俺の嫁はエルフ受けが悪い【55】
「ーーウキさん、ユウキさん!」
愛しい人の声が聞こえる。
大切な、すごく大切な人の声だ。
「ユウキさん、お願いですから、目を開けて!」
ああ、大丈夫だよ、ハンナ。
目を閉じたまま、俺は心のなかで答える。
俺は死なない、君もよく知ってるはずだ。
「ユウキさん、どうして、傷は治ってるはずなのに……」
ごめんな、すごく体が重いんだ。
久しぶりに無茶し過ぎたってところかな。
崖から落ちて、運ばれて、龍に締め上げられて、一日で二回も全身の骨が砕けると、人間ってのはなかなか堪えるらしい。
すぐ起きるよ、ただもう少しだけ。
「ユウキさん、私、分かったんですよ……やっと、自覚したんです」
自覚?
「私、私も、ユウキさんのことが大好きなんです。誰にも渡したくない、そう思えるぐらい、私はユウキさんのことが、本当に大切で、その、好きなんです」
……え?
「だから、目を覚ましてください。直接、きちんと言いたいんです。はっきり伝えたいんです。お願いですユウキさん、どうか、目を開けて……!」
待ってほしい。
急な告白に、心が大爆発しそうだ。
嬉しすぎて、涙が出そうだ。
これまでだって、旅の中で何度か、俺はハンナが好きで大切だと、言ってきたつもりだ。
いやもちろん、それに返事はもらえていない。
彼女にとって、俺に向けてくれる愛情は友愛のそれだったし、それ以上の発展もなかったから。
だからきっとこれも、同じなんだと思う。
今まで通りの、友情とか親愛とかの延長線上。
深い意味はなく、ハンナはいつものように言っているだけなのだ。
とはいえ、やはり嬉しいものは嬉しい。
起き上がって、ハンナにお礼をーー
「うわぁっ!」
凄まじい破壊音と共に、タンポポの叫び声が聞こえてきた。
「くっそぉ、さすがにもうネタ切れ! ハンナ、ユウキのやつまだ起きないの!?」
どうやらタンポポのやつが交戦中らしい。
こいつは寝ている場合ではない、早いとこ起きて加勢してやらねば。
「それが、全く目を覚ましてくれなくて……!」
大丈夫さハンナ、すぐ起きるよ。
心のなかではそう思っているのだが、なかなか体がついてこない。
参ったな。
「なんでだよぉ! んもう、ハンナ、何かしら起こす魔法とかないの!?」
「かけてますけど効かないんです!」
「んー、じゃあもう、いっそ目を覚まさせるなら、これしかないかな! 古式ゆかしいやつ!」
「な、なんですか?」
目蓋の向こうで、タンポポのやつがニヤリと笑った気がした。
「目覚めのキッス!」
その言葉と共に、再び破壊音が響いてきて、タンポポの逃げ惑うような声が聞こえてきた。
ってか、あいつ今、さらっととんでもないこと口走っていかなかったか?
ハンナ、そんなのに従う必要はないからな?
「目覚めの……」
ハンナが生唾を飲み込む音が聞こえた。
おいおいおい、期待しちゃう……じゃない、マジでやろうとしてるのか、ハンナ!?
「……ユウキさん、これで、起きてくださいね?」
慌てて目を開いた俺は、起き上がる間もなく、そっと唇を塞がれた。
柔らかな感触が触れ、優しく触れるハンナの唇が、かすかに震えている。
頭が真っ白だ。
心臓が弾けそうだ。
でも、ここまでされて、理解できないわけがない。
そうか、ハンナの言葉は、想いは、俺と同じなのか。
そう自惚れにも思ってしまって、良いのか。
しばしの口づけの後、少しだけ名残惜しそうに、ハンナが身を剥がす。
「……おはよう」
いくつもいいたい言葉があったが、口をついて出てきたのはこれだけ。
そんな俺を、ハンナは涙を目に一杯貯めながら、真っ赤な顔で抱き締めてくれるのだった。




