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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
78/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【78】

 その異様な姿を一言で言い表すことは非常に難しい。

 つまりそれぐらい異常な姿をした怪物が姿を現したということだ。

 とりあえず、見上げる程に大きい。

 外で暴れているルジオも大概見上げる必要のあるサイズ感だが、それよりも二回りほど大きく見える。

 そして、こう、形容しがたいってのはこういう存在のことを言うんだろうな、と改めて思う。

 例えば、あまりにも巨大だったり逆に小さかったり、姿が普段見かけるものと違う生物を見かけた時、人に説明するならどうするだろうか?

 俺だったら、ある程度想像がつきやすいように近い生物をイメージの助けとなるよう教えたりするものだが、目の前にいるのはどんな生き物とも似ても似つかなかった。

 肉塊にいろんなパーツが生えている、とでも言うのが一番近しいのだろうか?

 そもそもベースとなる肉塊自体も異様というか、気持ち悪い造形なのだ。

 あえて例えるとすれば、いくつもの生き物の胴体部分を粘土のように混ぜ合わせ、中途半端に混じり合った状態で一塊にしただけ、といった具合だ。

 龍の鱗があったり、魚の鱗があったり、昆虫のような外骨格が見えるかと思えば人肌と毛に覆われた皮膚が隣り合っている部分もあり、骨そのものが露出しているような陶器を思わせるような個所と半透明でゲル状の部分が隣り合っていたりもする。

 理解できるのはかろうじてそれらが全て生物由来のパーツであるということぐらいなものだが、どうしてこんなグロテスクな姿をしているのかは分からなかった。

 そして肉塊から伸びているのは無数の手。

 それらもまた、虫の足のようであったり、タコの触手のようであったり、中には羽のように寄り集まっているものもあれば、猛禽類のようなかぎ爪がついているものもあったりした。

 共通しているのはどれもが節のような何かを使って人間の腕のように曲がるような形にしていることぐらいだろうか。

 ついている向きもばらばら、本数もまばらであり、その姿を見ていると、自然界の生物がいかに合理的な姿をしているのかということがよく分かる。

 いくつかの手を使って無理矢理に地面に立っている状態の怪物には、顔らしきものもちゃんとついていたが、巨大な人の顔らしきものがいくつも寄り集まって瞳をぎょろぎょろと回し続けて周囲を見ているようだった。

 口がない顔があったり、目の中に瞳が複数押し込まれていたり、意識の統一が為されていないような雰囲気も相まって、ひたすらに不気味だ。

「あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁぁ゛ぁぁ゛ぁぁ゛」

 半開きの口から漏れ出てくるのは呻き声か、苦しみの声か、はたまた意味などない鳴き声に過ぎないのか。

 あまりにも歪な姿に驚いて固まっているうちに、すっかり天井は崩れきり、怪物はのびのびと不格好な無数の腕を動かし始めた。

 不快害虫のそれとも少し違う、それぞれの腕が個別に意志を持っているかのような不合理極まりない蠢きは、その場で動くばかりのように見えて巨体が動くだけで周囲に被害が出るという、理不尽の極みのような結果を生み出していた。

「は、はは、はははは! いいぞ! 全部踏み潰せ!」

 そして、その足元で乾いた笑いを上げる男が1人。

 ああ、なるほど、あいつがこのバケモンを生み出した、今回の元凶ってわけか。

 いやしかし、

「どうすっか……」

 とにもかくにもどデカいのが問題だ。

 少なくとも俺の攻撃程度が通る相手だとは思えない。

 ドラゴンにすら通用するハンナの強化がかかった俺の拳だが、それはあくまで相手が痛覚も感情も持ち合わせている普通の生き物相手だから、って部分が大きい。

 あんなもんに殴り掛かったとして、効果があるとはちょっと思えない。

 とはいえ、黙って見ているだけに徹するというのも違うだろう。

 今でこそただ蠢いているだけに過ぎないが、あれがもしまともに移動する方法を見つけ出したりすれば、あちこちに被害が出かねない。

 で、首謀者が暴走した結果生まれたっぽいのもまた良くない。

 あの手の存在ってのは総じて、首謀者を止めたところで止まらなくなっている可能性が高いからだ。

 とはいえ、あれはあれで止めてやらないといけないだろう。

「ははは、やっぱり思った通りだ! 強いやつをベースにもっと強く作り変えるのが効率良いんだな……ふふ、ふひ、これでもっと強いのを作って、城の周りに置けばもう僕に手出しなんてさせないさ……ひ、ひひひ……」

 そこらに散らばった紙をかき集め、必死に筆を走らせる姿を見て、俺はため息をつく。

 自分の安全を確保してからやるもんだぜ、そういうのは。

「ザクロ! ヒイラギ! デカいのは頼んだぞ!」

 こんだけ崩れたら声も通るだろ、ということで適当に声をかけた上で、俺は地面を蹴った。

 化け物の足を適当に避けながら進み、今回の元凶、ジンジの方へと一気に距離を詰めて行ったのだが、

「う゛ぉ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ああ゛あ゛゛ぁ゛あうあ゛あ゛あ゛!!!」

 突然暴れ始めた足の数々に、勢いを殺されてしまった。

 こいつ、的確に俺の邪魔をしてきている?

 意志なんぞないように見えたが、何かしらの命令でも受けた状態なのか?

 厄介だな、と内心舌打ちをしているところに、続けて襲い掛かってきたのは大剣の一撃だった。

 咄嗟に横っ飛びにかわして、瓦礫の後ろから出てきたダークエルフと対峙する。

「状況を見て行動してくれると助かるんだがな」

「私の行動には一点の曇りもない」

「だろうから困るって話なんだが……まあ、あんたらに言っても無駄か?」

「……我が主がどのような行いをしようと、どのような外道に堕ちようとも、私はあの方の味方だ。そうあると決めたのだ」

 悲壮な決意を固めたご様子で剣を構える彼女を前に、俺は軽く頭を掻く。

「あんた、セリだったか?」

「軽々しく我が名を呼ぶな」

「悪い悪い。でな、あんたには一応伝えとくが、そのあんたの主を俺は助けようかと思ってたんだよ」

「……何?」

 言っている間に、化け物は再び蠢き始めた。

 間に合わなくなる前にとっとと動かねぇと、と走り出そうとした俺の頭上に、巨大な炎の槍が何本も、化け物を取り囲むように現れた。

「『プロミネンス』!」

「ぐぅ゛ぅ゛ぅ゛う゛う゛ぎぃいぃぃぃ゛ぃ゛ぃぃ“ぃ゛ぃあぁぁあぁあぁぁあぁぁあぁ!!!!!」

 次々と突き刺さる炎の槍に、怪物が苦しそうな呻き声を上げた。

 悶えるように無数の腕が無造作に暴れ、そのうちの1つであるタコのような触手が俺たちのいる方へと振り下ろされかけ、

「ユウキ!」

「助かる!」

 一瞬のうちにヒイラギの刀で両断され、宙を舞った。

 偶然とはいえ攻撃が飛んでくるとは思っていなかったのか、固まっているセリを後目に、俺はその横を通り抜ける。

 今もなおペンを走らせているジンジを、とっととぶん殴ってでも離脱させないと、同じようなことになるに決まってる!

 化け物を生むやつってのは、たいていそれに殺される運命にあるんだよ!

 そんなお約束、させてたまるかってんだ!


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