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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
34/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【34】

「……なるほど、ありがとうございました」

 和やかに、そしてにこやかに、ハンナはナエに告げて会話を終えた。

 どうやら一通り事情は聞けたみたいだ。

「ハンナ、それで――」

「ユウキさん!」

 俺の言葉を遮り、こちらに向き直ったハンナはムッとした表情で俺を睨んでいた。

 もっとも、持ち前の童顔のせいで迫力はまったくない。

 本人は怖い顔をしているつもりだと思うのだが、どうにも微笑ましい気持ちになってしまう。申し訳ない。

「私は、怒っています!」

「ああ、そのようだな……」

 とはいえ、何がどうして俺が怒られることになるのかは、いまいち分からない。

 俺が怒られるような話をされたのか? どんな?

「ユウキさんは忘れてるかもしれませんが、私はこれでもエルフです」

「いや、さすがに忘れてはいないぞ? ハンナは立派なエルフだ」

「そ、そうですか? えへへ、立派なエルフですか?」

「ああ。確かに、しきたりだとか、古い考えを尊重するそこらのエルフたちとは違うかもしれないけど、それ以上にハンナはそういう教えの本質を大事にしたいと思ってるだろ? 掟を守るんじゃなくて、掟を守ることで守られるものを大事にしよう、って」

「ユウキさん……」

「だから、そんなハンナは誰よりもエルフらしいエルフだと、俺は思うよ。と言っても、俺も大してエルフの考えを把握できてるわけじゃないが」

 ハンナは姿も使う力も食生活も、ほとんどがエルフらしくない。

 しかし、顔立ちや体型はともかく、服装は伝統的なエルフの女性衣装を基礎としたものを着ているし、魔法だって本人が得意とするものを伸ばした結果だ。

 自らの力を強く保つのは森で生きる基本であり、それを自然と身に着けさせるためにエルフたちは強化魔法や治癒魔法を嫌うのだと、この世界で生活するうちに何となく知った。

 ハンナは、その教えそのもの、考え方そのものに背きたいわけではなく、自分のできることでその教えを実践しようとした結果、他のエルフたちが使わない力を身に着け、使っているに過ぎないのだ。

 食生活に関しても似たようなものだ。

 森の中で得られる食事というものは限られているし、それならば最初から質素な食生活を心掛けることで、必要以上に食料を用意したり欲したりしないで済む、というのが基本となっているに過ぎない。

 今となっては形骸化したその考えの本質を、ハンナは自分なりによく咀嚼して、日々に生かすようにしている。

 昔の掟を決めたエルフたちからすれば、ただ意味も考えずにルールだからと教えを守り続けている者と、自分たちの生き方に合わせて柔軟に考えを変えるハンナ、どちらがよりエルフらしいと言えるかなど、明白だろう――とまで言うと極端な話だが、外野から見ている俺としては、ハンナの生き方の方がよっぽど、理にかなっていて良いと思う。

 もっとも、そうやって教えを守ることで一族としての結束や結びつきを強くする意味合いもある、なんてことを考えだすと、やはりハンナは異端児でもあるのだろうが。

「ハンナはハンナなりに、エルフとしての自分の生活を考えて生きてる。それは本当に立派なことだと思うし、これかにもその調子でいいと思う」

「ユウキさん……」

 笑いかけると、ハンナもはにかんだ笑みを浮かべた。

 うむ、そんな笑顔も可愛くて良しだ。

「って、違います、そうじゃないんです!」

 と、和やかに終わろうとしていた会話だったが、我に返った様子でハンナは改めて俺にしかめっ面を向けてきた。

「ユウキさん、私はですね、怒っているんですよ!」

 テイクツー、というわけか。

「怒ってる、と言われてもなぁ」

 どうしてハンナが怒っているのかは、正直未だによく分かっていない。

「ああ、あれか、エルフらしく怒ってるって話か」

「そうです!」

 なんでいきなり自分がエルフであることを再確認してきたのかと思っていたが、それで合点がいった。

「森を傷つけた人間許さない、みたいな話か?」

「それもありますが、私が怒っているのは傷つけたことそのものとはまた少し違います」

「ふむ」

「私が怒っているのはですね、ユウキさんの戦い方についてです」

 戦い方?

「あれか、いつもの「もっと自分を大事にしてください!」か」

「違います! いえ、違わなくもないですけど、ちょっと違います!」

「というと」

「初めて聞きましたよ、森に精神攻撃を仕掛ける人なんて。同じことされたら、私だって怖くて嫌になります、そんなの!」

 そんなに、怖い攻撃だったのだろうか、あれ。

「でも俺の最大にして唯一の武器なんだぞ、死なないってのは」

「だとしても森と寿命で根競べする人がいますか? ユウキさんの場合本当にできちゃうから余計に怖いんですよ、微塵も嘘の気配がない本気で言うんですから、純粋な精霊みたいな存在には怖すぎるんです!」

 それはまあ、悪いことをしたかもしれない。

「だとしても、なんだってまたハンナがそんなに怒るんだよ」

「私がエルフだからです」

 ハンナはどこか誇らしげに語る。

「私たちエルフは森と共に生きる種族です。私は今でこそユウキさんと村で生活していますけど、それでも森に対する敬意は忘れたことがありません。私たちにとっての生命の源であり、大切な故郷である森は、どこの森であっても関係なく、私たちが守り、助け、力となるべきものなんです」

「なるほど」

「そしてですね、この子のような森の精霊は、まさしく森そのもの。そんな大切な存在を怖がらせるなんてことは、決して許せないことなんですよ、エルフとして!」

 ああ、そういうことか。

 やけに張り切って怒っているように見えた理由が分かって来た気がする。

「もちろん、ユウキさんが酷い人じゃないことは分かっています。ですが、それでもやっぱり、ユウキさんのやり方は良くないと思うんです。だから――ユウキさん? なんでそんな嬉しそうな顔してるんですか?」

「ん、ああ、悪い。ちょっと、な」

「今ユウキさんは怒られてるんですよ! もう!」

 ハンナはそれからも俺の行いがいかに狂気的でよろしくないことかを滾々と語ってくれたが、俺としてはそれどころではなかった。

 少し得意げに、どこか誇らしげに、わずかに嬉しそうにお説教するハンナを見て、とても心がほっこりしている。

 ハンナはきっと、珍しく『エルフらしい』ことができて嬉しいのだ。

 そんな彼女の様子に俺まで嬉しくなっている。

 こうして俺は、今日もハンナの忠告を結果的に聞き流すことになってしまうのだった。


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