俺の嫁はエルフ受けが悪い【75】
「「あ」」
2人の言葉が重なると同時、ヒイラギは呆然としたまま引きずられている天使のような女に目をやった。
「ザクロ、お前……」
「何?」
「……いや、いい。残るは1人だったか?」
「頭を数えないなら1人ね。まあ、こんなもんならユウキたちが来るのを待つ必要も――」
言葉を交わす中、不意にザクロがスクロールを闇に向かって投げつけた。
描かれた魔法陣が光を放ち、そのまま爆発する。
「ほう、気付くか」
しかし、その爆発を物ともしない様子で現れた甲冑の女。
銀髪褐色かつ、エルフのような長い耳を持つ美女だ。
甲冑とは言うものの、胸元は広く開いており、足も出まくりの姿は実用性よりも見た目重視に見える。
そんな彼女だが、事実として初撃は無傷でかわされた。
否、
「魔法に耐性あんのね、めんどくさ……」
一瞬で相手の性質を理解したザクロが舌打ちをするのと同時、ヒイラギが間合いを詰めていた。
手に持つ大剣を女が振り上げるよりも早く、ヒイラギの剣が抜かれ、その首元に突き付けられていた。
「動けば首が飛ぶぞ」
静かに告げるヒイラギだったが、女はにたりと笑うとその体が黒煙を吐き出し始めた。
咄嗟に口元を布で覆いながら、ヒイラギは距離を取る。
「なるほど、判断が早いな」
揺らめく煙を纏いながら悠々と歩き出す彼女に、さすがのザクロも1度手を止めてヒイラギに尋ねた。
「ハンナ待つ?」
「それが無難だろう」
「まあそれかユウキに任せるのが無難よね」
はあ、とため息をついたザクロはスクロールを取り出してそこに文字を書き込み始めた。
「どうした、もう終わりか?」
対して余裕たっぷりの女だったが、それに対してザクロがスクロールから目も上げずに答える。
「悪いけど、あんたには大した用もないからあんま相手してあげられないのよ」
直後、ザクロとヒイラギの姿が消えた。
炎から解放されたものの、片腕は切り落とされたままの天使が残される。
「手ひどくやられたな、イコ」
「……セリ?」
声をかけられ、ようやく少しだけセリと呼ばれた天使のような女性の顔に生気が戻ってくる。
立ち上がろうとする彼女に手を貸しながら、セリは闇の中をじっと見つめてから踵を返した。
主人に状況を報告する必要がある、と判断したからだ。
あのまま戦闘を続けていれば、ある程度のダメージは与えられても、勝てる見込みは皆無だと、セリは理解していた。
だからこそ、あの程度で引いてくれたことに内心でとても安堵していたのだが、そんな様子は全く表に出さない。
先ほどのように挑発目的でもなければ、彼女が表情を崩すことは非常に稀である、という設定だ。
実際は主人の前でだけはリラックスした顔をする、だとか、抜けている部分が多少あり、それを仲間たちは気付いている、といった設定もあったりするのだが、それを気にかける人物はすでにこの場にいないのだった。
◆◆◆
「というわけで、敵は毒を使うわよ」
「いや、何がというわけで、だ」
さっさと先に進んでしまっていた2人が突然目の前に現れたかと思うと、唐突にそんなことを言い出した。
ってか、戻ってくるんかい。
「だから一緒に行こうって言ったじゃんかー! ザクロとヒイラギだけだと全滅させるぐらいしかそういう手合いには対抗できないんだから!」
「別に私はそれでも良かったのよ? でも……」
言いながら、ザクロはちら、とヒイラギの方を見た。
ヒイラギは黙っている。
「ザクロに任せたらこの土地一帯にメテオ降らせておしまいじゃん」
「そこまで大雑把なことはしないわよ!」
「でもできるでしょ?」
「まあ、やろうと思えば……」
可能な限りやらないでほしい。
改めて、ザクロは連れてくるべきじゃなかったかなー、とは思うものの、それでもここまで自由に戦えるのはこのフルメンバーの戦力あってのことだ。
たぶん俺たちが知らないだけで、すでに2人はある程度敵側に打撃を与えているところなんだろう。
その上で、シンプルに対処しにくいのがいたから戻ってきた、と。
まあとりあえず、
「ハンナに対毒の魔法をかけてもらって、タンポポは念のため解毒剤か?」
「さすがにどんな毒か分からないと作れない、と言いたいところだけど、そこは転生チートだからねぇ。作れるよー、万能薬!」
どいつもこいつもチートを使って好き放題しよってからに。
まあ、この城にいるやつと比べればここの3人に関してはずっとマシなんだろうけどな……とため息を吐きそうになるほぼ無能力の俺。
いつものことなんだが、こいつらと一緒の戦闘とか事件対処は、自分の能力のなさを再認識させられるので精神的疲労がすごいのだ。
まあ、良いやつらだし、大事な仲間だから、嫌ってことは全くないんだが、それでもこう、な? 身勝手な惨めさみたいなのがさ?
そんなことを思っていると、不意に体に降りかかる光のエフェクト。
「これでユウキさんに毒は効きません。ばっちりです!」
……うん、最高。
にこっ、と笑うハンナの可愛さに、全てがどうでも良くなってきた。
どうせ俺は毒なんぞ食らっても死なないから気にもせんのだが、それでもこうして真っ先に対毒魔法をかけてくれるハンナは今日も今日とて最高だ。
俺の嫁なんですよ、しかも。
もうこの事実だけで、どこまででも頑張ってやれるってものだ。
「よっし、そんじゃ、気合入れて進むか!」
急にやる気を出し始めた俺を見て皆は怪訝そうな顔をしていたが、そんなことはどうでもいい。
俺は皆の先陣を切って、先へと進んで行くのだった。




