない怪物の姿がそこにはあった。

「で、能力者が気絶しても意味なし、と。ま、そこは予想通りね……じゃなきゃ生態系の破壊、なんて心配するわけないし」

 左、右、上下同時にと、休む暇もなく繰り出される手、手、手。

 触手のようなものから、人間の腕、白骨化した何かの手、爬虫類もあれば両生類もある、猛禽のような爪が襲ったかと思えば、草食動物たちの蹄が迫る。

 それらを悠々とかわしながら、ザクロは新たな魔法を考えていた。

 すでに、あの手の塊に対してザクロはいくつもの魔法を叩きこんでいた。

 同様の魔法であっても、その規模を変えてしまえば破壊力は何倍にも増す。

 だからこそ、ザクロが今回放っていた『プロミネンス』は、以前ユウキに放ったものとは比べ物にならない程の威力を誇っていたはずだ。

 にもかかわらず、このどデカい怪物は一向に倒れる気配すら見せようとしない。

 攻撃が入れば叫び声をあげるし、ダメージは少なからずあるように見える、が、実際には効いていないのかもしれない。

 今のユウキのように再生能力を付与されている上に不死、なんて可能性もゼロではない。

「少し、試してみましょうか」

 ザクロはどこからともなく取り出した箒に腰かけ、宙へと踊り出した。

 当然無数の手が襲い来るが、それらが彼女の自在な動きに追いつくことはない。

 やがて、ある程度伸ばさせた腕のうちのいくつかに狙いをつけ、ザクロは静かに杖を振るった。

「『プロミネンス』」

 淡々と告げられた言葉が、炎の槍となっていくつかの腕を貫いた。

 肉の焼け焦げる、少しばかり食欲がわきかねない臭いが辺りに広がり、ザクロは顔をしかめながらもじっと、腕を見た。

 穴が開き、今にも千切れてしまいそうな状態の腕の1つが、ずるり、と勢い良く本体へと戻っていく。

 本体も顔がある以外は無数の腕の塊であり、その中に紛れるように傷ついた腕が消えると、代わりのように新たな腕が体から生えだした。

「なるほど、そんな感じね……有限、と見るべきかしら」

 戻して出してを繰り返すってことは、ある程度限界が――腕の材料みたいなものがあの本体には詰まっていて、それを消費しながら腕を生やしている、ってことならその材料が尽きる可能性はあるわよね?

 そう考えたザクロは、すぐさま、今の戦い方をやめることにした。

 このまま槍でグサグサと貫いていたところで、大した痛手は負わせられない。

 何より、彼女の頭の中でもう1つ懸念が浮かんでしまった。

「もしかしなくても」

 言いながら、ザクロは杖から熱線を放った。

 対象は本体らしき肉塊、だが、可能な限り細く絞られたそれは、怪物の体に当たろうとした瞬間、

「……やっぱり」

 傷つけることなくすり抜けた。

 先ほどから本体を攻撃しているつもりだったザクロだが、その攻撃は届いていなかった。

 今の一瞬、肉塊が解けるように穴を開き、器用に熱線を通り抜けさせていたのだ。

 つまり、貫いていたはずが、どれもこれもがすり抜けていた、ということ。

「はぁ……相手を舐め過ぎた罰ね」

 自分の油断としか思えない行いに、深くため息を吐く。

 まったくもって嘆かわしい。

 こんな気持ち悪いだけの怪物に、苦戦させられているだなんて。

 ……苦戦?

 一方的に攻撃を浴びせ続けて、向けられた攻撃にはかすりもしていないが、倒し切れていないのは、苦戦と呼ぶのだろうか?

 苦労はさせられている、とは思うものの、どうにも表現がしっくりこない。

 思わず首を傾げるザクロだったが、そんな彼女にいくつもの手が迫った。

 慌てて箒を凄まじい速度で操作し、回避しながら再びの油断にもう一度ため息。

 こんな姿、いつまでも晒しているわけにはいかない。

 あとでヒイラギに何を言われるか分かったものではないのだ。

「……ヒイラギ、なるほどね」

 避けてかわして、箒を翻しながらザクロは他の魔法を考える。

 隕石を振らせるのは被害が大きすぎる、槍で貫くのは器用に避けられるし、負わせたダメージもすぐに修復されてしまう。

 だったら、

「全部、切り落としてしまいましょうか」

 ぶん、と無造作に、彼女は杖を両手で握り、まるで殴り上げるかのように下から上に振るった。

 それと同時、杖の先端から炎の刃が伸び、その切っ先にあったいくつかの腕をバターでも切るかのように両断した。

「名前は、そうね、『レーヴァテイン』ってところかしら。さすがに大きく出過ぎかな?」

 斬られ、肉体から離れた腕のいくつかはそのまま炎に包まれ、あっという間に消し炭と化してしまった。

 怪物は半分ほどになってしまった腕を引っ込めようとするが、

「逃がすかっ!」

 残りも刻まれ、さらには他の腕も次々に細切れになっていく。

 切られた端から燃えていき、先ほどまで無限かのように次から次へと放たれていた腕はその勢いをなくしていった。

 縦横無尽に空を駆け、振るう一撃はどんな腕でも一刀両断。

 鱗も骨も甲殻も、等しく切り裂く炎の刃。

 それが振るわれる度、腕が少しずつ減り、引っ込めようが再び出そうが等しく切り結ばれ続けた。

 当然怪物はこの状況を何とかしようと腕を振るい続けたのだが――どれだけ手を伸ばそうとも、ザクロには決して届かない。

 やがて少しずつ、手の化け物はそのサイズを縮めていった。

 気付けば、本体であろう肉塊はすっかり小さくなり、そこから出ている腕も数をずいぶんと減らしていた。

 奇怪な肉塊から全て違う種族の腕が生え、まるで蜘蛛のようになったその怪物の前で、刃を伴った杖を握るザクロが冷たく言い放つ。

「悪いけど、そろそろ終わりにさせてもらうわ。その様子だと、削ることはできても、どうせ死なせることは私にはできないんでしょうね」

 ため息交じりに語る彼女へと、残った腕を駆使して、怪物が突進する。

 もはや腕を伸ばすことさえもできず、その体を持って報いろうとでもいった具合だが、それすらもザクロには届かない。

「だから、こうしましょう」

 炎の柱がザクロの眼前に昇り、それは決して勢いを落とさない。

「そのまま燃え続けて反省していなさい。いろいろと終わったら、改めて対処してあげるわ」

 炎の折に捕らわれた怪物はもはや、醜い叫び声をあげることすらできそうにないのだった。


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