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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
22/96

俺の嫁はエルフ受けが悪い【22】

「それじゃ、私も帰るとするわ」

「何かと助かった。ザクロがいてくれで本当に良かったよ」

 サカイ村、俺たちの自宅前。

 転移でここまで送ってきてくれたザクロは少し疲れた様子で自分用の魔法を編んでいた。

「ザクロちゃん、大丈夫ですか?」

「……あんたたちが暴れてる間、私が何してたか知ってる?」

「へ?」

「壊れた屋敷の修理が終わって、下手に手伝いをするわけにもいかない私はひたすら寝てたのよ。こんなときじゃないと暇してらんないから、って。そうしたらね、想定してたよりずーっと長く寝ちゃって……逆に今疲れてるの」

「あ、ああ、なるほど……」

「おかげでむしろ眠いぐらいよ。こっちの世界、スマホもないから気軽に時間潰したりもできないし、こういう時のための魔法でも開発しようかしら……」

 言われてみれば、彼女が今回したことといえば、俺たちを転移させてくれたことと、屋敷の修繕ぐらいなものである。

 ただでさえ立場のある忙しい身だろうに、無駄に連れ回してしまったのは申し訳ない。

「あー、なんというか、今度何かしらの形で埋め合わせはするからな」

「別にいいわよ、私が自分の意志でついて行ったようなもんだし。ちょうどいい休暇になった、とでも思っておくわ」

「しかしなぁ……」

「ま、それじゃあ気が済まないって言うなら、1度こっちの街にも顔出してちょうだい。ヒイラギとも久しく会ってないでしょ?」

「確かに、せっかくタンポポにも会ったわけだし、会いに行きたいな」

「そうですね!」

「って言ってもこのまま来るってのはなしよ? 戻ったら私はどうせ仕事だし、あいつも暇なわけじゃないし。ある程度予定決めて手紙でも出してちょうだい。できるだけ合わせるようにするから」

「ああ、そうするよ」

 そうして話しているうちに、ザクロは早くも魔法陣を完成させていた。

 光を放つそれに入り、彼女は呑気に欠伸をする。

「ふぁ……帰ったらもう一寝入りしようかしらね……じゃ、またね」

「はい、また今度遊びにいきますね!」

「達者でな」

 軽く手を振るザクロに、俺たちはも同じように手を振り返し、やがて魔法陣の光が強まると彼女の姿は消えていた。

 どことなく感じる寂しさを思いながら、俺たちはどちらともなく家に入ることにするのだった。

「ユウキ殿ぉー! ハンナ殿ぉー!」

 家に入った瞬間、凄まじい速度で巨体が迫ってきたので、俺は咄嗟にハンナを抱えて横っ飛びに回避してしまった。

 直後、扉を抜けて筋肉の塊が飛び出してくる。

「なぜ避けるのですぁ!」

「いや避けるだろ! 強化もなしにお前のタックルなんぞ喰らえるか!」

「そこは受け止めてくださるのが家族の優しさというものでしょう! 数日もの間1人にされてしまった寂しいウサギの心を慰めてはくださらないのですか!」

「いや、それは、まあ、悪かったとは思うが……」

「では!」

 がばっ、と両手を広げるマサギの圧に、俺はどうしたものか、と頭を抱える。

 そんな俺の手から抜け出て、気付くとハンナがマサギのことを優しく抱き締めていた。

「ただいまです、マサギさん」

「おお、おお! ハンナ殿、おかえりなさいませ……!」

 大粒の涙を流しながら、マサギはハンナをそっと抱き締めていた。

 今夜はウサギ鍋にでもしようか。

「寂しかったですよね。そうだ、見てきたもののお話でもしましょうか。お茶淹れますから、のんびりお話しましょう」

「ええ、ぜひお願いします! なんとお優しいご主人様だろうか……!」

「じゃあ、お家に入りましょうか。ユウキさんは私よりもっとすごい体験してきましたから、きっと面白いお話が聞けますよ」

「なるほど、それは楽しみですな!」

 うきうきとした様子で家に入って行くマサギに微笑みながら、ハンナは俺の方に軽く目配せをしてきた。

 やはり俺の嫁は今日も最高だ。

 子供や小動物と仲良くなるのはハンナの得意技である。

 ……技? 特技、うん、特技だ。

「ユウキさん、どんなお茶がいいですか?」

「そうだなぁ、ああ、ジャム残ってたよな、ベリーのやつ。あれでロシアンティーっぽくしてみようか」

「ロシアン、ですか?」

「ああ。俺のいた世界の飲み方でな」

 それほど詳しいわけではないので、何となくロシアンティーというものを説明しながら俺はハンナと家に入る。

 こんな日常的なやり取りが、随分と懐かしいように感じられた。

 それからお茶しながら他愛もない話に花を咲かせ、マサギが満足して自分の部屋に戻ると、すっかり外は暗くなってしまっていた。

「夕飯の準備、すっかり忘れてたな」

「そうですね。どうしますか? マサギさんも今日はもう寝ちゃうそうですけど」

 お茶請けにでも、と野菜の素揚げチップスを用意してみたのだが、マサギがやたらと気に入ってくれたようで、かなりの量を食べていってしまった。おおよそ1食分。

 おかげでお腹いっぱいとのことで、マサギは土産話と野菜チップスに満足してくれたようではあるのだが、結果として俺たち側の食事が用意できなかったのである。

「俺は軽いものでいいかと思うが、ハンナはどうだ?」

「私も軽くで大丈夫です。マサギさんにつられてけっこう食べちゃいましたもんね」

「な。あんなに美味そうに食ってくれるんだ、また作ってやろう」

「ですね!」

 であれば、と俺は残っているいくらかの野菜を見た。

 チップスを作る際、少しだけ残したような野菜がいくつもある。

「これでスープでも作るか」

「いいですね! あ、それでしたら、今日は外で食べませんか?」

「お、いいな」

 窓の外、差し込んでくる月明かりの強さからして、良く晴れているのだろう。

 日中も暖かだったし、きっと外で夜を過ごしても問題ないはずだ。

「私、外に椅子とか用意してきますね」

「ああ、頼むよ」

 にっこりと笑って、ハンナは家を出て行った。

 野菜を食べやすい大きさに刻み、干し肉と一緒に炒め、軽く蒸してから水を入れて煮込んでいく。

 あと少ししたら完成、といったところで、ふと思う。

 椅子なら室内のものを持っていけば良いはずなのに、どうして彼女は手ぶらで出て行ったのだろうか?

 まさか、と思って外に出ると、

「あれ、どうしたんですか?」

「……」

 ハンナはどこからか持ってきたらしい木材に向かって魔法をかけていた。

 組み上げられた魔法陣が作動し、あっという間に作り上げられたのは、なんだろう、カニっぽい見ための木の化け物だった。

「スープ、できたんですか? よーし、もう1つもすぐ作っちゃいますからね!」

「いや、待て待てハンナ」

 やる気満々なのは良いのだが、それよりも先に作った椅子らしき何かが動き出しているのである。

「ア゛……アァ……」

 なぜかうめき声のようなものをあげながら、ずり、ずり、と地面を這うように動くその姿は、ホラー以外の何者でもない。

 4つの足を不規則に動かしながら、背もたれではないよく分からない腕のような2本の枝をこちらに向けて、椅子の化物はなぜか2重になっている座面を口のように動かして呻く。

 うん、普通に怖すぎる。

 そんな化物はゆっくりとハンナに向かって歩みを進めていた。

 俺が咄嗟に『ヘイトフル』を使うと、化物は1度動きを止め、ゆったりとした動きで俺の方を向くとこちらに少しずつ近寄ってきた。

 見た目は完璧にホラーなのだが、動きは緩慢だし、一応はハンナが作ったものだ。

 以前、ハンナの作った家が動き出したことがあったが、あの時はあまりの大きさと被害が出ていたこともありどうにか解体することばかり考えてしまった。

 冷静に考えてみれば、これはハンナの子供――つまり、俺の子供でもあるのだ。

 であれば、父親として、もっと優しく接してやる必要があるのではないだろうか?

 そんなことを考え、俺は椅子の化物、もとい俺の子供と対話を試みることにした。

「ァ゛……オ゛ァ……」

「そうだ、こっちだ……おいで……」

 片膝をついて、椅子と目線を合わせる。

 妙なことだが、背もたれが曲がった枝を組み合わせて作られているせいで目のような隙間があるのである。

 なんならそこから真っ白な目がぎょろぎょろ動いているようにも見える。怖い。

「ズ……ズァ……」

 と、それまで意味のない呻きにしか聞こえなかった椅子の声が、何か言葉を発そうとしているように聞こえた。

「なんだ、何が伝えたい?」

「ズァ……ズァー……」

「ああ、もう少しだぞ。さあ、言ってごらん?」

 気付けば椅子はすぐ目の前にまで来ている。

 か細い手のような枝を必死に伸ばしながら、こちらに視線を固定させて、苦しそうに声を出す。

「ズァーッ……デェ……」

 俺に触れた瞬間、椅子はその言葉を最後に、動きを止めてしまった。

「おい、どうした? なあ、おい!」

 必死に枝を握り、声をかけるものの、もう目の前の椅子は動くこともなく、ただただそこに形の悪い椅子として、ポツンと置かれているだけだった。

「そんな、お前……!」

「よし、2つ目できました!」

 元気いっぱいな声が聞こえてきて顔を上げる。

 ハンナの目の前には、どういうわけか今度は形の良い、動くこともホラーな声も出さない椅子が存在していた。

「時間をかければこんなものです。我ながら惚れ惚れする出来ですよ、ユウキさん!」

 嬉しそうな笑顔でこちらを見るハンナに、俺は潤んだ視界のまま優しく微笑みを返した。


◆◆◆


「本当に、そっちの椅子でいいんですか?」

「ああ、こいつがいいんだ」

「はあ……」

 不思議そうに首を傾げるハンナだったが、すぐに深く考えるのはやめたようだった。

 俺はそっと、不格好で不気味な造りの椅子の手すりを愛おしく撫でる。

 こいつはきっと、最後に「座って」と言いたかったのだろう。

 椅子として生まれ、そしてそうありたいと願ったのなら、俺がこいつにしてやれるのは1つだけ。

 ただただ、座ってやるだけだ。

「ハンナ」

「はい?」

「椅子、用意してくれてありがとうな」

「えへへ、どういたしまして! こちらこそ、スープありがとうございます。とっても美味しいですよ!」

「それは良かった」

 椅子に深く座り直しながら空を見上げる。

 感傷的な気分で見る美しい星空はの瞬きは、どことなく、俺を慰めてくれているように見えるのだった。


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