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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
81/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【81】

 力強く啖呵を切った後って、そのままきっちり勝ち切るもんだと思うじゃん?

 もちろん俺だってそのつもりだったんだが、ジンジのやつが差し向けてきた絵から溢れ出す腐れたような手が、思ったより勢い良く飛び出してきたもんだから参った。

 いくつかを掴んで引っぺがし、ある程度距離を取ろうとする間にも距離を詰めてきて、次から次へと体のあちこちを掴んでくる。

 引きちぎろうともすぐに次が襲い掛かってくるばかりで、少しも勢いは衰えることなく、あっという間に俺の体は腐敗臭のする腕の奔流に飲み込まれてしまった。

 こりゃマズいな、なんてことを思いながらも、俺は決して意識だけは手放さない。

 体は飲み込まれて、腐りかけていた腕たちはそのまま一気に液体状になったかと思えば、そのまま俺の体を包み込んでしまったようだ。

 デカいスライムみたいなのに飲み込まれるとちょうどこんな感じだろうか?

 半透明の粘液が、球状になって地面に転がっている形だ。

 水信玄餅みてぇだ、なんてことを呑気に思ってはしまうものの、放つ匂いは腐敗臭、見た目はグレープゼリーみたいではあるが、とてもじゃないが美味しそうには感じられない。

 原因は中に入ってるのがフルーツなんぞではなく俺だから。

 などと冗談を言っている場合ではないんだが、さてどうしたものか。

 この気持ち悪い腐れスライムみたいなのはどうやら俺を取り込んで利用し、そのままさっき見てきたような怪物を生み出そうって魂胆のようだが、どうにも肉体に変化は見受けられない。

 どうやら1度消化して、その後素材として利用する、みたいな感じのことをしたいみたいなんだが、残念ながら今の俺には治癒魔法がかかっているだけでなく、毒性にも耐性がついている。

 なんなら、こいつが俺を殺すとなった場合、俺は即座に消しさせれる予定だったみたいだが、俺の不死性が見事にそれを阻止してくれているらしい。

 溶けた傍から戻ってる感じなんだが、速度がどっちも早過ぎる上に俺自身が痛みをセーブしているおかげでまあなんともない。

 とはいえ、俺側にこの包まれている状態を突破する何かがあるってわけでもない。

 爆発力とか火力とは無縁だからなぁ、俺。

 しかし、ここに火柱を叩きつけてもらう、みたいなのもいかがなものかとは思う。

 何しろ、俺を取れ込んで変化しようって腐れスライムだ。

 これが、炎を食い尽くせないとはちょっと思えない。

 やるとしたら、もっと違う手段とかになってくるだろうか?

 うーむ、と考え込む俺の薄紫越しの視界に、呆然としている様子のジンジが見えた。

「な、なん、何、なんなんだ……?」

 どうやら、飲み込まれたくせにまだまだ元気な俺の姿を見てビビっているらしい。

 まあ、分かるよ。俺だって同じ目に遭ったらビビるもん。

 とはいえ、自分としちゃあさすがに慣れ親しんだ不便な不死性のおかげで俺は今こうしていられるわけだ。

 この驚いて唖然としている隙になんとかしたい。

 今のうちにしか無茶できんし、なんかできんもんかね。

 とりあえず、取り込まれているにはいるが、どんぐらい動けるもんなのか、ちょっとばかし暴れてみることにする。

 無茶苦茶に腕やら足やらをばたつかせてみると、手ごたえこそないものの、何度か繰り返していると、少しずつ、ぶよんぶよんと表面が飛び出るように伸び縮みを始めた。

 俺の拳に合わせて飛び出して、ひっこめると戻る。

 これは……武器にできるか? なんてことを思いながら、ひたすらキーボードを連打して移動しなきゃいけない類のクソゲーよろしく、拳を突き出しまくって飛び出すのがジンジの方に向かうようにしてみる。

「う、うわ、わ、わぁぁぁっ!」

 本来このスライムは触れたらマズい代物なんだろう。

 ジンジのやつは慌てふためいた様子で尻もちをつき、必死に後ずさっている。

 やれやれまったく、困ったやつだなぁ。

「……ふんっ!」

 幾度も幾度も、拳を頭上に振り上げる。

 繰り返す度に、先ほど試したのと同じように頂点が頭上にぶち上がり、戻ろうとするところに再び拳を叩き込んでいく。

 ひたすらに繰り替えすうち、少しずつ、スライムの全体が頭上に引き延ばされ、細く長く、高く高くなっていく。

 やがて俺の足が少し出てきた辺りで、不意に手ごたえが完璧に消えた。

 おや、さすがに脱出はできんと思っていたのだが、と頭上を見てみると、スライムの柱と化していたものはいくつもの塊に分割されてそこらに降り注いでいた。

 おいおい何事だ、と思う俺の横で、

「取り込まれる相手ならば、その前に斬れば良いだけのこと」

 ぱちん、と刀を収めたヒイラギが立っていた。

 なるほど、と一瞬思ったものの、それができるやつは普通いねぇんだよな、と呆れてしまう。

「その、何だ? 水に沈む前に足を次に出せば水の上が走れるみたいなもんか?」

「そんなところだ。さて……」

 眼前ですっかり震えているジンジを前に、ヒイラギは冷めた目を向けていた。

 こっちに来た、ってことは、たぶんあのデカブツは――ああ、いなくなってるな。

 ヒイラギに細かくカットされて、ザクロに焼き尽くされた、ってところだろうか。

 だとすればザクロたちが来るのも時間の問題、だとは思うが、うーむ、正直なところ、女性陣とこいつを合わせたくない気持ちがあるんだよな。

 もうこの国に来てからこっち、ずーっと男としても人としても最悪の行動ばっかり見せられてきたもんだから、こいつの視界にハンナが少しでも入ることすら許せそうにない。

 ここまで気持ちよく同情の余地がないってのも中々のもんだと思うが、それでいて突き抜けた悪というよりは、行き当たりばったりに小狡い手を使ってるばかりなのもいけ好かない。

 わりと冷静に対処しているつもりではあるんだが、いつブチギレ過ぎてこいつを殴り飛ばしてしまうか分かったもんじゃない。

「ヒイラギ」

「ああ。言わずとも、お前の顔を見れば分かるさ」

 淡々と告げながら、ヒイラギの姿が消える。

「な、うっ……」

 一瞬の後、ヒイラギの姿がジンジの背後に現れると、一撃でその意識を刈り取った。

「それで、どうするのでござるか?」

 観測者がいなくなったので巣の口調に戻ったヒイラギを見て、少しばかり頬が緩みそうになる。

 わざとそうしたんだろうが、そんなに怖い顔してたかね、俺。

「とりあえず――タンポポに軽く連絡して、移動かね」

「了解でござる」

 どっこらしょ、と気絶したジンジを抱え上げる。

 さあて、いまいち締まらん幕引きとなりそうだが――まあ、派手なのは、あっちに任せるとしよう。

 視線を向けた先で、もうほぼほぼ勝ち切っている状態のドラゴンやら魔王やら魔法使いを見る。

 うーん、最初に思った通り、過剰戦力だったなぁ、やっぱ。


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