俺の嫁はエルフ受けが悪い【54】
「貴様ら、許さん、許さんぞぉぉぉ!!!」
憤怒の咆哮が魔龍から発せられる。
薬や魔法で対策しているとはいえ、それでも人間を萎縮させるには十分すぎるほどの恐怖が、燃え滾る怒りと共に向けられていた。
ちょっとでも気を抜けば、その時点で動けなくなりそうだ。
そりゃ死なない以外何も能力を持ってないユウキじゃ、あんな感じにボロ雑巾にされるよね。
「許さないってのはね、こっちのセリフさ!」
タンポポは言いながら、再び手榴弾をいくつもぶん投げた。
巻き起こる爆発と衝撃。
いくつものそれはいくら龍と言えど少し以上の隙を作り出す。
爆風に紛れるようにしながら、タンポポは走り出した。
彼女は小人族として転生を果たしている。
小人族の人間たちは、総じて筋肉量が少なく、パワーを活かすような職業にはつきにくい。
逆に小器用な手先と、素晴らしい逃げ足を見せる速度が持ち味だ。
シーフや道具を扱う職業、すばしっこく戦場を走り回る治療魔法の使い手となる者が大半の中、
「さーて、ドラゴンにこいつは効くのかな!」
タンポポが持ち込み、使用する重火器の数々は、本来の小人族の常識を覆すには十分すぎる性能をしていた。
彼女の手には、その小さな体にはずいぶんと不釣り合いな機関銃。
ありったけの弾丸をとりあえず叩き込むが、柔らかそうな体毛と白い鱗が銃弾を弾いてしまう。
舌打ちをしながら次の手を、とポーチに手を突っ込んだところで、今度はルジオが細くも力強い腕で殴り掛かってきた。
咄嗟に飛び退き、タンポポがいた場所に大きな抉り傷が出来上がる。
一撃でももらえば死にかねないそれを見て、タンポポの浮かべていた笑みが少しだけ引き攣った。
「やっぱ反則みたいな強さしてるねぇ」
やれやれ、と首を左右に振りながら、彼女は再び投擲。
また爆発するものか、と今度は弾き返そうとしたルジオの目の前で、凄まじい閃光と高音が炸裂する。
一瞬にして奪われる視界と聴力に、ルジオが混乱する中、タンポポはせっせと新たなアイテムを作り出していた。
ドラゴンの鱗は強固であり、あの髪の毛のような一見柔らかそうな毛も凄まじい硬度と不燃性を持っている。
あれを砕くなり、突破するなりの手段がなければ、例え迫撃砲を直で当てたとしてもダメージは与えられない。
必要なのは時間稼ぎであり、倒すことそのものは自分の仕事ではないとしても、仲間がいくらでも後押ししてくれるとしても、それでもできる限りのダメージは与えるべきだし、いっそ一人で討伐できちゃうならそれもまた良しだ。
そんなことを思いながら、タンポポは自嘲気味に笑う。
ハンナのことを言えないなぁ、僕も。
ボロボロに砕かれたユウキの姿を見た時、どうやら自分は怒っていたらしい。
大切な仲間を、それなりに大事に思ってる彼を、めっためたにしたこのドラゴンに対して、タンポポは自身が思っている以上に大きな怒りを感じていた。
だからこそ、アイテム作りにも熱が入る。
先ほど振るわれた爪、正確には手の先を見て、そこには鱗がないことをタンポポは見抜いていた。
鱗を剝がしたり毛を刈ったりなんてのは、さすがに現実的じゃない。
そもそも鱗が砕けるぐらいならそんな考慮は必要じゃないのだ。
であればどうするか、答えはシンプル。
突破できそうな個所を重点的に攻撃すればいい。
「お次はこいつだね!」
背後からぶつかってきた何かに、ルジオは咄嗟に尻尾を叩きつける。
すると、先ほどの手榴弾よりさらに強力な爆発が起こり、ルジオの体制が少し崩れた。
だがダメージが入っているほどではなく、ルジオはよろけた体を支えるべく、地面に手をついた、はずだった。
「ぐぅっ、なんだぁっ!?」
直後、掌に感じる鋭い痛み。
未だ回復仕切らないぼやけた視界の中で見えたのは、自分の手を貫く何か。
それは無数に用意された杭のようなもので、手の甲側までは至らないまでも、表面をびっしりと覆うほどに突き刺さったことで耐えがたい不快感を生み出していた。
「小癪な真似を……!」
思わず、ルジオは逆の手で刺さった杭を掻きむしる。
真っ白な手に、自らの爪で赤く深い傷がついていくが、それらはすぐに塞がっていった。
並の龍ならいざ知らず、ルジオは強大な力を持つ存在であり、軽くつけられた傷程度であれば即座に回復できるだけの体を持ち合わせていた。
強い生命力もまた、強者の証。
だからこそ、タンポポが打った次の手は、ルジオに効いた。
「なん、だ……これは……?」
ルジオの体が再生する度、そこに激痛が走る。
痛みが走る部分を取り除こうとすれば、さらにその範囲は再生するごとに広がりを見せる。
「貴様、人間、何をしたぁ!」
叫びながら暴れるルジオだったが、その攻撃はタンポポには届かない。
「説明してもいいけど、聞こえてないでしょ」
暴れ続ける魔龍を冷ややかな目で眺めながら、タンポポは次の攻撃手段を模索していた。
彼女が龍に打ち込んだのは杭だけではない。
タンポポの持つ常識を外れた能力が生み出した劇薬。
いわゆる世界の仕組みだとか、構成する成分がどうとか、本来モノづくりに必要な知識をタンポポの能力は無視することができる。
こういうものを作りたい、そのために手元の材料で何を使えばいいか、それだけを意識すればどんなものでも作り出すことができる。
あくまでアイテムとして判定されればだが、基本的に彼女が手で持ち、使用できる範疇なら石ころと爆薬だけで手榴弾が作れるし、その辺の草と苔と魔物の毒から劇薬を作り出すことだってできる。
薬の効能も、治療に使えるものから毒薬まで、なんでもござれ。
タンポポが今回創造したのは、細胞の復活に激痛を伴わせる、言ってしまえば不死殺しの薬品。
それはいつか、仲間のために必要になるかもしれないと思って用意していた、無尽蔵の生命への対抗策。
しかし現状では、いたずらに痛みを与えるばかりで、実際の死に至ることはできそうにない。失敗作だ。
苦しめたいわけじゃない。
死にたい時に死ねないのは、ただ死ぬよりよっぽど辛いんじゃないかと思って研究している、タンポポなりの思いやりの一品。
タンポポは基本なんでも作れるが、思い通りの結果になるかは複雑な条件や難しい代物になるほど試行錯誤が必要になってくる。
だからこれはまだ、誰にも教えるつもりがなかった代物。
まさかこんなところで使い道が出てくるとはね、と皮肉っぽく笑い、彼女は治療を続けるハンナの方を見た。
さて、これで時間はいくらか稼げるだろうし、あとはザクロたちが来るか、ハンナの治療が終わるかで、戦況は変わる。
僕のやれることは、まだあるはずだ。
次の手を考えながら、タンポポは再びアイテム作成のアイディアを練るのだった。




