俺の嫁はエルフ受けが悪い【60】
「――とまあ、そんなわけで、ルジオは眠ったわけなんだが、この様子だと封印自力で解いて出てきたって感じだろうな……」
ずいぶんと長いこと語ってたような気がするが、ようやく昔話がひと段落した。
ルジオはとても力のある龍だ。
だから封印を自力で破ってくるなんてことは別に不思議でもなんでもないんだが、ザクロが作った封印は簡単に破れるようなものでもない。
でもまあ、10年以上経ってるわけだし、ドラゴンならそれぐらいの時間があればいけるかぁ、とも思う。
「ただ、封印中に倫理周りが成長してるとは、あんまり思えないよな、これは……」
目の前に並んでいる大量の大雪兎の毛皮は、普通に地域一帯の群れをいくつか滅ぼしてきたレベルで大量だ。
あの後、封印を施した場所は人里離れた雪山の奥地だったのだが、それが仇となったという形だろうか?
何にしても、ルジオが村に来てしまったというのはなかなかマズい。
んで尊大な態度が直っていなかったのもそれなりにマズい。
いやまあ、後者については正直そこまで問題じゃないとは思うが、あえて問題視するなら、サクラがいる状況ってのがマズい。
今は奥でハンナに着せ替え人形にさせられているだろうから良いが、村を歩いている時に遭遇したりすれば面倒なことに発展するのは目に見えている。
とはいえ、ルジオと久しぶりに会いたい気持ちがないわけではない。
あいつには割と容赦ない対処をせざるを得なかったわけだが、今は旅も終わって俺たち側にも余裕がある。
昔よりかは彼女の相手をしてあげられるようにはなったが、これで昔と変わっていない様子だったとしたら、非常に困る事態にもなりかねない。
あいつが問題起こしたらまた村長に怒られるんだろうなぁ……。
さてさて、どうしたものか。
「ツムギ」
「なんでしょう?」
「ルジオと出会った時は、村の中だったのか?」
「いえ、外に素材を取りに行った際にたまたま、といった具合でございますね。染料の素材となる草花が近くに群生しておりまして」
「1人でか?」
ツムギは自分でも言っていたが、大して強くない。
一応レベルは40ぐらいだが、この村ではかなり下の方だ。
たぶんマサギの方が圧倒的に強い程度には戦闘力がないし、何より彼女のレベルは仕事に没頭して手に入った経験値で上がったものである。
戦闘で得られる経験値の方がレベルが上がりやすいこの世界において、スキル向上のために日々を費やしてレベル40までたどり着くのはぶっちゃけ異常なことだったりするのだが、さておき。
ここら一帯は、暮らしているのが俺たちみたいな転生者かつそれなり以上のレベルや能力を持ってる人間なので忘れがちだが、けっこうな危険地帯だ。
ツムギが1人で外に出ることはほとんどない。
街にまで出るのだって、たいてい誰かに護衛をお願いするぐらいだ。
一応、定期的に護衛付きの馬車が村に来てくれたりはするのだが、距離的には歩いても半日はかからないぐらいの距離だ。
……冒険してたせいで多少麻痺してるな、俺も。これぐらいなら歩いて行ける距離だと思ってしまっている。
「お会いした際は1人でしたね。本当に村のすぐ近くでしたので、最悪魔物に出会っても村に逃げ込める程度の距離でしたから」
「んー、なるほどなぁ」
ってことは近所に居座ってる可能性が高い、か。
だとすれば村に入ってくるのも時間の問題かもしれんなぁ……村長の結界があるから簡単には行かないだろうけど、ルジオも大概力が強い方だし、サクラみたいに結界を無視できる可能性だって低くない。
これ以上村に問題を持ち込んだりしたら、今度は村長に何を言われることか。
住んでるマンションの大家に怒られながらトラブルを抱える住人って、こういう気持ちなんだろうなぁ。
「よし、ちょっと見てくるか」
「あら、お出かけですか?」
「ああ。マサギも来るか?」
このまま毛皮に怯えさせておくのもよろしくない気がする。
とはいえ、ルジオと会わせるのもどうなんだろうな、微妙な気がするが。
「そうですな、私もお供させていただきましょう」
マサギはこれ幸い、とばかりにこくこくと頷いていた。
まあ、こいつからしてみれば、この空間からは一刻も早く出たいところなんだろう。
「ハンナにはすぐ戻ると言っておいてくれ」
「畏まりました」
「ああ、それと、ルジオと出会った場所について教えてもらうことってできるか?」
「ええ、構いませんよ」
それから、マサギと共に、俺はツムギの家を出て、村の外に出向いた。
ツムギが教えてくれた場所は、本当に村から出てすぐのところだ。
街道から少し逸れた先、いくつかの岩の裏手だから微妙に分かりにくい場所にあるそこは、ツムギの言っていた通り、綺麗な紫の花が群生する土地だった。
「……綺麗だな」
暖かな陽気に照らされ、爽やかな風が通り抜ける花畑。
人の手があまり入っていないからだろうか、自然のままに生きる花々はとても力強く、それでいて美しく見えた。
ツムギ曰く、この花は花弁もそうだが茎やら根やら、あらゆる部分が染料の素材となるので便利なのだとか。
花がなくならないよう必要な量だけもらって、ごくたまーに世話をして成長を促したりしつつ、よく訪れるのだそうだ。
とても素晴らしい景色なのでハンナにも見せてあげたいと思ったが、ツムギがよく訪れるというのを思い出して俺はそっと首を横に振った。
そして、当然と言えば当然だが、ルジオの姿はそこにはなかった。
まあそりゃそうか、ここにずっと留まってるわけがないだろうしな。
とはいえ、ここにいないとなると、どこを探したもんか。
「マサギ、何か分からんか?」
「何か、と言いますと?」
「いやほら、さっき怯えてた毛皮に近い匂いがするとかさ」
動物的な感覚で、なんか、ないだろうか。
そんな淡い期待を持っていた俺だったが、花を眺めてうっとりするばかりのマサギには何も期待できそうになかった。
さてどうしたもんかね、いっそ『ヘイトフル』でなんか適当に睨まれそうな感じでも出してみようかな。
そんなことを思っていると、
「ユウ、キ……?」
背後から、知ってる声がした。
おっと、これは手間が省けた。
「ああ、ルジ――」
「ユウキぃぃぃぃ!」
背中に直撃、殺人タックル。
もうこの世界の子たちって、久しぶりに会った人間を1度殺すのが礼儀なのかってレベルなんだが、どうなってんの?
勢い良く抱き着かれた俺は、背骨が軋む感覚を味わいながら、花畑の中を盛大に転がった。
そして、同時に気付く違和感。
抱き着かれた? 人間サイズに? ルジオの声が聞こえた後に?
なんでだ? と思いながら俺の腰に回された手の主を見る。
そして目を見張る。
そこには、長い白い髪と宝石のような赤い瞳をした少女が、満面の笑みでいたのだから。




