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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
70/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【70】

 ユウキたちが作戦会議をしているその最中、彼らが様子を見る王城では、1人の男が机に向かっていた。

 ガリガリと走らせる筆が止まることはなく、ただひたすらに文字で埋め尽くされた紙が部屋へと散らばっていく。

「へへ……ここはもっと、こう、慎重な感じが良いよな……それでいてベッドの上では豹変するってのが……くひひ……」

 薄明りの中でほくそ笑みながら必死に書き続ける姿は、少々狂気的にすら見える。

 整った顔立ちとアンバランスに見えてしまうTシャツ姿と、時折漏れ出る不気味な笑い声。

 周囲に誰もいないからこその姿こそが、彼の本性、真の姿である。

「当然盛れるだけ盛って……」

 彼はやがて文字を書き綴ることをやめ、今度は紙に絵を描き始めた。

 いわゆるアニメ調の美少女を手早く描いていく彼だったが、やがてその出来が気に食わなかったのか、頭をガシガシと搔き毟りながら途中まで描画されたそれをくしゃくしゃに丸めて放り投げた。

「だぁー、違う違う! こんなんじゃないんだよ……もっとリアリティがあって、それでいてオリジナリティ溢れる最高な感じにしなきゃ……」

 頭を抱えながら立ち上がり、彼はふらふらと部屋を出て行った。

 扉の向こうには、3人の美女。

「我が王よ、また何か悩まれているのですか?」

 心配そうに声をかける褐色銀髪の女性。

 騎士鎧に身を包んではいるものの、明らかに身を守るには適していない部位が見受けられるその鎧には、大胆なスリットがあったり、胸元がなぜか開いていたりする。

 赤い瞳で男を見る彼女の名はセリ。

 男が作り出したダークエルフであり、男が考えた果てしなく長い後付け設定があったりするのだが、それを忠実に守っている魔剣士である。

 彼女は生まれながらにして呪われた肉体を持っており、それゆえに幾多の迫害を受けてきた、ということになっている。

 実際のところは男が生み出した存在のため、そんな過去はないのだが、彼女の記憶にはそうして虐げられた記憶がしっかりと根付いているのだ。

 自分を排斥しようとした世界を恨み、彼女は呪われた肉体をむしろ武器として扱い、剣技と呪いの魔術を組み合わせて戦うようになった。

 当然、そうした恐るべき外法の技術は人々による嫌悪の対象となり、人間たちの間で行く先のなくなった彼女は人里離れた森でひっそりと暮らすようになった。

 時折正体を隠して街に出ては傭兵の真似事をして生活費を得る。

そんな彼女の前に現れたのが彼女の今の主人であり、生涯を共にしたいと想う相手たる目の前の男――ということになっている。

 当然これらは男が1人で考えた設定であり、事実として彼女が迫害されていたことも、傭兵をしていたことも、森にひっそりと隠れ住んでいたこともない。

 それでも不思議に思わず、不自然に感じないような錯覚を起こさせているのは、男が持つ能力がそれを可能としているからだった。

 男は生命を作り出す能力を持っている。

 生み出された存在は等しく男が用意した設定に忠実であり、それゆえに彼の支配に無意識に鈍感であり、だからこそ彼の国は細部が雑であったとしても成り立っている。

 彼の欲望のままに、彼の望みのままに、生み出された命たちが生きる国は、むしろそれ以外の形では成し得なかった場所であるとも言えるだろう。

「ったく、困ったらアタシらを頼れって、いつも言ってるだろ?」

 がしっ、と気安い様子で男と肩を組むのは獣人の女性だ。

 彼女はラコ。

 金髪の短い髪と、虎のものに見える耳と尻尾が特徴的だ。

 だがそれ以上に目を見張るのはその強靭な筋肉と、それでいてしっかりと女性らしさを持つ豊満な肉体だろう。

 そういった身体的な特徴をこれでもかと見せつけるように、セリと比べるべくもない薄着をしている。

 これまた胸元がざっくりと開いた薄手のタンクトップと、ホットパンツのような下履き。

 戦闘時には脱ぎ捨てる飾りのようなノースリーブの上着は、もはや着ている意味があるようには見えない。

 このような彼女ではあるが、普段は距離感が近過ぎるくせにいざ攻められると弱い、という乙女な一面もある――という設定だ。

 幼い頃に自身と同じ一族を滅ぼされて以来、孤独に生きてきた彼女にとって、優しく自分を受け入れてくれた男は初めての存在らしく、いつか彼と平和な家庭を築けたら、などと夢見ている。

 実際、この国には彼女と同じ虎の獣人は存在していない。

 男の拘りの設定によって、他種族の獣人はあれこれと増やしてこそいるが、あくまで虎は彼女だけ、としているのだ。

 強い刷り込みのような過去があるからか、ラコは2人きりの時は男に子供のように甘えたりもする。

 それでも、気恥ずかしさが勝ってしまうのか、最終的には赤面して離れていくのが日常的であり、それを他の女性たちは微笑ましく見守っているようだ。

 この国ができてからそれは事実となったが、当然彼女たちが生まれた当初からすでに周知されていた設定であることは間違いない。

 そして、男とて、ただ無造作に生命を作り出し、設定を生やしているわけではない。

「うふふ、そうですよ。私たちに、たーっくさん任せてくださいねー」

 にこやかに微笑む天使のような女性。

 大胆に見せている素肌が、むしろ神々しすら演出しているかのような、セリたち2人と比べても作り物感が強い肌と整ったスタイル。

 白くゆったりとした、まるでギリシャ神話にでも出てきそうな古代の息吹を感じる衣服を身に着けた彼女には、真っ白な翼が生えていた。

 彼女の名はイコ。

 試行錯誤の末、男が初めて自分の傍に置くことを決めた女性であり、彼女だけは複雑な出自の設定が存在しない。

 彼女は戦力だけで言えばセリたちには遠く及ばないが、その力は男のそれと酷似しており、男の力だけでは及ばない様々な状況に対応する頭脳をも持ち合わせていた。

 セリたちが複雑な人物としての自己を確立したまま生み出せたのは、イコが数多の助言と助力を男にしたおかげである。

 彼女の存在が、男を増長させるに至ったと言っても過言ではないだろう。

 それほどまでに、イコの完成度は他の追随を許さなかった。

 事実、彼女が生み出されるまでの間に、いくつもの、数えることすら馬鹿らしいほどの失敗作が生み出されては廃棄されていた。

 中には無限の命だけを正しく与えられてしまった狂った個体などもおり、それを廃棄するのは困難だとしてただただ放逐した過去さえある。

 だが、そうした苦労があったからこそ、男はイコを手に入れることができた。

 失敗作の使い道も奴隷商に売り払うという手を提案してくれたおかげでむしろ資金源とすることができたし、男1人で考えつく設定には当然限界があったが、他者がいることで発想の新たな起点となることも少なくなかった。

 男は3人の女たちを平等に愛していたが、誰よりも重用されているのは間違いなくイコであった。

 女性たちの優しい言葉に、男はにこりと微笑み返す。

 外見だけならば、確実に優男――だがその内面は、前述のような設定を踏まえた女性を生み出し続け、ハーレムを形成するただのオタク。

 転生者であり、自身の持つ転生特典能力を、自分のためだけに使い続ける、他の転生者たちからも厄介者だと認定された存在。

 彼の名はジンジ。

 生命を生み、その悉くを自らのために冒涜する忌むべきものであり、ただただ――気持ち悪いだけの男である。


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