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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
68/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【68】

 家に招き入れると、ヒイラギのやつは静かに椅子に腰かけた。

 あらゆるものから、というか、じぃーっと見てきているサラから目をそらしまくっているのは、別に彼女を預けてどっかに行っていた負い目、ってわけじゃないだろう、と俺は理解している。

 さっきのだ。

 さっき俺に声をかけてきた時、サラがすぐ近くにいることに気付かず、素で話してしまったのが気まずいのだろう。

 もっとも、サラとしては、久しぶりに会った養父の姿が気になるないし、話したいことがあるって感じなんだろうけど。

「それで? お前が戻ってきたってことは、その子の関連で何かしら情報が掴めたってことだよな?」

 オレが向かいから指摘をすると、ヒイラギは小さく頷いた。

「思っていたより、良くない状況だ」

 ハンナをはじめ他の面々がいるからだろう、ござる口調はやめて、彼は冷静な感じで目は逸らしながら続けた。

「俺が調べた限り、明らかに元々こっちの世界に存在してないような生き物が各地で奴隷商に売り払われていたり、野放しになっている。このままでは、生態系にまで影響が出かねん」

「外来種を野に放つようなやつがいるってことか」

 俺が呆れてため息をつくと、ヒイラギはこくりと頷いた。

「これがただ魔物を作るばかりであれば、俺も問題視しない。ただ魔物を全て退治した上で元凶を討てば良いのだからな。だが、それだけで済む問題ではなくなっている」

「と、言うと……」

 俺の視線は、自然とサラの方へと向けられていた。

 こちらの世界に本来であれば存在していない種族、ダークエルフ。

 彼女がいることは、同時に1つの可能性を示す。

 こちらの世界にいない生命を作り出せるそいつは、知性体、要するに人間相当の生き物だって作り出せちまう、ということだ。

「そうだ。サラのような、人相当の生命を作り出している人物がいる。そしてそいつは、勝手に国を興しているんだ」

「国だぁ?」

 そらまた、ずいぶん大がかりだな。

「調べるうちに、小さなものではあるが、国をしっかり作り上げつつある転生者がいた。それも、こちら側の世界に元々いない種族の亜人と呼ぶべき存在を大量に作って、そいつらをの国を作っているんだ」

「おいおいおい、なんだそれ」

 マジで思ってた以上に大事じゃねーか。

「少なくとも、俺が観測してきた限りで、存在しているのは3種類。まず動物の耳と尻尾を持つ種族、次に羽を持つ天使のような種族、そして、サラのようなダークエルフだ」

「……」

 頭を抱える。

 天使、天使かぁ、と数日前の恐怖体験を思い出す。

 アルカイックスマイルで、頭のおかしな魔物を作り出していた、怪物みたいな女。

 オモト、と名乗っていたあの女みたいなのがいっぱいいるんだと考えたら、あまりにも最悪だ。悪夢でももう少しマシなぐらい。

「どの種族も女ばかりだった。国家のようなものを形成してはいるが、男は1人だけ。そしてその男というのが、国の王として君臨する者であり、俺が倒すべきと考える転生者らしい」

「なんつーか、やべぇなマジで」

 こっちに来てから、転生者に会ったことは何度もある。

 そもそも俺たちの住んでいるサカイ村は転生者の村だし、我が家が例外的にいろんな連中が住んでいるだけであって、他の家の住人は皆すべからく転生者だ。

 村長も転生者の旦那さんがいるわけだし、ザクロたちを始めとした国家お抱えみたいなすごい地位にいる転生者も珍しくない。

 だから国を興した転生者がいる、ってのも別に妙な話ってわけじゃあないが、良い話とはあんまり思えないのも確かだ。

 魔物たちが跋扈していて、どこぞの魔王が支配している土地なんてのもこの世界にはごまんとあるし、何より人間たちと魔族の領土ってのも明確な線引きがされているわけじゃない。

 魔物たちとの戦いは終わったためしがないし、俺がこっちに来た時点ではすでに魔王との戦いってのも当たり前のものになっていた。

 勇者として魔王を討ったやつ、ってのは少ないが、いないわけでもないし、なんなら俺もその1人として数えられてるぐらいだし、魔王を倒してその支配権を丸っと得た転生者もいないわけじゃあない。

 ただ、そいつは国を手に入れた後、政治的な知識が乏しすぎたせいであっという間に国を乗っ取られ、転生者としてのチート能力を危険視されて暗殺されちまった。

 それ以来、国を手に入れようとする転生者はめちゃくちゃ減った。

 何しろ、こっちに転生してくるやつは半分ぐらいが元々学生で、元々が社会人だったとしてもほぼほぼ良い前世だったためしがない。

 かつての知識を活かして無双できる程何もない世界ではなく、すでに来ていた転生者による手が入りまくったこっちの世界において、国を作っても敵を作るばかり、というのが俺たち転生者の認識だったりする。

 んでもって、それは転生者のコミュニティに関わろうとするやつだから知れることでもあるわけで。

「あれか、こっちに来たばっかのやつって感じなのか?」

「それが、どうも違うようでな」

「おん?」

「どうやらこっちで転生者同士の関わりにおいても問題視されていた人間が、1人で世界を狙っている、というのが実態のようだ」

「うわぁ……」

 考えたくもないが、あり得る話だとも思う。

 例えば、だ。

 俺たちを筆頭に、という言い方をしてしまうが、他人とまっとうなコミュニケーションを取るようなタイプの人間は、かつての人生においても、最低限は他人と関わる能力を持っていたりした。

 友達が多かったわけじゃなくても、人と話す時は気を遣う、みたいな当たり前のことが、当たり前にできる人間だったわけだ。完璧とは言わんが。

 ただ、全員が全員そういう人間、というわけじゃあない。

 こっちの世界に元々住んでる人々にだって、自分勝手で自由気ままで、他人のことなんてお構いなしな人はいる。

 んで、転生してきてる連中がたくさんいるって現状、そういうどうしようもない、言い方は悪いがクズみたいなやつも、当然いる。

 転生の基準が分からん以上、そういう人間だって紛れ込んでしまうってのはあり得るだろうし、そいつが厄介な能力を持ってるってのも、ない話じゃないだろう。

 しかし、国まで作れるような能力持ちが、そういう性格ってのは、マジでヤバそうだ。

「ある程度国の形になるまでお前が把握してない、ってことは、性格は悪くても頭は悪くない、ってことだよな」

「ああ、厄介なことにな。とても慎重に動き続けているため、他国から働きかけることも難しいようだ」

「今国作ってるって場所は、土地的にはどうなんだ?」

「中立地であり、元々人の住める場所でもない魔物の領域だったはずだ。しかし俺が見に行った時には、魔物は存在していなかった。1匹たりともだ」

「……マジかー」

 出てるねぇ、生態系に影響。

 その国作りの転生者ってのがどういう能力者なのかは分からんが、魔物を一掃できちまう程度の力は持ってるってことだ。

「思うんだけどさ、それ、俺たちが個人的に力を貸してなんとかなるレベルなのか?」

「……俺の見立てであれば、全員が揃えば何とかなるだろう」

「え、マジ?」

 頷くヒイラギは、冗談で言っている様子ではない。

 まあ、うん、俺たちパーティが勢ぞろいするなら、そりゃ国の1つも落とすのは無理ではないかもしれんけど。

「めっちゃ大変じゃね?」

「だろうな。しかし――」

 ヒイラギの視線が、わちゃわちゃと遊んでいる子供たちの方に向く。

 マサギが筋肉を活かしてあれこれと持ち上げてくれるのを、ナエとルジオが目を輝かせて楽しんでいる。

 んで、それをそわそわしながら、混ざりたいような混ざるのは少し恥ずかしいような、といつた具合に見ているサクラもいる。

「彼女らの助けがあれば、確実では?」

 なるほど、それは確かにそうだろう。

 しかし、だ。

「俺としちゃあ、サクラとルジオの手を借りるのはあんまなぁ」

 あの子たちは確かに強いが、それを頼りにするのはあんまり、気が進まない。

 単純に、あの子たちには戦いの中よりも、平和な世界で普通の生活を送ってほしい、というのが本音だったりする。

 なんというか、勝手な話ではあるが、親心みたいなもんだ。

「やはり、お前ならそう言うだろうと思った」

 頷くヒイラギは、「だが」と静かに続けた。

「それでもあの子たちは、お前の身に危険が及べば勝手に動く。あの子たちのことを想うように、あの子たちもお前を想っている。その気持ちまで否定すべきじゃないだろう?」

「……お前が言うか、それ?」

 呆れ顔で返す俺に、ヒイラギは薄く笑った。

「俺自身がお前にそう教えられたのだから、同じことを伝えるべきだと思ってな。お前の気持ちを伝えた上で、あの子たちがどうしたいか、きちんと聞くべきだ」

「まあ、そりゃそうだな」

 俺は改めて、家の中にいる面々に聞いた。

「そもそも聞いてたか分からんが、どうしたい?」

 俺の言葉に、遊びまわってた皆も、話をちゃんと聞いていたハンナやサラもこっちを見てきた。

「私は、ユウキと一緒に行くよ」

「我の力が必要であろう? 良いぞ、ユウキのためだからな」

 中でも強い2人は即答。

「私も、もちろんユウキ殿のお力となりますぞ!」

 マサギもこんな調子だが、ナエとサラは、どうしたらいいのか分からない様子で視線を向けてくるばかりだった。

 さすがにこの子たちを連れて行くってのは、厳しそうだよな。

 さて、これらを踏まえて、だ。

 俺は、どうしてやるべきだろうか?


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