俺の嫁はエルフ受けが悪い【7】
『ハンナ、ユウキ、できればすぐに帰ってきておくれ』
突然村長から届いた便りは、その1文だけだった。
「何があったんでしょう……?」
「うーん、あの村で俺たちが必須な出来事とか、そうそうないと思うんだけどな……」
「まあでも、こんな急な便りを送ってくるってことは、さすがに緊急事態なんじゃない?」
俺、ハンナ、ザクロの3人でのんびりとお茶をしていた時のことである。
明日辺り帰ろうか、思ったより長居してしまったし、などと話していた俺たちの会話をぶった切る形で、突如俺たちに届いた便り。
3人で囲んでいたテーブルの中心に突如現れた手紙は、確実に村長の魔法だった。
俺たちの村でかなり離れたここに、手紙だけでも転移させられるのは村長ぐらいなもので、その村長が緊急のような連絡を寄越したということは、村に何かしらの問題が起こっている証だ。
「だが、それで俺らを呼ぶってのもよく分からんな」
「多人数が出払ってる、とかでしょうか」
「いやいや、あんたたち、もう少し危機感持ちなさいよ」
ここ数日を過ごした客間の中、食器を片付けたり私物を纏めたりしながら呑気に話す俺たちを見て、ザクロは呆れ顔だった。
「こんな連絡が来てるんだから、普通はもっと焦って戻るもんじゃないの?」
言いながら、彼女は俺たちがすぐにでも村に戻れるように転移魔法の準備を進めてくれていた。
本当に心から頼りになるなぁ。
「普通ならそうなんだけどな」
「私たちの村のことなので、魔王が数人で攻め込んできた、とかじゃなければ大事に至らないと言いますか……」
「いつも思うんだけど、あんたらの住んでる村、本当に村扱いでいいの?」
俺とハンナは顔を見合わせ、互いに苦笑を浮かべた。
「まあ、村人全員、求めてるのが平和なスローライフだからなぁ」
「村長さんも村を広げるつもりとか発展させるつもりが全然ない方ですから」
「……ホント、わっけ分からない村よね、あそこ。さ、もう行ける?」
荷物を纏め終えた俺たちを見て、ザクロは杖を振り上げる。
「行けます!」
「おう。って、ん、ザクロも来るのか」
「一応、様子見にね。あそこで問題が起きたら都市部にも影響あるかもだし。これでもお偉いさんですから」
俺たち3人を巻き込むように展開された魔法陣は、眩い白色の光を放っていた。
ザクロの魔法に慣れているせいで、手元にある便りを送るようなのが普通の転移魔法なのだよな、と改めて感覚の狂いを理解する。
普通の転移魔法で人を送るのはかなり危険で高度な技術を要する、らしい。
転移先の地形などを把握していなければ、対象が中空に飛び出したり、水中に落ちてしまったり、最悪の場合そこに存在している物、岩や人と重なってしまったり、と恐ろしい結果になることもある。
なんなら、罠として転移魔法を利用している場合もあるぐらいで、ザクロのように便利に使う者はこの世界では珍しい、らしい。
俺にとっては魔法が使える時点で別次元の話なので、全てが聞いたものだが。
ザクロは高い空間把握能力と遠い土地の状況を見通す力、転移先の出現地点周辺への影響、逆に出現地点からの影響、物理的接触、魔法的干渉などなど、あらゆる要素を把握、計算の上で魔法を構築するからこんな使い方が可能となっている、とかなんとか。
俺たちがこちらに来る時も問題なく転移できたのは彼女の技術あってのものらしい。
以前説明を受けた時は、俺たちパーティメンバー全員がチンプンカンプンだった。
「ともかく、私の転移魔法は安全安心、ってわけ。分かったらもっと褒め称えなさい」
と締めくくっていたかつての彼女を思い出し、少し微笑ましく思う。
「いやだから、緊張感……」
「ああいや悪い、ちょっと昔を思い出してな」
口元を緩ませていた俺を見て再び呆れ顔のザクロに、ぺこり、と頭を下げる。
「いつもすごい魔法で俺たちを助けてくれて、ありがとうな」
「な、何!? ホント急にどうしたの!?」
顔を真っ赤にしているザクロを見て、ハンナもぺこり、と頭を下げた。
「ザクロちゃん、いつもありがとうございます!」
「なんなのよ、2人揃って! もう、飛ぶわよ!」
照れ隠しのように魔法が発動し、魔法陣から強い光が発される。
そういえば、お義父さんたちにちゃんと挨拶してなかったな。
とはいえ、ザクロが協力してくれるのならば、またすぐに戻ってくることもできるだろう。
バタバタとした帰郷だったが、ハンナとしてはもう少しこちらにいたかっただろうか?
落ち着いたらそういう話もしよう、などと考えているうちに視界は白い輝きに覆われ、俺たちは村へと転移するのだった。
「いっけぇぇぇっ!!」
「うぉぉぉぉっ!!」
村に戻って早々、力強い叫びと共にぶつかり合う姿が目に入ってきた。
片方はマサギ、そしてもう片方は、
「……何やってんだ、サクラのやつ」
筋骨隆々のウサギと取っ組み合っているのは、同じぐらいの背丈を持つ、巨大な騎士鎧だった。
真っ黒な鎧とがっぷり四つになったマサギは、野太い声をあげながら力強く相手を投げ飛ばそうとしている。
「ぬぅぅぅぅん! ここで負けるわけにはいきません! このマサギこそが! ユウキ殿の最上の友であると証明するのです!」
対して、鎧の方は無言でマサギに投げられまいと耐えていた。
その傍らで、可愛らしい少女が元気に鎧を応援している。
「オウガイ、やっちゃえー! そんな変なウサギに負けるなー!」
「変なウサギとは失敬な! そこらのウサギとは少し体の造りが違うだけですぞ! 見なさいこのつぶらな瞳! そして愛らしきウサ耳を!」
「その下についてる肉じゅばんが変だもん! 可愛くない!」
「なんっと! この筋肉を変ですと! これこそが我がアイデンティティ! マッシブでなくては私にあらず! そしてウサギでなくとも私にあらず、なのですよ!」
言い争いながらも、マサギは組み合った鎧と一進一退の攻防を繰り広げている。
マサギが少し押したかと思えば、鎧が再び元の位置に戻す。
逆に鎧が少し押したと思えば、マサギがまた同じように押し返す。
互いに譲らない戦いは、一向に決着がつかなかった。
「えーっと、ユウキさん、どうしましょう?」
彼らのやり取りを呆然と見ていた俺たちは、顔を見合わせる。
「サクラがここに来たってことは、あんたが目的でしょ? ってか、あの筋肉ウサギが言ってた新しい家族?」
「そうなんだが、何だってまたサクラと争ってんだか……おーい、2人とも! そのぐらいにしておかないかー?」
放っておいたら周囲に被害が出かねない、というか我が家が確実に被害を食らいそうなので声をかけてみた。
すると、
「あっ、ユウキー!」
俺に気付いたサクラが元気いっぱいに駆け寄ってきた。
相変わらず可愛らしいなぁ。
「おう、久しごっふぉっ!!」
などと思う間もなく、気付けば俺の腹にサクラの頭が直撃していた。
凄まじい速度で地面を蹴り、一瞬で飛び込んできた彼女の動きが見えなかったのは、俺が衰えたのか、彼女が成長していたのか。
どちらにしても、普通の人間だったら良くて骨折、悪くて真っ2つの勢いで、彼女は抱き着いてきていた。
咄嗟に踏ん張ったおかげで倒れず受け止められたが、いやはや、相変わらず常識外れのパワーの持ち主である。
口の中に上がってくる血の味に、内臓がいくつかやられたことを感じながら、俺は痛みに耐えて笑みを浮かべた。
ここ数日の扱いに比べたら、こんなもの屁でもない。
「サクラ、急に突っ込んできたら危ないだろ? 俺じゃなきゃ死んでるぞ?」
というか俺でもたぶん1度死んでるぞ、これ。
『不死身』の効果で何かが再生してる感じがするもん。
横でハンナは慌てて回復魔法をかけてくれていた。いつもありがとう、妻よ。
「えへへー、ユウキにしかやんないもん」
俺の腹にぐりぐりと頭を擦りつけ、サクラは嬉しそうに笑った。
こうして見ると、異様な力を持ってる以外は普通の可愛らしい女の子なんだがなぁ。
彼女、サクラは俺のかつての宿敵、魔王だった。
だった、というか、今でも彼女は魔王である。
「今日はどうしたんだ? 村まで来るなんて珍しいじゃないか」
「うん、えっとね」
サクラが事情を説明しようと、下げていたポシェットから何かを取り出しかけたその時、
「ふんぬぅっ!」
奥でまだ黒鎧、オウガイとやり合っていたマサギが力強い叫びと共にとうとう相手を投げ飛ばした。
宙を舞う巨大な鎧だったが、「あ、忘れてた」と雑にサクラが腕を振るった瞬間、華麗に中空で回転し、まるで新体操の着地がごとく地面に着地して見せた。
「オウガイ、戻ってていいよ」
彼女の言葉に、オウガイは静かに一礼すると、そのまま溶けるように地面に広がり、サクラの影の中へと吸い込まれていった。
魔王サクラは人形遣い。
空っぽの鎧騎士である『オウガイ』に加え、強力な人形を数体保有し操る、強大な力持った魔物たちの上位存在、魔王の1人である。
「勝負ありですね! やはり私こそが! ユウキ殿の最高の友!」
勝ち誇っている様子のマサギだったが、実際のところあいつよりもサクラの方が断然強い。オウガイをきっちりサクラが操っていたら、きっと勝負にすらなっていなかっただろう。
なんなら、サクラ本人が取っ組み合っていたら、マサギは今頃何度地面を転がっていたことか。
「むむっ、ユウキ殿、その憐みの籠った視線は何ですかな?」
「いや、まあ、後でお前にも事情は聞くよ。で、サクラ、何を俺に見せようとしてくれたんだ?」
「うん、これ」
彼女が取り出したのは、1通の手紙だった。
「はい、どうぞ」
「ありがと」
ハンナが淹れてくれたお茶を受け取って、サクラは軽く香りを楽しんでから口を付けた。
「お茶淹れるの、ずいぶん上手になったね、ハンナ」
「えへへ、ちょっとずつ成長してるんです」
「そっかぁ。上手く言えないけど、嬉しい」
笑い合うハンナとサクラにこちらまで笑顔になってしまう。
姉妹のように楽し気に話す2人を見ていると、いつまでだって過ごせてしまいそうだ。
と、和やかにしている場合ではないのだった。
「で、さっきの手紙の話だけど」
こういう時、ザクロの真面目さがありがたい。
俺も表情を引き締めて、改めてテーブルの中心に置かれた手紙を見た。
「他の魔王からの救援要請、ってことよね、これ」
「……たぶん」
手紙から逃れるように目を逸らし、サクラはカップで顔を隠すようにお茶を啜った。
この世界における魔王は1人ではない。
何人もの魔王が存在しており、実際、王として都市を治めている者もいれば、魔王という種族なだけでその辺をふらふらしていたり、中には人間と一緒に暮らしていたりする変わり者もいる。
あくまでも種族として魔王と呼ばれる面々がいるというのがこの世界における魔王の立ち位置。
魔物の上位存在であり、その辺の魔物よりずっと知能が高く、人に近い姿をしている者が多く、そして、何よりも果てしなく強い。
俺たち転生者がこの地に集められ、勇者特権を与えられるのは複数人いる魔王に対抗するためなのだとか。
以前、「魔王がいっぱいいるなら、勇者もいっぱいいるべきだよね、ってことじゃないかな」とタンポポのやつが考察していたのを思い出す。
実際のところは俺たち転生者にも分からない。
どいつもこいつも、気付いたら能力を与えられてこっちの世界に転生してきてたのがほとんどだ。
例外も、俺のように転生どころではない雑な感じで連れてこられたのばかり。
この世界に俺たちを招いたのがどんな存在なのか、知っている者は1人もいない。
「『人間の革命軍が領地で暴れているため、助力を願いたい。人間との和平に成功した数少ない魔王の1人として意見をくれるだけでも構わない。良い返事を期待している』ねぇ」
「和平、和平かぁ……」
俺はサクラの方を見て、出会った時のことを思い出す。
あの頃は、俺も漠然と旅をしていた。
魔王がいる城を教えてもらって、出向いて、サクラと出会って、戦って――俺が勝って、彼女は起き上がり、俺の仲間となってくれた。
俺の未熟さや考えの甘さから発生した争いでもあったし、サクラにはサクラの考えや事情があったし、今にして思えばあまり褒められた戦いではなかったようにも思う。
「人間は嫌い。魔物も嫌い。他人は、全部嫌い。私が見たくないものばかりで溢れてるこの世界が大っ嫌い。お願いだから、黙って消えて。今なら、見逃してあげるから」
かつて、驚くほど冷めきった目で、そう言ってきたサクラのことをよく覚えている。
自らが作り上げた人形たちに囲まれて、ただ1人、城の奥にいた魔王。
死力を尽くして戦い、その後俺の手を取り、今でも多少の人見知りはするものの、すっかり明るさを手に入れた彼女。
結果として今、こうして仲良くできているのだから、悪い出会いではなかった、と言い切れる。
とはいえ、だ。
「俺たちと同じような形は、これ送ってきた魔王さんは絶対望んでないよなぁ……」
サクラが俺たちと仲良くしてくれているのは、俺の『勇者特権』で彼女が俺の仲間扱いになっているからだ。
言ってしまえばマサギと同じ。
魔王のような存在が仲間になるのか、という疑問は俺も浮かんだのだが、この世界の魔王はあくまで魔物の延長線上にある存在らしく、勇者特権が発動してしまえば仲間になる場合もある、ということらしい。
事実として仲間になっているわけだが、それ以上のことは俺にも分からない。
何しろ、レベルだのスキルだのといった概念が存在するゲームに似た世界だ。
説明書なしで放り込まれた手前、手探りで事実を受け止めながら生きるしかない。
「とはいえ、他の魔王から直々に手紙が来てる以上、無視するわけにはいかない、って感じね。サクラ、あんたはどうしたいの? この魔王のこと、助けたい?」
「……」
サクラは不安そうに俺とハンナを交互に見てから、ザクロにおずおずと言った。
「私、この人のこと知らないから、どうしたらいいか分からない……」
「ああ、なるほど……」
その言葉に、ザクロは納得した様子で俺を見た。
まあ、そんなことだろうと思った。
サクラは、俺たちには随分と慣れてくれたので元気に接してくれる。
だが、基本的に彼女は極度の人見知りであり、元々引きこもり体質の引っ込み思案なのだ。
「他の魔王から助けが来たから、っていうより、知らない人から手紙が来たからどうしたらいいのか分からなくなった、ってわけね」
ザクロが優しく言うと、サクラは素直にこくんと頷いた。
「であれば、ユウキ殿立ち合いの元、その魔王殿と話し合ってみてはいかがですかな? 1人で会うのは怖くとも、ユウキ殿が隣にいれば問題ないでしょう」
「……マサギ」
「何ですかな?」
「お前が喋るとサクラが怯えるから静かにしててくれるか?」
マサギの野太い声が響いた瞬間、隣に座っていたサクラが俺の服裾を掴んできた。
出会いがしらは勢いで何とかなったものの、今になってマサギに人見知りし始めたらしい。
同じ、俺の仲間同士ってだけじゃ超えられない壁もあるみたいだ。
まあ、普通マサギに声かけられたりしたら怖いよな、初見だとなおさら。
さすがにもう俺は慣れたけど、ザクロも微妙な顔してるし。
「な、なんと……」
俺が容赦ないことを言ったせいか、はたまた改めて怖がられているせいか、マサギは多少なりショックを受けているようだった。
きちんと話していけば、マサギが悪いやつじゃないとサクラも理解してくれるだろうが、まあ、それはおいおいやっていくとして。
「あー、そうだな、よし、マサギ、頼みごとをしてもいいか?」
「な、何でしょうか。私にできることならば、喜んで」
「村長のとこ行って事情説明してきてくれ。あれだろ、たぶんサクラが来た時点であの人のことだから、村人たちと集まって何が起きてもいいように待機してるだろ」
この村は、土地そのものはそこそこ広いものの、住人はさほど多くない。
全員がのんびりとした生活を好み、互いに助け合いながら、細々と暮らしている。
だが、一時危険が迫りでもすれば、全員がその能力をいかんなく発揮し、対処することになっている。
並の魔物であれば、群れであっても俺たちの村を潰すのは難しい。
魔王であったとしても、ある程度実力のある魔物を従えてるような強大な存在でなければ話にならない。
村長をはじめとして、村人は軒並み転生者。
しかも、レベルは全員80前後。
魔王と戦った当時の俺が78とかなので、ここでは普通に暮らしている村人Aがラストダンジョンに挑むぐらいの実力を有してたりする。
転生者同士で「強大な力を持ったはいいけど、別に争いとか好きでもないし」と枯れた考えで集まった者たちが作っていった村。それが、俺たちの住む村だ。
住んでいる自分が言うのもなんだが、普通にそこらの都市国家の総合戦力より断然強いこの村に、手出しをしようという考えを持つ者がいたらそれはよほどの馬鹿か、あるいは世界を滅ぼせる神とかである。
誰が呼んだか『サカイ村』。
人の平和に暮らす土地と、魔物や魔王が跋扈する土地のちょうど境に存在するこの村は、平和に暮らしているだけなのに人類側の最強の壁になっている。
国境線、という程の具体的なラインはないが、魔物側からも、超えてはいけない線として、俺らの村のことは伝えられているらしい。
俺たちとしてはそんな実感はあまりないのだが、もう1つ、ここが境界として機能している理由に、サクラの存在があったりする。
元々ここらはサクラの縄張りとされており、事実、彼女の城も俺たちの村のすぐ近くに存在している。
強大な魔王の住処周辺には、自然と強力な魔物たちが生息するようになるため、結果としてこの村周辺の魔物はレベルが高いのだ。
とはいえ、当の本人である俺たちはあくまでもただの村人のつもりで生活している。
村長はこの村を守るために全力を尽くす人だし、争いが嫌いな人が多いとはいえ、守るための戦いぐらいは当然する。
突然のサクラ来襲に、怯えた村人でもいたのだろう。
サクラとの関係について、俺は村長意外に特に何も伝えていないし、「魔王が突然村に来た」とか、誰かが村長に言ったのが真相だと思われる。
あんな便りを寄越した以上、村長は今も戦いの準備をしているだろうし、俺が出向いて誤解を解くべきなのかもしれないが、まあ、マサギなら大丈夫だろ、たぶん。
村長には俺の家族だって説明してあるし、サクラの名前を出せば何とかなるはずだ。
「俺たちが戻ってきたこととか、サクラが暴れるために来たわけじゃないことと、そうだな、お前が戦ってたことについても説明しといてくれ。あれで怯えた人もいたんだろうし」
「そ、それは! ユウキ殿の口添えがあってこそなし得ることでは!?」
「村長は話が通じない人じゃないし、何とかなるだろ、たぶん」
誤解は解けるかもだが、2人の争いに関してはどうやったら納得してもらえるか、俺には分からないので、ここはマサギの頑張りに賭けるしかない。
とはいえ、村長のことだ。
マサギが暴れた結果抉れた地面を埋め直させるぐらいで済ませてくれるだろう。
「頼んだぞ、マサギ」
「む、むむ……そこまで言うのでしたら、分かりました。その役目、果たしてきますとも!」
マサギは綺麗な一礼をすると、静かに家を出て行った。
基本的に礼儀正しいのが良いところだよな、マサギのやつ。
見た目が見た目だから、それすらギャグっぽくなってるのが玉に瑕だが。
「で、だ。サクラ、さっきマサギが言ってくれた提案はわりと悪くない、と俺も思ってる。それに、俺だけじゃなくハンナとザクロも一緒だ。これなら、どんな人が相手でも怖くないだろ?」
俺の言葉に、ハンナたちも笑顔で頷く。
それを見たサクラはまだ少し不安そうにしていたが、やがて小さく頷いてくれた。
元々これはサクラのところに来た話だし、俺たちが力になってやれるなら何よりだ。
それに、人間の革命軍、ってのも少し気になる。
つい最近、そんな話を聞いたような……いつだったろうか?
「よぉーし! これでこの村も我々の占領下となった! 夜明けは近いぞ、諸君!」
高々と、旗を掲げて少女が叫ぶ。
その力強い言葉に、武器を手にした人々が雄々しく応えた。
「タンポポ様! 救世主様! 我らを勝利に導いてくだされ!」
彼らの熱狂的な言葉に、少女はさらに強く旗を振って返す。
辺りに転がるいくつもの魔物たちをしり目に、人間たちの雄叫びは広がり続けていた。
「ど、どうしましょう……」
そんな広がる戦火を、遠見ができる水晶に映しながら、怯えた様子で見つめる1人の少年。
「ま、今は何もできないだろうねー。のんびり待とうよ、援軍を」
それを向かい側で見つめていた少女が笑う。
「大丈夫、最強の助っ人を連れて来てくれるよ、サクラは。僕を信じて」
自信満々に言うその姿は、水晶の向こうで旗を振る少女と瓜二つだった。




