俺の嫁はエルフ受けが悪い【65】
「それでは、私共は木材を集めてきますので!」
力強く言って、マサギは森の中へと消えて行った。
その背にはルジオとサラが引っ付いている。
ナエには、木々の伐採という少々ショッキングな出来事がこれからやってくるので、どうしたものか、と当人に聞こうとしていたところ、
「私、見てるよ」
とサクラが珍しい提案をしてくれたので、お願いすることにした。
正直、ツムギのところに1人で残していくのは心配過ぎたので、願ってもない感じだったが、サクラが急にそんなことを言い出す理由はちょっとだけ気になった。
帰ったらどうして言ってくれたのかは聞きたいところだ。
とはいえ、今この瞬間に重要なのはそこじゃあない。
あれだけたくさんの子供たちに囲まれていた状況から、一変して俺とハンナは並んで二人きりとなったのだ。
こんなに喜ばしいことはない。
ここ数日はサラを預けられたりナエがやって来たりで、本当に人に囲まれる日々だった。
もちろん、家族が増えること自体は好ましいこと、だと思う。
際限なく増やすってのはどうかと思うが、なんだかんだで家族が増えていくこと自体は嬉しいことだと思うし、ハンナも嬉しそうにしていた。
ただまあ、正直なところ、それに伴ってハンナと二人で過ごす時間というものもどんどんとなくなっていったわけで。
子供が生まれると夫婦の時間が少なくなる、みたいな話は何度か聞いたことがあったが、こういうことなんだろうなぁ、と改めて実感する。
まあ、オレとハンナの間にはまだ子供はいないわけなんだけども、将来的にはこういう感じになっていくんだろうなぁ、と思うと、今からちょっとだけ気が重いようにも思ってしまう。
実際子供ができたらそんな悩みも吹っ飛ぶんだろうか。
未来の想像はいくらでもできるし、楽しみに思う気持ちも、憂いを感じる気持ちもあるが、今はそれより隣のハンナだ。
「二人だけになるの、妙に久しぶりに感じるな」
「そうですねぇ、ここ最近は何かといろんな出来事がありましたし、二人でゆっくりしたのも、けっこう前に感じますね」
オレの言葉に、ハンナはどことなく嬉しそうに笑った。
「急に家族もたくさん増えましたし……」
遠くから聞こえるマサギの力強く野太い声と、それに合わせて響き渡る木々の倒れる音に、俺もハンナも思わず苦笑い。
重ねて聞こえてくるルジオの楽しそうな声に、はしゃぎすぎないでくれると助かるけどなぁ、とちょっとだけ心配になる。
あんまり暴れ過ぎると、またナエやらヒナタメに目くじらを立てられてしまう。
ナエを預かっている身としても、ようやっと森と和解する糸口を掴んだ身としても、できればご勘弁願いたいところ。
あんまりにもヒートアップしているようだったら、その時は止めに入ろう。
「この先、きっとこうして、二人で過ごせる時間というのはどんどんと、少なくなっていくのでしょうね」
そっと、ハンナは俺の手を握ってきた。
この感触も、ずいぶんと久しぶりなように感じる。
俺はそれに応えるように手を握り返し、それから静かに歩き出した。
そろそろ夕方も近い森の中はとても静かで、どこかに飛び立ち餌を探していたらしい鳥たちが帰ってくる声が時折聞こえるぐらいだ。
長閑な陽気の昼から、世界は少しずつ夜へと移り変わろうとしている。
暖かな日差しは夕暮れとなり、木々の作る影は少しだけ恐ろしく見えるが、この手から伝わる温もりの前には吹き飛んでしまう程度の恐さだ。
そうして手を繋いだまましばらく歩きながら、俺はふと、気になっていたことを訪ねてみることにした。
「なあ、ハンナ」
「なんでしょう?」
「あの時、どうしてマサギたちの家を作るのに、あんなに協力してくれたんだ?」
普段の様子からしてみれば、ハンナは別にルジオが我が家に増えることに関しては問題ないと言いそうな気がしていた。
だというのに、今回はどういうわけかハンナの方から、マサギたちのために別の家を建てる、という提案をしてきたのだ。
正直、意外だったというのが本音だ。
「それは、その……」
ハンナは少し言い淀み、もじもじと自由な方の手で髪先をいじりながら答えた。
「ユウキさんとの、こういう時間が、もっとほしいなぁ、って思ってしまいまして……」
そしてこれまた、意外な言葉が返ってきた。
「サラちゃんやナエちゃんのことも、もちろんマサギさんのことも、家族が増えることは嬉しいことだって、本気で思ってたんですよ? 私を見て不気味に思ったりしない子がいることも、嬉しいですし、私も、子供は好きですし……ただ、その、私とユウキさんは、まだ結婚して一年しか経ってないじゃないですか。だから、その、もっと、二人だけで過ごす時間がほしいな、って、そう、思っちゃったんです……」
言いながら、どんどんとハンナの顔が真っ赤になっていくのが分かる。
いやはや、夕暮れ時で良かった。だって聞いてる俺も真っ赤なの、気付かれたら中々恥ずかしいもん。
「そっか……」
ハンナの言葉を聞いて、俺は顔が熱くなるのを感じながら、正面を真っ直ぐに見ることしかできなかった。
日頃から、俺がハンナを好きだってことは度々行動やら言動で示すようにしているのだが、時折不安になったりもするのだ。
俺たちは確かに結婚して、一緒に暮らしちゃいるけれど、ずっと好きなのは俺の方ばっかりで、ハンナは俺がずーっと好き好き言ってくるから、なし崩し的に付き合ってくれてるだけなんじゃないか、とか。
男のメンヘラなんてロクなもんじゃないってのは分かっているが、誰にだって優しくて笑顔が素敵なハンナを見ていると、俺がハンナに向けている好きと、ハンナがたまに返してくれる好きは違うものなんじゃないか、なんて、感傷的になっちゃったりするのだ。
でも、こうして今、ハンナは俺との時間を大切にしようとしてくれている。
俺と結婚したことを嬉しく思ってくれているのだと、最大限の行動で見せようとしてくれている。
それが、何より嬉しくて、
「わっ、ユウキさん!?」
「ああ、すまん、なんでもないんだ……」
慌てて俺の目元を拭ってくれるハンナに、俺は目いっぱいの笑顔で返す。
「ハンナ、ありがとな」
涙を浮かべながら笑顔で言う俺に、ハンナもまた、嬉しそうに笑顔を返してくれるのだった。




