俺の嫁はエルフ受けが悪い【71】
改めて国の状況をなんとなーく観察してみたわけだが、いやー、酷いもんだった。
端的に言えば、国民、と呼ぶべきであろう連中は全員が女の子だった。
美少女、美女が至る所に勢ぞろいして、各々が与えられた役割に合わせた仕事を思い思いにやっている、という感じだ。
それがまた酷い。
見ている感じ、基本的な自由は認められている様子だったが、せっせと物を作っては、どこぞの倉庫に運んでいく感じで、まるでゲームのNPCのような動きをひたすらしていた。
淡々と自分たちの作業を繰り返し、たまに会話のようなものをしていても、和気あいあいとしているばかりで、どことなく人間の真似をしている感がぬぐえない。
これは作ってるやつの問題なんだろうなぁ、とは思うのだが、だとしても、もう少し、こう、人間味って言えば良いんだろうか、そういうものが感じられてもいいんじゃないかと思ってしまう。
正直な話をすれば、中々に不気味。
笑顔の仮面を張り付けた人形たちが、自分たちの与えられた役割に則して劇でも開いているかのような感じがする。
しかも連中、時間をかけて飯を食ったりする様子が見受けられない。
健康状態を維持するために汗をかいたら水分補給をする、必要に合わせて栄養補給みたいなのをしている様子は見えるのだが、なんと言えば良いのだろうか、飲食に楽しみみたいなものを抱いてる様子がないのだ。
加えて、1番異様だと思ったのは、トイレに向かう様子もないこと。
誰もが一定の生活リズムを繰り返しているようで、それが余計に人形感を強めているように見えた。
「……これはなかなか、厳しいでござるな」
「なんつーか、すげぇな。見た目のせいもあって、現実感が薄いっつーか」
俺と一緒に観察をしていたヒイラギも、微妙な表情だ。
いつものこいつであれば、ここのボスの能力を羨ましがったり、自分だったらこうするのに、みたいなことを気持ち悪く語ってくれそうなもんだが、この人間味の薄い情景を前にはさすがのこいつも引くことしかできないみたいだ。
「働いてる女たち、ずっと笑顔だな」
「ですなぁ。あれしかプリセットの表情がない、ということでしょうか」
「あれ思い出すな、初期の平面絵を動かしてるだけだったVtuber」
「なるほど確かに。ですが彼女らと比べるのも少々……」
言葉を濁すヒイラギに、オレも苦笑いを浮かべる。
まあ、表情の変化は乏しくても、それでもあの子たちは声や仕草で多様な表現をしていた。
それに対して、こっちはリアルな肉体もあるし、あれこれとやり取りをする声も聞こえてくるわけだが、そのどれもが作り物っぽく見えて、不気味の谷を越えられていない感じがする。
「彼女らに罪はありませぬ。しかし、あれだけの数に狙われれば拙者たちとて危険なのは変わりませぬからな。ここは心を鬼にして、彼女らの生活に介入させていただきましょう」
「んー、嫌な予感はするけどな」
俺は軽く頭を掻きながら、同じような動きを繰り返す女たちを見つめる。
「できました!」
「ふふ、ありがと。それじゃ持っていくわね」
「よろしくお願いします!」
先輩後輩っぽい2人のケモミミ少女がそんな微笑ましいやり取りをして、先輩の方が出来上がった石板(何かは分からんが、後輩っぽい子が魔力を込めていたようだ)を倉庫に持っていく。
そして次を後輩ちゃんが準備して、また同じようなやり取りをして、先輩が運んでいく。
何度か繰り返した後に、後輩ちゃんが疲れたような様子で息を吐くと、
「そろそろ交代しましょうか?」
「いえ、あと1枚ぐらいはいけます!」
「もう、無理しないの。変わるから運んでくれる?」
「先輩、でも……」
「私もそっちがやりたいの。だから、ね?」
優しく微笑む先輩に、後輩ちゃんは少し顔を赤くしながら、でも表情は不満げに場所を変わった。
そしてまた同じように、石板を作っては運んでを繰り返す――これだけなら大して奇妙でもなんでもないのだが、問題はそれが、無限にループしていること。
同じように先輩が疲れた様子を見せたら後輩が交代する、といった具合なのだが、後輩が作り始めると、彼女はしばらくして、また先ほどと同じようなやり取りをして先輩と交代するのだ。
本当に、同じような動きをひたすらに繰り返すだけ。
それ以外の動きが設定されていないからなのか、はたまた、彼女たちにとってはあれを繰り返すことが存在意義みたいなもんなのか。
どっちにしても、わざわざ生命を生み出す力を使ってまでやることとは思えない。
「ちょっと、サクラたちに話してくるわ」
「承知ですぞー、拙者もザクロ殿たちに経路確認をしてくるでござる」
そう言って俺たちは1度別れた。
すでに別の場所に移動して待機しているザクロたちとは、別ルートで進む予定だ。
分け方としては、俺とハンナ、そしてザクロたち3人のそれぞれ。
基本的にザクロとヒイラギとタンポポが幹部らしき連中を押さえて、オレとハンナがボスを叩く形の作戦だが、そのためには俺とハンナが一緒にたどり着く必要がある。
そこで、ザクロたちが露払いと引き付けを引き受けてくれた感じだ。
全員で動いた場合、俺が適度に足を引っ張る可能性も考慮すると、これで良いように思う。
「サクラ、ルジオ、いいか?」
「どうしたの?」
作戦開始まで待機、と言い渡してあったサクラたちは、すっかり退屈している様子だった。
まあ実際、付き合わせてしまっている形だし、彼女たちからすればつまらないことこの上ないだろう。
後でなんかしらの形で埋め合わせしてやらんとなぁ。
「ぼちぼち始めるわけだけど、あー、あれ、どう思う?」
俺は繰り返しの行動を続ける国民たちを指さして聞いた。
すると、ルジオは少し考えた後、首を傾げる。
「人間ではない、というのは見て分かるのだが、それ以上のことは分からぬ。あれは、なぜ人の形をしているのだ?」
「そっちのが好き、とかかもな。実際は知らんが」
「人間をただ形だけ真似た人形なぞ、虚しいだけだがなぁ」
経験があるのか、とはさすがに聞けなかったが、ルジオは人間と仲良くしたいと思っていた子だ。
何かしら、思うところがあるのだろう。
対して、
「人形だとしても、あれは出来が悪いよ」
サクラは妙に苛立たし気だった。
そして、その言葉も仕方がない、と俺は思ってしまう。
サクラが作り出した人形の中には、何体かだが自我を持ち、自律して行動する者たちがいる。
いわゆる四天王とか幹部的な立ち位置の人形たちはサクラが丹精を込めて作っており、だからこそ完成度が高く、そしてサクラも強い愛情を注いでいた。
「私もなんとなくで作った魔物とかはいる。でも、あんなものは命でもなんでもない。半端に縛り付けるだけの生き人形なんて、趣味が悪いとしか言いようがない」
作った魔物を野に放つ時も、サクラはいつも気をかけていた。
出会った当初、俺たちが彼女の作った魔物と戦った話をすると、その結果に目を伏せたり悲しんだりしているのも見せてくれたっけ。
「あんなもので国を運営している男の気が知れない。ユウキ、私もそっち行っちゃダメ?」
「んー……」
俺としては、こんなにキレてるサクラを連れて行きたくない気持ちでいっぱいだが、彼女の感じている怒りは、俺たちの思ってるものともまた違うのだろう。
そうだな、さっき埋め合わせのことも考えよう、と思っていたわけだしな。
「……分かった。ただ、ルジオの手助けはしてやってくれ」
「もちろん」
サクラはこっくりと頷き、手を伸ばす。
彼女の魔力が糸となり、影を通じて、彼女の作品たちが眠る倉庫へと繋がった。
「今回は、出し惜しみなし。私はこの国を滅ぼすと決めたよ、ユウキ」
ゾッとする程冷たい声と共に、彼女の糸に連れられて、1人の少女がサクラの影から現れた。
人間離れした美しさを持つ、真っ白な少女。
その姿はサクラとよく似ていたが、色がまるっきり違った。
真っ黒な衣装と髪をしているサクラとちょうど逆に、真っ白な衣服と真っ白な髪を持つ、瓜二つの姿をした少女は、大地に立つと同時、そっと目を開いた。
「ポキ、その子と一緒に戦ってあげて」
「うん、分かった。あなた、名前は?」
突如現れたサクラそっくりの少女、ポキは俺が知っている限り、サクラの作った最高の人形だ。
端的に言えば、サクラと同じ強さを持っている。
かろうじて違う点があるとすれば、サクラのように人形を作って操ったりしない、ということぐらいだろうか。
戦闘能力で言えば、ポキはサクラと遜色ない。
1人であったとしても並みの存在では手も足も出ないほどに強いサクラだが、彼女が人形たち全てと協力した時は、本当にどうしようもないぐらいだ。
実際、俺たちだってそうやって本気で戦われていたら、たぶん勝てていない。
「我はルジオ! 強大なる魔龍である。お前は、ポキ、と呼ばれておったな」
「うん。私はポキ。サクラの人形。よろしくね」
「うむ、よきにはからえ!」
上機嫌に握手を求めるルジオに対し、ポキは表情を変えずにその手を取った。
真っ白な少女たちの微笑ましい姿はとても素晴らしいが、この2人はこれから国を1つ滅ぼすのである。
というか、ポキを出してきたってことは、サクラはマジでめちゃくちゃキレてるんだなぁ……これから倒すはずの男が、とても気の毒に思えてきた。
俺、もしかしたら、サクラがやり過ぎないように頑張るのが1番重要なのかもしれない。




