俺の嫁はエルフ受けが悪い【6】
「……」
重たい空気が、室内に充満していた。
「……」
互いに全く話さないまま、彼女らは一切視線を逸らすことなく睨み合っている。
片や、氷のような無表情で真っすぐに相手を見下ろすエルフの女王。
片や、炎のごとく激烈な怒りを込めて相手を睨み上げる凄腕魔法使い。
そして、そんな2人を前にして、あまりにも無力な俺。
彼女らの怒気があまりにも強いせいで、気まずく思いながらも一切話しかけられない。
ザクロが怒っているところはそれなりに見てきているつもりだったが、どうやら俺が知っているのはほんの表層の怒りだったらしい。
下手なことを言った瞬間、矛先がこちらに向くのは想像に固くない。
あっという間に俺はまた閉じ込められ、
「そんなに燃やされるのが好きなら、お望み通り焼き殺してあげるわ!」
となって爆破されるか燃やされる。
しかし、しかしだ。
だからと言って、お義母さんに話しかけろ、というのはことさらに難易度が高い。
エルフの女王であり、伝統や文化を重んじる、ハンナとは真逆の考えを持った存在。
エルフの森全体としても、ここまで他種族に厳しい人はいない。
そんな相手にやらかしてみれば、
「やはり、人間というものは愚かですね。このような生き物に娘を任せることはできません」
となり、俺は良くて八つ裂き、悪くて永久凍結となるだろう。
頼みの綱であり、この会合を提案したハンナは、
「お茶を淹れてきますね。少し待っててください」
と、1人和やかな雰囲気で出ていってしまった。
彼女が戻ってくるまでに、何かしらの進展がないのは良くないが、だからと言って俺が何かを言って状況が好転するとは思えない。
今は耐えるしかないのだ。
耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ、日本人らしい奥ゆかしさによってこの場を乗り切るしか、道は――
「ねえ、あんた」
ダメそうだった。
燃えるような深紅の瞳が、明確な敵意をむき出しにエルフの女王を睨む。
「前々から思ってたけど、その頭でっかちな価値観はどうにかなんないわけ? たしかにエルフの伝統と文化は尊重すべきだと思うけど、だからって限度ってもんがあるんじゃない?」
意外と冷静なザクロの指摘だったが、それに対し、女王ディーナもまた、淡々と返すのだった。
「守る、という行為に限度はありません。もし少しでも守備を緩めれば、そこから綻びが生じます。1つでも許した小さな行為が、全てを破壊するきっかけとなるのです。油断、気の緩み、ちょっとした隙が、全てを瓦解させる。伝統とは、文化とは、積み上げ続けてきたもの。軽い気持ちで引き抜いた小枝が、全てを支えている柱だと、気付いてからでは遅いのですよ」
「あのね、そういうのはいいのよ。好きに守っててくれて構わないわ。でもあんたのそれは違うでしょ? 守るってのはいい。でもね、そのために実の娘を攻撃するのは違うでしょ、って話。わざわざ誰かを下げて貶して攻撃しなきゃ守れない伝統なんて、とっとと廃れた方がいいと思うけど? それとも、エルフってのはそうしないと自分の大切なものも守れない野蛮な脳みそしてんの?」
終始棘のあるザクロの言葉に、女王は淡々と返す。
「短絡的な思考ですね。他者を下げなくては、ですか。であれば、こちらが下手に出るべきだと? それこそ、自ら敗者に成り下がろうとする者の言動、行動に他なりません。我らエルフ族が優位であること、他種族に対し強く出られること、これらを成し続けてきたのが我々の守る文化であり伝統です。事実、他国にて傭兵業に従事する同胞たちはエルフ文化のおかげで『エルフであること』を1つの資格として利用できています」
「だから、別にあんたたちエルフがエルフらしくあることを悪いとは言ってないんだってば。単純にあんたの考えが気にくわないってのよ。エルフの長だから、エルフの女王だから、って対応ばっかで、あんた本人のことが見えてこないのが気にくわないって言ってるの。本当に心の底から親としての情がない人なんているわけいでしょ? そこを少しぐらい認めて、素直にハンナを受け入れてやってほしい、って言ってるの!」
「あの子を受け入れる、ですか。それはできませんね。私がその姿を見せれば、それこそエルフ全体としての問題に発展してしまいます。私個人を知りたいというのであれば、これが私である、と言う他ないでしょう。私がこの国であり、エルフそのものなのです。であれば、私が最もエルフらしく、文化と伝統を重んじるのは当然でしょう。親としての情が感じられないというのでしたら、それも結構。あなたに感じていただく必要はありませんので」
平行線。
互いの意見を決して譲らない2人の言葉は、多少のヒートアップをしつつも変わらない調子で響き渡っている。
こんなにも逃げ出したいと思ったのは、冒険中を含めてもなかったぐらいだ。
そして、逃げ出したとしても何も解決せず、むしろ多方面に問題が残ってしまうのがさらに俺の気持ちを暗くさせる。
人間関係、そこらのダンジョンハックよりキツい。
こんなドラゴンとデーモンが喧嘩してる場所に飛び込むような馬鹿はいない。
沈黙は金、嵐が過ぎ去るまで耐えられるやつだけが生き残るのが世の常だ。
「ユウキ、あんたはどう思うわけ!?」
「あの子の夫として、適切な意見を求めます」
ダメだった。
耐えきれるとか、そういう問題ではないのだ。
圧倒的なパワーの前では、静かにその場にいることなど許されないのである。
石も花も城壁も、巨大な竜巻に巻き込まれたらすべからくただの飛ばされる物体だ。
「えーっと……」
さて、これまでの脳内シミュレートの結果によれば。
お義母さんの味方をしようとして、ザクロに何かしらの意見を述べれば見事に焼き尽くされるのは俺、ということになる。
もちろん、そこまでシンプルな脳みそをザクロがしているとは思えないので、俺が下手なことを言った場合なのだが、いやぁ、俺だからなぁ、やらかすだろう、たぶん。
かと言って、ザクロの味方をしようとしてお義母さんに意見すれば、これはこれで悲しい氷像が1体、エルフの国の貯蔵品に増えてしまう。
倉庫の奥で身動きも取れないまま埃を被るのはごめんだ。
俺の不死身を逆手に取って永遠に封じられるのが最もマズイ。
いや、それ以上に怖いのは、俺がそうなった時、残されたハンナがどんな行動を起こすかが怖い。
ただでさえデリケートなエルフの里やお義母さんとの関係が余計にこじれる要因になりかねない。
お義母さんも、「夫として適切な意見を」と言っていた。
つまり、俺の言葉に、ハンナの未来がかかっている。
責任重大だ。
改めて、考えてみよう。
俺が下手なことを言えば、片方が敵に回り、そのままバッドエンドに直行する。
この下手なこと、というのは、具体的に言うとすれば2人の機嫌を損ねる言葉、である。
2人のどちらかが気に入らない意見を俺が出してしまった場合、その時点で俺の処罰が執行されるだろう。
2人を敵に回すことなく、この場を乗り切るための意見。
起死回生の手として、俺が選ぶのは、
「なあ、ザクロ」
まず、ザクロに意見を伝えることだった。
お義母さんは正直、俺も怖い。
いつも氷みたいな表情だし、口を開けば厳しいことしか言わないし。
いついかなる時もはんなりほわほわのハンナと暮らしているせいで、最近は余計に容赦ない言葉に耐性がなくなってきたと思う。
まだ10分と経っていないのにハンナが恋しい。早く戻ってきてくれ。
もちろんザクロも言葉は強い方なのだが、まだマシな方、だと思う。
「お前が言いたいことはよく分かる。友達として、ハンナのことを心配して言ってくれたんだよな」
とはいえ、この辺は建前だ。
何よりも重要な点は1つ。
「でも、良く考えてみてほしいことがあるんだよ。冷静に考えてもらえれば、きっと分かってくれるはずだ」
ザクロは大きな勘違いをしている。
「な、何よ、引っかかる言い方ね……」
ゆっくりと言い聞かせるような俺の言葉に、さすがのザクロも勢いを少し失っていた。
俺とて真面目に訂正すべきところは訂正する。
いつだってハンナのことで暴走している馬鹿野郎ではないのだ。
「お義母さんはハンナが強化魔法を使っているのを見て、今でもそれを使っているなら早く国を出るようにハンナに言った。そうだよな?」
「ええ。実の娘に早く出て行け、なんてあんまりじゃない」
「そこだけ考えればな。でも、これはお義母さんなりの優しさなんだよ」
「はあ?」
「順を追って説明しよう。ザクロも知っての通り、お義母さんはエルフの伝統と文化を重んじる方だ。それは生き様そのものであるし、何より、エルフの国の代表として覆すことのできない部分でもある」
「だからあんなこと言ったんでしょ」
「そうだな。で、だ。そんなお義母さんの言葉をもう少し丁寧に言うと、こうなる」
「丁寧?」
「『その魔法を今でも使っている姿をこのエルフの国で見せ続けていると、他のエルフたちから何を言われるか分かりません。ですから、お父さんのお見舞いが済んだのなら早めに帰宅した方が自分のためですよ』」
ザクロが勘違いしている点というのは、お義母さんが親としての情を見せていない、ということだ。
お義母さんは実のところ、ハンナにとても優しい。
女王としての威厳を保ちながらの発言ばかりのため勘違いされやすいが、彼女は彼女なりにハンナのことを想い、大切にしようと全力を尽くしている。
その真意に気が付ける人は少ないが、それでもハンナ自身やお義父さんにはしっかりと気付かれている部分なのがまだ幸い、といったところだ。
実際、もうしばらく話していればザクロも気付いただろうが、その前にこちらに矛先が向きそうだったので、先んじて説明させてもらった。
これでお義母さんのザクロ内評価も上がるだろうし、無用な喧嘩はなくなるだろう。
自然と、俺の惨殺もなくなるわけだ。完璧である。
「……私、もしかしなくても、余計なこと言った?」
視線を向ければ、ザクロは少し恥ずかしそうに顔を赤くして、軽く涙目になりながらこちらを見ていた。
不安も入り混じったその様子に、俺は優しく微笑みを返す。
「もちろん、優しいザクロの気持ちに水を差すようなつもりはないさ。ハンナのことを想って怒ってくれたことは俺も嬉しい」
きっとこの点については、お義母さんだって同じ気持ちだろう。
ハンナを大切に想うこの方が、ザクロの気持ちを理解していないはずがない。
「誰かのために本気で怒れる、それがザクロのいいところだ。俺は何度もそれに救われたし、そんなザクロと仲間で良かったと思ってるよ」
「ユウキ……」
「今回だって、少し早とちりしちゃっただけさ。大丈夫、お義母さんだって分かってるよ」
「そうかな……」
「そうだよ。それに、ザクロのことは認めてくれてるみたいだしさ。話せば分かってくれるって」
「……」
ザクロは俺の背後、今頃俺の話を優しく頷きながら聞いているであろうお義母さんの方を不安そうに見ていた。
心配性だなぁ、ザクロは。
「大丈夫、お義母さんは少し不器用なだけで、根はとても優しい人だから。ほら、今だって、ザクロが本当のところを知って優しい顔を――」
していなかった。
凍土もかくやといった具合の、恐るべき表情で俺を冷たく見下ろしていた。
いつもの無表情も大概の怖さをしているのだが、もうそんなもんじゃない。
まさしく氷そのもの。
室内だというのに、背後に荒れ狂う吹雪が見えるかのようだ。
「お、お義母さん……?」
思わず情けない声をあげてしまう俺だったが、
「あなたは本当に、我が娘の夫である自覚が足りていませんね」
その声に込められた怒気に、確実な死を覚悟した。
直後、俺は異様なまでの寒気を感じ、咄嗟に自分の体を抱き締めた。
体中が震え、ガチガチと歯が打ち合う。
「男である以上、多少気が多いぐらいは私とて目を瞑りましょう。我が夫も若い頃はそういった点がなかったわけではありませんから」
冷めた声と共に、お義母さんから冷気が送られているのは分かった。
だが、妙なのはすぐ近くにいるザクロが特に寒そうにせず、きょとんとした顔をしていること。
冷気を放っているとか、周囲を冷気で覆われているとか、そういうことではないらしい。
「しかし、義母の前で他の女を口説くのは私も理解に苦しみます。娘の苦労も伺い知れるというもの……」
震えと共に吐き出す息が、白くならない。
周囲が寒いわけではないのなら、どうして俺の体はこんなに寒さで震えているのか?
お義母さんに恐怖している? いや、違う。
確実に俺の体は冷えていっている。
「やはりハンナとは改めて話し合う必要がありそうですね。このような男に誑かせるとは、我が娘ながら嘆かわしい」
ふるふる、と頭が痛そうに首を振るお義母さんの魔法は、的確に俺の体温を奪っていた。
いや、そもそもで、この考えが間違いなのかもしれない。
強まる寒気と共に、パキ、パキ、と俺の体が固まり始めた。
広がりは胸のあたりから。
なるほど、理解した。
「『氷の心臓』……や、やりすぎでしょ、ちょっと!」
「実の娘を裏切る行為を見過ごすわけにはいません。それに、この男はこの程度では死なないでしょう。あなたもよく知っているのではありませんか?」
「知ってるけど! だからってこんな!」
「これぐらいがちょうど良いのです、この男の場合。死ぬような思いをしたところで、自分を曲げるような者ではないことぐらい、私も分かっています」
「……じゃあ、どうして?」
淡々と告げるお義母さんに、ザクロは心の底から純粋な疑問として、その理由を尋ねた。
それに、女王ディーナはシンプルに答える。
「この男にムカついているからです、殺したくなる程度には」
彼女の言葉にザクロが目を見開くと同時、俺の意識はぶつりと切れた。
静かになった室内には、体の内側から完全に凍り付いた俺の氷像が残されるのだった。
◆◆◆
「んん……」
「ああ、良かった! ユウキさん、私が分かりますか?」
「ハン、ナ……?」
「はい、そうです、ハンナです! ああ、本当に良かった……」
膝枕をされたまま、ハンナに優しく覆い被さられる。
ここは、また宛がわれた部屋か。ベッドの感触といい、微妙にデジャヴだ。
柔らかな胸元に圧し潰されたまま、しばらくぼんやりと何があったのか思い出していた。
ザクロとお義母さんが喧嘩みたいになって、俺にも意見を求められて、穏便にその場を済まそうとして、それで?
「凍った状態からの回復なんて初めてやりましたよ……ザクロちゃんに炎魔法のコツを聞いてて良かったです……」
さめざめと泣くハンナに、俺は自分の最期を思い出す。
そうだ、お義母さんに完膚なきまでに凍らされたのだ。
彼女の使用した『氷の心臓』は、文字通り、対象の心臓を氷そのものとすり替える魔法である。
凍てつく氷の心臓は全身に冷気を回し、体内から熱を奪っていく。
血が凍り、肉が固まり、全身に冷気が回ると共に全身が氷像と化す、呪いに近い一撃必殺の高度な氷魔法である。
見えてもいない相手の心臓を的確に変容させるこの魔法は、世界でも有数の氷魔法の使い手であるお義母さん以外に使える者はほとんどいないのだとか。
他の国がエルフの国を襲わない理由の1つとして挙げられる程の凶悪にして強力な魔法である。
と、以前ハンナがお義母さんに逆らわない方が良い理由の1つとして教えてくれたのを思い出す。
「本当に、ちゃんと治せて、良かった……」
ハンナは、心の底から安心した様子で俺を強く強く抱き締める。
軽く窒息死の危険を感じながら、俺はハンナの背を優しく撫でた。
「いつも、心配ばっかかけてごめんな」
「そう、いつも、いつもです! いっつもユウキさんはこの調子なんですから! 冒険を終えてもずっとこう! もう少し落ち着いてください!」
「ははは、俺としても、もっと平和にスローライフな日々を送りたいんだがな……」
起き上がり、ハンナは涙をいっぱい浮かべながら俺を見ていた。
いつだって、ハンナは俺の命懸けを許さない。
1番安い手札なのに、最も支払いやすい対価なのに、絶対にそれを認めようとしない。
死なない俺の、命の価値を決して諦めてはくれない。
「ユウキさんは、いつも私の言うことを聞いてくれません。もっと自分を大事にしてください、って、私はあと何度言ったらいいんですか?」
「んーむ、そればっかりはなぁ……」
ハンナは俺の考えを決して肯定してくれない。
「一生隣で言っててほしい、かな」
だから、最高だ。
不死身で、どんな怪我をしても傷を負っても、まして死んだとしても平気な俺を、彼女だけが気にかけて、悲しんで、想ってくれるから。
そんな彼女だから、俺は好きになったんだ。
「懲りずに言い続けてくれたら嬉しい」
「……もう、そうやって。私だっていつか本気で愛想尽かしちゃうかもしれないんですよ」
「その時は、うーん、どうしたもんかな。何せ死ねないからなぁ」
「そ、そんなことで死のうとしないでください!」
再び涙目になる彼女といつものように少し話してるうちに、改めて自分のしたことの恐ろしさが蘇ってくる。
母でなくとも、こんなに良い子と結婚しておきながら他の女を目の前で口説き始めたりすればそりゃあ、怒りだって湧くだろう。
別に口説いちゃいないのだが。
「いやぁそれにしても、ものの見事にお義母さんを怒らせてしまった……」
「お茶を淹れて戻ったらユウキさんが凍ってて、本当にびっくりしましたよ。何言って怒らせたんですか? 2人に聞いても「あの男とは早く別れた方が良い」としか言ってくれませんでしたし……」
「あー、うん、あれは俺が悪かった、んだろうな、たぶん……」
こういう時、俺が何を言っても無駄なのは経験上よく分かっている。
浮気とか、悪いことというのは、することも悪いのだが、それが悪く思える相手に知られてしまうのが最もダメなのだ。
上手に騙してほしい、なんて言葉もあるぐらいで、やるにしても、上手く見えないところ、知られない場所で行うのが、できる男というやつなのだろう。
とはいえ、あの場で俺ができることなんて、2人のどちらかを下げるようなことじゃなく、どちらかを持ち上げて、2人の仲を取り持つぐらいだと思うのだが。
「そいや、2人はどうなった?」
「あー、その、お2人は」
珍しくハンナが言いよどむと同時、扉が勢い良く開かれた。
「ちょっとちょっと、ハンナのお母さん、話せば分かる人じゃない!」
そして、妙に元気いっぱいなザクロが飛び込んできた。
「あ、ユウキ起きたのね。さっすがハンナ」
「ザクロちゃん、もうお話はいいんですか?」
「ええ。いやー、エルフの国に来る楽しみがまた増えちゃったわ」
楽しそうにしているザクロを見て、俺はホッとする。
雨降って地固まる、というやつだろうか。
何はともあれ、俺1人の犠牲で2人の仲が良くなったのであれば、何よりだ。
「あ、そうだ。ディーナ様から伝言よ」
「ん、俺にか?」
「そう。「次、顔を合わせる時までに言い分は用意しておくように」だそうよ。あんた、覚悟しときなさい」
「……できれば、次会うまでにザクロさんの方から口添えとかしといてもらえませんかね」
「どうしようかしらねぇ。そこはあんたの態度次第、ってことで」
にっこり、と笑うザクロの背後にお義母さんの幻影が見えた気がして、俺は静かに覚悟を決めるのだった。
次ここに来る時は、お義父さんに言って1人静かに過ごせる場所にいよう……。




