俺の嫁はエルフ受けが悪い【64】
「えー、と、だな」
これは困った。
非常に困った。
まず大前提として、俺たちの家には現在、けっこうな人数が暮らしている。
俺、ハンナ、マサギ、そしてサラとナエ。
ここにさらにルジオまでやってくるとなると、いよいよ我が家はパンク待ったなしである。
ただでさえ、本来こちらの世界にも存在していないはずのダークエルフや、植物の精らしき生活様式の全然違う存在がいる我が家で、これ以上考えなくてはならないことが増えるとなると、いよいよ俺とハンナだけでは手が回らなくなってくる気がする。
かと言って、この流れで断ることができるかと聞かれれば、正直それも難しい。
どちらかと言えば理由は心情的なものだが、ルジオの頼みを断って、また泣き出してしまったりすれば、今度はその涙で俺側が折れてしまいかねない気がするのだ。
とはいえ、二つ返事でOK、というわけにもいかなくて。
それはもう困り果てている俺は、この状況を何とかするアイディアを必死に考えた。
この場を凌ぎつつ、今後の苦労も軽減できるような、ウルトラCが生み出せれば、何より最高だ。
「なるほど、ルジオ殿も我々の家族に……しかし、それではさすがに家が狭すぎますな」
マサギ、お前というやつは!
腕組みをして、鼻をひくつかせる筋肉ウサギの姿が、どことなく神々しく見えた。
今この場においては、救いの神のようだ。
「どうでしょうか、ルジオ殿。私の家に来るというのは」
そしてその後の言葉に、一気に絶望と失望が押し寄せてきた。
根本的な解決になっていないのだ。
結局のところ、住む場所が隣同士になっただけであって、俺たちの家族としてこの村に住み着くことには変わりないし、何より俺たちの生活に入り込んでくるというのも変わらないのだから。
別にルジオが邪魔だとか、迷惑だとか、そういうことではない。
ルジオが俺たちとの生活を望んで、楽しく過ごしてくれる分には、それは素晴らしいことだと思うし、俺だって嬉しいぐらいだ。
ただ、マサギを飼うことになった時も思った懸念点。
そして今、子供たちが増えつつある現状において、もはやどうすることもできなくなりつつある問題点。
それは、俺がハンナと2人きりで、堂々といちゃつくことができない、ということである。
むしろそれしか問題はないぐらいだが、俺からしてみれば何よりも大切な問題であり、解決したい問題でもあるのだ。
ハンナは優しい。
子供たちのことも大好きだし、マサギのことも大好きだし、きっとルジオのことだって暖かく招き入れてくれることだろう。
だからこそ、困る。
あの子たちがいることで俺もハンナも、何かと忙しい身になっていくことだろう。
そうして日々の忙しさにかまけている間にも、毎日は続いていき、俺とハンナがいちゃつく時間は減っていく。
ただでさえ、俺たちがこの村に居つくまでの日々は、パーティメンバーたちとの共同生活であり、2人きりになれるタイミングなんて数日に1度あるかないかぐらいなものだった。
やっとこさ魔王を――サクラを倒して、旅が終わって、ずっと一緒にいられるようになったというのに、1年ちょっとでその生活も崩壊してしまった。
なんなら、1度崩れ始めてからというもの、そのまま人数は増え続けている上に、今もさらに増えかねない事態となっている。
これはいよいよ、何かしらの対策を考える必要があると見た。
「あのー……」
と、俺が考え込んでいると、それまで困った顔ばかりしていたハンナが、おずおずと声を出した。
「お家に来る、ということでしたら、少し提案があるのですけど」
俺たちの視線が一斉に向くと、ハンナは少し照れたように微笑むのだった。
◆◆◆
「また家を、ねぇ」
「はい。建てることは許していただけないでしょうか?」
俺たちの前で、村長は渋い顔をしていた。
ハンナの提案というのは、マサギを筆頭に、サラ、ナエ、ルジオが暮らすための家を新たに建てよう、というものだった。
「マサギさんのお家をベースに、もう少し大きなお家を建てたいな、と思っていまして。もちろん、材料の用意などは自分たちでしますから」
「そういう問題じゃないんだけどねぇ」
「場所的にもそんなに幅を取らないよう気をつけますから!」
「……正直なところ、家を建てること自体は別に良いのさ」
渋い顔をしっぱなしの村長が見る先、窓の外に見えるのは、マサギの背に乗って楽しそうに走り回ってもらっている、サラ、ナエ、ルジオ、そしてサクラの姿だ。
「あの子たちが済む家ってことだろう? さすがに保護者なし、ってのは良くないと思うけどね。何より、今度は龍ときたもんだ。他の連中が納得するかねぇ」
村長の懸念はもっともだ。
ただでさえ、俺がいることでサクラという強大な魔王が定期的に村へとやってくるぐらいなのに、それに加えてドラゴンまでも住み着こうというのだから、普通に考えてヤバい事態と言えるだろう。
「でも、ルジオさんはすっかり改心している様子ですし、人と一緒の生活をすることに憧れも持っているようなんです。ただ、私たちのお家で、となるとさすがに手狭ですから、お互いに窮屈な生活になってしまいます。そこを解消するためにも、新しいお家を建てたいんです。どうか、お願いします!」
頭を下げるハンナに合わせて、俺もしっかりと頭を下げる。
「俺からも、お願いします。どうか、許可かをください……」
切実に、絞り出すように、俺は言った。
これで許可が下りなければ、いよいよもう、マサギの家と俺たちの家を繋げるぐらいのことをしなければ、たぶんどうにもならない。
とはいえ、正直ハンナがこんな提案をしてくるとは意外だった。
いつもの調子なら、
「だったら、マサギさんのお家と繋げて、もっと大きくしましょうか!」
とか言い出すと思っていたぐらいなのだが。
やがて、ため息と共に「分かったよ」という村長の声が聞こえてきた。
「言っとくけど、あんまり大きくし過ぎないようにね」
「ありがとうございます!」
顔を上げて、俺とハンナは笑い合う。
そうと決まれば善は急げだ。
俺たちは早速、増改築のために動き出すことにするのだった。
なぜかこちらでの投稿をど忘れしていました・・・また来週からは土曜日19時更新に戻ります。




