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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
72/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【72】

「なあ、サクラ」

「何?」

 サクラと同じように、すぐ隣でポキもこちらを見上げてきた。

 こうして見ると、本当に瓜二つだ。

 2Pカラーって感じ。

 色が違わなければ、鏡の前に立っているかのようだ。

「その、一応な? あそこにいるお嬢さんたちは歪に見えるかもしれんが、生きちゃいるんだ」

「だから?」

「まあ、生温いかもしれんが、情け容赦なしでぶっ殺すのは、ちょっと」

「……」

 俺の言葉にサクラはゆっくりと瞬きを1度した後、すっ、と視線をここの国民たちに向けた。

「私はいくつも人形を作ってきた。命ある者も、命ない者も。でも、どんなものだって丹精込めて作ったし、作った後は自分で面倒を見るようにしてきた。自由は与えていたけど、最後の一線だけはきちんと引いてたよ。でも、あれは違う」

 同じような行動を繰り返し、ただただ品物を作っては仕舞うだけの彼女らの姿を改めて見て、サクラは深いため息をついた。

「ただ同じ動きを繰り返すだけ。ただ同じ毎日を続けるだけ。そこに疑問を持つことも、日々を変える考えも、そもそもそういう思考を抱く余地さえも、全てが元から持たされていない。同じ処理を繰り返すだけの、絡繰りみたいなもの」

 いつも口数の少ないサクラが、これだけ言葉を続けるのは珍しい。

 そして、珍しいからこそ、良く伝わってくる。

 彼女がいかに、この光景に腹を立てているのかということが。

「ただお茶を汲むだけの玩具なら誰だって作れるよ。でも、それを生き物を作り出してまで行わせるのは違う。あの子たちには魂が宿っていない。生まれた時から機能を削ぎ落されている、家畜と同じ。ううん、それよりも酷いかもしれない。だって、あのままいずれ死ぬことすら、あの子たちは理解していないし、もしかしたらそれすら奪われているかもしれないのだから」

「……」

 死ぬことすら奪われている、というのであれば、それは実に恐ろしいことだ。

 その恐怖については、他の誰より俺がよーく知っている。

 なるほど、死ぬ機能すら奪われている、ってのは考えたこともなかった。

「生まれついての歪さが、生命への冒涜が、そのまま形として動いているのがあれだよ、ユウキ。あんなものは否定しなきゃいけない。存在そのものが良くないということを、創造主は全く理解していない。命である以上は貴ぶべき、なんて言ったところで、彼女らに選択肢はないんだよ。あの日常を送るか、何もせずただ生きるだけか。どちらかだけ」

 ゆらり、とサクラが動き出すのに合わせて、ポキも歩き出す。

 これ以上彼女を引き留めるとなると、俺にも何らかの対処をし始めそうだ。

 俺はため息を1つ吐いて、怒り猛るサクラを横目に大人しく待っていてくれたルジオに苦笑いと共に言った。

「ルジオ、サクラが無茶し過ぎてると思ったら何とか止めてやってくれ。つっても、ポキ出してるサクラに叶うやつがいるとは思えないけどな」

「ふむ、それほどまでにこやつらは強いのか」

「まあ、魔王だからな……んで、ポキは魔王であるサクラとほぼ同等の力を持ってる。魔王2人をまとめて相手できるやつなんて、この世にいるもんかよ」

「そういうものか」

「そういうものだ。ま、ほどほどに頼む。あくまでこっちは陽動なんでな。任せたぞ、ルジオ」

「うむ、任せておけ! ……我も少しばかり、力を解放するか」

 殺気立つサクラを見続けていたからか、ルジオも龍の血がざわついているご様子。

 これは、こっちに加勢することもストップをかけることも死に物狂いになりそうだ。

 本丸を潰した後の方がヤバそうってのは、うーん、やっぱ過剰戦力過ぎたよなぁ、これ。

 彼女らに背を向けながら頭を掻くが、まあ正直、だからと言って手加減してやる義理もない。

 サクラが言っていた通り、様々な要素を削ぎ落し、創造主の都合に合わせて生み出された命ってのは、とても歪で、悲しい存在だと思う。

 もちろん、それが必要なことである、と言えるものもあるだろうし、ただただ人間の趣味に合わせてそう創られた存在、ってののもいるんだろう。

 家畜、そうだな、競走馬だの畜産業のための牛や豚だの、歪に生まれが定められ、その生を全うするしかない生き物はいくらでもいる。

 人間の都合でそうさせせられた生き物たちだ。

 その在り方は確かに歪で、見ようによっては生命を冒涜していると言って良いのかもしれない。

 でも彼らは生き物であり、家畜であることを、飼われていることを離れたとしても、ある程度は力強く生きていけるのだろう。

 実際、災害地域では自然化した家畜が問題になっていたり、という話を聞いたことがある。

 それが生き物としての自然な形であり、生きているのだから生きようとする、その当たり前のことが、家畜である彼らにも、きちんと根付いているという、言ってしまえばただそれだけのことなのだが。

 ちら、とだけ騒ぎが広がり始めている国民たちの様子を伺う。

 彼女らのいくつかが、サクラの手から伸びた魔力の糸で切り裂かれていたが、彼女らの反応は怯えるでも逃げ惑うでもなかった。

「――――」

 その光景はどこまでも不気味だった。

 仲間が、家族が、大切な友人が――いや、そう見えていただけの存在が目の前で屠られているというのに、彼女たちの反応は『無』だった。

 きっと、作業をするために作られた彼女たちには、自分たちを攻撃する人間に対する反応が用意されていなかったのだろう。

 国内で平和に貿易品を作るだけの存在に、そりゃあ、そういう機能は必要ないんだろう。

 こうして襲撃でもされない限りは、使うこともない機能だ。

 でも、それは生き物として当然の反応であり、吐き捨ててしまって良いものなんかでは決してないはずだ。

 サクラが言っていた歪だというのは、こういう、生き物としてあり得ない存在であることを指しているのだろう。

 ただ茫然と目の前で起きた出来事が理解できない様子で、かと言って怯えていたり叫び出したり逃げようとすることもなく、彼女らはただ淡々と潰される仲間たちの姿を見つめ、やがてその仲間入りをしていくのだった。


 ◆◆◆


「つーわけで、おっ始まっちまった」

「ユウキ、せめて体を張ってもうちょい止めといてよ」

「無理だっつの。ポキ出してきたんだぞ、サクラが」

「あー……そりゃ無理だねぇ。ってか、そんなキレてたの? サクラが? マジ?」

「こんなことで嘘なんぞつかねーって」

「まあ、準備が必要なのはどうせタンポポだけだし、私たちも動きましょうよ。幹部1人ぐらい野放しでもなんとかなるでしょ?」

「いやいやいや、お前らな……」

「オレはいつでもいいぞ」

「もうちょっと! もうちょっとで終わるから! あと2分!」

「それだけあったらサクラたちがお城に突入しちゃうわよ。私とヒイラギは先行くわ。あんたたちは後からゆっくり来なさい」

 ザクロたちはそう言うと、とっとと敵の根城へと向かってしまった。

 敷地内で騒ぎを起こしてもらったら、室内に転移するのは当然危険なので、直接表から入って、会ったやつを片っ端から叩く。

 それだけの作戦と言えばそれだけなのだが、

「あーもう、せっかちなんだから! 僕が行く前にやられても知らないからねー!」

 タンポポが警戒をしっかりしているのは気になるところだ。

「何か、気をつけないといけないことでもあるのか?」

「ん? いや、ぶっちゃけないよ? 特にあの2人はないない」

「じゃあ、さっきからずっと何用意してんだ?」

「これはね、全部終った後に使うもの。戦闘中にはさすがに作れないからねー。よっし、できた! 僕たちも行こう!」

 何かよく分からんアイテムを作り終えたらしいタンポポは、それを鞄にしまうと、2人を追って走り出した。

 俺とハンナは互いに顔を見合わせながら、何が待っているのか、と不思議そうにするばかりなのだった。


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