俺の嫁はエルフ受けが悪い【79】
「う゛う゛う゛ぁ゛ああ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ……ぎゃあ゛ぁ゛ぁぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
呻き声から叫び声へ、不快な大音量が響き渡る中、空から時々降ってくる瓦礫と何かの腕をかわしつつ、俺はジンジの方へひた走った。
「おい、命が惜しかったら今すぐこいつひっこめろ!」
脅しでもなんでもなく、ただ純粋に心配しての言葉だったのだが、
「う、うるさい! お前も、僕を馬鹿にするんだろ! お前なんかに、殺されてたまるか!」
こうなってしまった。
喚きながら、彼が何かしらの描かれた紙を投げつけてくると、そこから魔物がいくつも飛び出してきた。
「……」
「オァ、アァ? ア、ア、ア」
片方は無言で佇むバカでかい剣を持った頭のない男。
もう片方は頭がオウムで体が狼、尻尾がデカいコブラの頭になっているキモいキマイラって感じの化け物だ。
相変わらずどっちもレベル表記がバグってやがるし、表記もバグってる。
おいおい、どんどん生み出す存在がホラーに寄ってきてねぇか、と驚く間も与えてもらえないままに、キマイラが襲い掛かってきた。
嘴と爪と牙が3方向から同時に迫る。
「くっそ!」
一気にやってきたそれらを、まともに対処するのは不可能だ。
あいにくと、俺は鎧を着こんでいたり、体を硬化するような器用な真似はできっこない。
だがこの肉体は今、ハンナの魔法で守られている。
正確には守られてるわけじゃあないが、どんだけ傷を負ったところで、あっという間に元に戻ってくれるのだ。
だから、取捨選択する。
一瞬のうちにまず削り取られる範囲の広そうな嘴を両手で掴み、無理矢理に閉じさせた。
次にそのまま掴んだ嘴を軸にして、腹を切り裂こうとしている爪、もとい前足を蹴り上げて弾いた。
その間に後ろの蛇の牙が肩に届いたが、
「悪いが、毒なら効かん!」
鋭い痛みこそあれど、体の調子に変化なし。
一番ダメージが少なそうな牙から身を守ることを捨て、俺は続けて蛇の首辺りを掴み、そのまま背負い投げのようにして地面に叩きつけた。
キマイラの体が地面を撥ね、ゴキリと背骨らしきものが折れる音がする。
そのまま俺は横っ腹を蹴っ飛ばして、キマイラは瓦礫の中へと沈んでいった。
「この調子だとマズいな……」
1体1体はぶっちゃけ大したことないが、このまま次々にモンスターを生み出され続けたら、さすがに俺1人で対処しきれない可能性が高い。
どうにかして手段を考えないとな、なんてことを考えている間に、今度は首無し男のドデカ包丁が迫ってきた。
横薙ぎに首を狩ろうとするそれを、一気に身を屈めてかわす。
身体能力上がってなかったら、あいつとお揃いになるとこだったな。
まあ、それでも死なんから俺自身は別に平気ではあるんだが、致命傷は正直困る。
さすがに即座にリザレクション、というわけにもいかないのが俺の能力の難儀な点というか、全く誇れない部分であり、死ぬような怪我をしたり何かしらの致命傷を負った場合に、戻っていくのには多少の時間がかかるのだ。
首なんぞ撥ねられたら、復活にどれぐらい時間がかかるか分かったもんじゃない。
いくら自動回復の魔法をかけてもらってるとはいえ、そんなもんにかけている時間はないのだ。
……そもそも俺の再生に回復魔法は作用するんだろうか? 試したことねぇな。
「って、それどころじゃねぇな!」
今度は縦に、屈んだ俺を両断するべく振り下ろされた包丁の横を掠めながら進み、みぞおち辺りを全力でぶん殴る。
これまた吹っ飛んでいった首無し男の行方を見届けるようなことはせず、俺はジンジの姿を捜した。
だが、これだけ手間取っちまった上に、辺りは瓦礫塗れと来ている。
「どこ行きやがった……?」
すっかり姿を見失ってしまった。
だがそこまで遠くには逃れていないはずだ。
あるとすれば、物陰に隠れて新作を作ってる、ってところか。
「ザクロ! この辺吹っ飛ばしてくれ!」
聞こえてることを願って、空に叫ぶと、直後に俺を中心として魔法陣が地面に浮かび上がった。
俺が言ったこととはいえ、もう少し躊躇とかしてくれても良いんじゃないか?
なんてことを思っているうちに、赤色の光を放つ魔法陣から、爆炎が上がる。
それは瓦礫から起き上がってきたさっきの化け物たちも、周囲に積みあがっていた瓦礫も巻き込んで、一気に吹き飛ばしてくれるほどの威力だった。
当然俺も無事で済むわけがないんだが、さすがはザクロだ、体の一部が千切れたりするようなことはないよう、きっちり調整してくれている。
爆炎が体表を焼け焦がしていくが、体が火傷やら破片で裂傷を負うごとにすぐさま治癒魔法が発動して戻っていく。
爆炎が上がったのはほんの数秒、事が済むと、役目は終えたとばかりに炎は消え、辺りにの瓦礫はほとんどが消し飛ばされていたり炎の外に吹き飛ばされたりしていた。
そんな中、
「う、うう……何が……」
うずくまっている男が1人、目に入った。
だがそれ以上に痛々しく、はっきりと見えたのは、
「ご無事ですか、我が主」
彼を庇ったのか、体中に傷を負ったセリの姿だった。
まったく、大した忠誠心というか、なんというか。
「悪いがご両人、ここまでだ」
とはいえ、俺も俺で引き下がるわけにはいかない。
今回のことではっきりした。
ジンジを放置すれば、確実にこの先、良くない形でもっと大きな問題が起きるだろう、と。
「これ以上は――」
抵抗せず大人しく話を聞いてくれ、と続けるつもりだったが、
「くそぉっ! くそぉっ!」
どうやらジンジの野郎はまだ諦めていないご様子だった。
「せ、セリぃ!」
叫び声をあげながら、ジンジはうずくまって抱え込んでいた何かしらを、セリの背に押し当てた。
直後、どこか禍々しさを感じる光がジンジの押し当てたものからあふれ出し、直後、そこから現れた数多の触手がセリの体を飲み込んでいった。
おいおい、マジかよ。
自分の身を顧みず助けてくれた従者に、その仕打ちはねぇだろうが。
「あ、る、じ……」
最後の最後まで、セリはジンジのことを気にかけていたのか、振り向いて無事を確認した彼女は、笑みを浮かべると同時に完璧に飲み込まれていった。
そして、セリを飲み込んだ触手が、その全容を表す。
「あ゛ー……」
それは、人間とタコを混ぜ合わせたような怪物。
上半身は人間、下半身はタコ、みたいな分かりやすい姿ならまだしも、左足と右腕から無数のタコ足が伸びて絡み合い、筋肉のような形で腕と足を形どっているそれは、お世辞にもまっとうな生き物には見えなかった。
顔は女の子っぽいし体つきもそれらしいが、目はタコのそれで、半端に開いた口の中には無数の牙がまるでヤツメウナギのように並んでいる。
ところどころ今飲み込んだセリの姿を彷彿とさせる要素を持ち合わせちゃいるが、完全にこいつは、まともに意思疎通が取れる生き物じゃあない。
虚ろな瞳は何も映していないのか、俺に目もくれず中空を眺めている。
言い知れぬ不気味さを感じながらも、俺は拳を握った。
「ジンジ……てめぇには、終わったらお説教だ」
不気味さだの恐ろしさだの、そんなもんはどうでもいい。
この男には、いろいろと叩き込んでやらなきゃ、俺の気が済まなそうだ。




