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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
66/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【66】

「ユウキ殿ぉー!」

 ドドドド、と凄まじい地鳴りのような音を立てながら、マサギが土煙を上げて走ってきた。

 よくよく見てみれば、その両腕には大量の丸太が掴まれている。

「資材はどちらに運べばよろしいですかなぁー!?」

「あ、ああ、家の前に置いといてくれ。お前ん家な」

「承りましたぁー!!」

 叫び声と共に、俺たちの横をマサギは駆け抜けて行った。

 その方に乗っていた少女たちは楽しそうなもんだ。

 ちょっと前にたくさん見てしまった泣き顔はどこへやら。

 ルジオはすっかりマサギの筋肉に夢中である。

 そしてその横で少しばかり柔らかい表情を浮かべているサラもいた。

 どういうわけか、子供たちの間でマサギのやつはわりと受けが良い。

 俺たち大人の眼からしてみれば、筋肉達磨の顔ウサギとかいう恐ろしいキメラも良いところ、という外見をしているのだが、子供たちからしてみれば、そんなことは関係ないようだ。

 いや、逆にあのアンバランスな姿が、受けてるって説もある、か?

「あー、なんというか……放っといてもわりと良さそうな雰囲気あるか?」

「そうかもしれませんね……」

 俺とハンナは苦笑いを互いに浮かべて、どちらともなく、手を握り合った。

 ずいぶんと久しぶりの、2人の夜って感じだ。

 いやまあ、それを楽しむようなのは、せめてマサギハウスの増改築が終わってからにするべきだとは思うけれども。

 でも、

「……」

「……」

 手から伝わる温もりが、あまりにも心地よくて。

 隣で俺の方を見上げてくるハンナの上目遣いがあまりにも愛おしくて。

 高鳴る心臓があまりにも煩くて、今日も今日とて、俺はまるで初恋を覚えたばかりの頃のように、ハンナと触れ合っているだけで、あまりにもドキドキしてしまう。

 中学生みたいだな、と自分のことをどこか冷めた感覚で思いながらも、しょうがないだろうが、と開き直る自分もいる。

 だって、こんなにも、こんっなにも可愛いんだよ!!!???

 俺は今でもハンナの存在が信じられないぐらいに愛おしい。

 それはもちろん外見的な部分ではなく、内面も加味してのものだ。

 ハンナと一緒に生活する中で、旅を続け、時を共に歩み続ける中で、俺はそれはもう、何度だってハンナに惚れ直してきた。

 一目惚れから始まって、気付けば結婚して、日々を共にしてもう1年以上が経っているが、夫婦仲は冷えるどころかこうして熱さを増しているぐらいである。

 毎日毎日顔を突き合わせていたとしても、決して飽きることがない。

 いや、飽きるなんて概念がハンナに対して通用するのだろうか?

 しないだろう、決して俺はハンナの姿に飽き足り見慣れたりはしない。

 毎朝目が合う度に心は跳ね上がり、今にも踊り出さんばかりなのだから。

 ああ、きっとこんな日々がこれからも続いていくのだろう。

 そう、明日からにでも、また2人きりの生活が再スタートすることで、また俺は毎日ハンナの存在に感謝して、日々に喜びを感じるようになっていくのだろう。

「ぬぅおわぁーっっっ!!!!」

 うーん、ダメそうな悲鳴が聞こえてきたぞ。

 無視しちゃダメだろうか。

 幸せな空間を維持するためにも聞こえなかったことにはできないだろうか?

「ユウキさん、今のって!」

 はい、ハンナはばっちり聞いてましたし、良い子でした。

 俺が悪かった。

「マサギの声だ、行こう!」

 そうして、もう少し雰囲気に浸っていたかった俺とハンナは、手を取り合ったまま、森を後にするのだった。



◆◆◆



 急いで家の前にまでくると、そこでは、

「ハンナ殿ぉー! ユウキ殿ぉー! 助けてくだされぇー!」

 叫び声をあげながら助けを求めるマサギの姿と、

「見ておるが良い、我が素晴らしき居城をこさえてくれよう!」

 龍の姿に変化して、木材をあれこれ積み木のように組み合わせているルジオの姿と、

「……」

 おろおろしながらそんな2人をどうしてあげたものか、そもそも俺たちを呼んでくるべきなのではないか、と困り果てた様子でいるサラがいた。

 何やってんだか、と呆れながら、俺たちは3人に歩み寄って行く。

「ルジオ、その木材はそのままそこに置いておいてくれ」

「む? 心配せずとも、我の建築技術は一級だぞ? これでも人間たちの住む家をいくつも見てきたからな!」

 いやいやいや、そういう問題じゃないんだよな、と言いたいところだったが、よくよく見てみると、ルジオがくみ上げていた木材はしっかりと固定されているようで、元々のマサギハウスをベースに、縦に長く積み上げるような形で新たな家を組み合わせようとしていた。

 その姿はまさしく、天に昇る龍のよう。

 とはいえ、そのまま建築を進めさせると、それはそれでよろしくなさそうな感じもする。

 日照権とかさ、主張されそうじゃん。

 ここ、転生者たくさんいるし。

「あのな、ルジオ」

 俺が改めて苦言を呈そうとすると、

「ルジオさん」

 横からハンナがまた、そっと手を挙げてきた。

「ちょっといいですか?」

「む、なんだ?」

「こちらですが、少々形式が他の住人の皆さんと喧嘩しちゃいそうな感じがします。でも、とっても素敵なお家になりそうなので、良かったら一緒に設計魔法を作ってみませんか?」

「ほう、設計魔法とな?」

 興味がわいたのか、ルジオは建築途中だったその場から離れ、人の姿に戻るとハンナの横にちょこちょことやって来た。

 それと同時、ハンナの手がするりと、俺から離れて行く。

「魔力を編むことで、その通りに木材が置かれる魔法です。事前に設計図を作ることでですね――」

 説明しながら一度家に戻ろうとするハンナに続いて、ルジオもそちらに入って行く。

 ああもう、いよいよ俺抜きで仲良くなり始めてしまったよ、あの子たち。

 俺は火がついてしまったハンナの様子に、明日以降も2人の生活は無理だな、と悲しい気持ちを抱くのだった。

「いやぁ、また家族が増えたんでござるなぁ」

「なんかもう、諦めた方がいいような気がしてきたよ――って、うおっ!?」

 と、不意に横から聞こえてきた声に、慌ててのけ反る。

「はっはっは、良いリアクションでござるなぁ、ユウキ殿」

「おま、ヒイラギ、どっから現れた?」

「今来たんでござるよぉ」

 にたにたと笑う姿に、俺はさらなる疲労の予感を覚えながらも、

「……とりあえず入れ。茶ぐらい出してやっから」

 と、彼を家に招き入れる。

 そんな俺たちを、じーっと、サラが静かに見つめているのだった。


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