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俺の嫁はエルフ受けが悪い  作者: 吉田しく
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俺の嫁はエルフ受けが悪い【20】

 さて、ルーツが考えを改めてくれたことで一件落着、といきたいところなのだが、残念なことに今回はそんなにあっさり解決するような事件ではなかった。

 何しろ、あわや国家転覆、といったところの大事件である。

 王族やら部下やらの間ではなんとかなったとしても、クーデターに参加していた人間がたくさんいたり、その過程で殺されてしまった魔物も大量にいたりと、問題は山のように残っている。

 それらをどうするべきか、まずは屋敷に戻って考えてみようか、などと思っていた俺だったが、

「ユウキ様、こちらの無力化は終わりました」

「ん、ああ、えっ、全部か?」

「はい、つつがなく」

 いつの間にか半竜の姿に戻ったベリィが、俺たちの方に来ていた。

 見れば、その後ろでサクラが縛り上げたのか、車座になってぐったりしている人間が何人もいる。

「ベリィ、強かった。人間の攻撃全部弾いてた。ドラゴンの鱗、やっぱりいいね」

「恐縮です」

 実際に戦闘している本当の姿の龍を見て興奮しているのか、サクラはやけに楽しそうだった。

 見たことのない生き物を見ると、その構造を自分の人形にどう活かすか考えられるので嬉しいらしい。俺には分からん感覚だ。

「100人ぐらいまでなら相手取れるって言ってたけど、銃とか持ってても相手にならなかった感じか」

「あの程度の攻撃では、龍の鱗を砕くには至りません。人間としては動ける方には見えましたが、本来の姿を見せるまでもないように思えましたね」

「あー、まあ、そんなもんだよなぁ……俺としては、あの姿で正解だと思うけどな」

「と、言いますと?」

「あいつらが持ってた銃より威力が高い銃なんていくらでもあるからな。ルーツがタンポポの力を使ってどれぐらいの兵器を用意してたか分からなかった以上、用心するに越したことはなかったんだよ。ほら、地雷とかも結構な威力だったろ?」

「なるほど……確かに、異世界の武器に関しては知識がほとんどありません。浅慮でした」

「いや、まあ、相手がタンポポだと思って戦うならそれぐらい用心した方がいい、ってだけだからな。今後そういう戦いはまずないと思うぞ」

 ともあれ、人間たちはこれで無力化できた、はず。

 他に実働部隊がどれぐらいいるか分からないが、この様子なら敵にもならないだろう。

「ルーツ、他の人間は?」

「ああ、それでしたら、そこにいる者たちが戦闘に加わっていた全てです」

「……この人数で、村いくつも落としてきたのか?」

「ほとんど、私が1人で戦ったようなものでございましたから……」

 ルーツが言うには、魔物の相手をしていたのはほとんどタンポポの姿をしたルーツだったとのこと。

 そもそも、このクーデター自体、全てルーツが用意したものであるため、1部の魔物はルーツの直属の部下であり、人間たちにやられたふりをして隠れているのだとか。

 屋敷に乗り込んできた2人はそういったルーツの部下だったらしい。

「人間たちには『我々が勝利している』という感覚を植え付ける必要がありました。ゆえに、銃を持たせ魔物を撃たせはしましたが、あの程度の武力で命を落とすような柔な魔物はほとんどおりません」

「じゃあ、実際のところ魔物側の死者はいないのか?」

「いえ、無数におりますよ。人間を特に虐げる思想の魔物から中心に、私が消して回りましたので」

 にこやかに微笑むルーツに、俺は何とも言えない気持ちになってしまった。

 身内の粛清をにこやかに伝えないでほしい。

 いや、あなたにとってはラゴ君や国のために必要だからやったことかもしれんけど、それをラゴ君の横で誇らしげに言うのもどうなのよ。

「今この国に残っている魔物は私の息がかかっている者と、ラゴ様、そしてベリィのみとなります」

「そんなに消したのか?」

「人間たちが立場を取り戻せる、と思える程度の犠牲は必要でしたので……」

 俺が言うのもなんだが、こう、魔物としてどうなんだろう、それ。

 スクラップアンドビルドにしたってやり過ぎなのではなかろうか。

 元手が皆無になってしまったら、さすがに国が成り立たなくなるのでは?

「一応、現存している魔物たちと人間が手を組みさえすれば、この国は立ち直せるような状況です。全てはラゴ様の手腕次第、といったところですが」

 そう言って彼がちら、と視線を送ると、ラゴ君は神妙な顔で考え込んでしまった。

 分かる、無茶ぶりもいいところだよな。

「……本音を言えば、私はもっと国を小さくしてからラゴ様にお渡しするつもりでした」

 悩むラゴに、ルーツが続ける。

「人も、魔物も、私の手で縮小をかけ、ラゴ様の手で回せる範囲にまで国を解体した上で、献上する。それこそが私の考えていた未来図になります。このまま国が続けば、ラゴ様の敵ばかりが増え、やがて王政は成り立たなくなることが目に見えていましたからね。ゆえにこそ、国のため、ラゴ様のため、私は国そのものを切り崩す必要があったのです」

「それでまあ、ド派手にここまでのクーデターを起こしたってわけか……まあ、それ自体

はいいと思うけどな。最終的に相手のことを思うんなら、もっと自分を大事にした方がいいと思うぞ? 自分が大事に想ってる相手ってのは、だいたい相応に大事に想ってくれてる相手でもあるんだから」

「ふふ、耳が痛いですね……」

 困ったような笑みを浮かべるルーツを見て、うんうん、と頷く俺だったが、どういうわけかこちらをハンナがものすごい顔で見ていた。

 怒りと呆れと、あとなんだろう、未知の生物を見た時の目でこちらを見ている。

 なんだろうか、そんなに変なことを言っただろうか、俺。

「ま、何にしてもその目論見はやめにしたんだろ? 今のラゴ君になら、現状で国を渡しても問題ないだろう、って」

「そうですね、そう思います。ラゴ様、あなたは少し見ない間にとても立派に成長なさいました。人間の強さを知り、ご自身の弱さを知り、何より、大切に想うものを守ることを実践してくださいました。これは大きな成長でしょう。このルーツ、感激しております……」

 どこかうっとりとした表情で語るルーツだったが、俺としては過大評価では? とも思っている。

 正直なところ、まだまだ国を任せるには頼りない少年であることには変わりない、と思うのだが。

「……いや、やっぱり、まだ僕には荷が重いよ」

 それまで悩み続けていたラゴ君も、首を横に振りながらそう言った。

「僕は、まだまだ未熟だ。ユウキさんたちと戦ってよく分かった。王として立つのすら早かったように思う。ルーツさえ良ければ、王位を譲りたいぐらいだ」

「何を仰いますか。あなた以外にこの国で王座に着ける者はいません。今さら逃げ出すようなことは許しませんよ」

 しかし、それになおもラゴ君は首を横に振る。

「弱音ではなく、真面目な意見として言っているんだ。ルーツが国を縮めて僕に渡そうと思うのだって当然だ。……だから、これは提案なんだけど、実質的な執政はルーツにやってもらたい」

「ラゴ様、それでは――」

「いや、もちろん僕だって、全部をルーツ任せにするつもりはない。僕も少しずつ勉強していこうと思うし、力もつけていこうと思ってるよ。ただ、国民たちは努力する王の姿を見たって心配に思うだけだ。こんな状況では、なおさら。だからこそ、僕の陰で暗躍する者が必要なんだよ、きっと」

「……なるほど。そういうことでしたら、微力ながら、お力添えさせていただきます」

 恭しく頭を下げるルーツに、ラゴ君は「こちらこそ」と同じようにお辞儀していた。

 今後の王政側の方針はまあ、それでいいのかもしれない。

 だが、それはあくまで方針が決まっただけ。

「で? 実際問題として、国民たちにはどういう話をしていくんだ?」

「そうですね……生き残っている魔物のほとんどは人間に対して悪感情を抱いていません。しかしその根底には未だ差別的な意識は残っているでしょう。今まで国そのものの感覚がそうでしたから。幼い頃から染みついた感覚というのは簡単には変わらないものです。そして、そうした意識は薄くとも端々に滲み出てしまうもの。人間たちの権利や立場を名目上魔物と同じにしたところで、関係は簡単には変わらないでしょう」

 抜本的変化を起こす前に、争いが終わってしまったのが実態ですからね。

 そう言って考え込むルーツと、ラゴ君。

 ふむ、と少し考え、俺は2人に提案する。

「そういうことなら、タンポポに力を借りないか?」

「タンポポさんに、ですか?」

「ああ。こういう時、あいつ程頼りになるやつはいないぞ」

 捕らえた人間たちが起きて話を聞かれても大変だから、ということで、1度屋敷に戻ることにした。

 ぼちぼちサクラも飽きてきたようだったし、彼女は1度昼寝でもさせてあげようと思う。

 さてさて、うちの頭脳担当さんはどんな策を思いついてくれるのやら。


◆◆◆


「えー、やだー」

「やだーって……子供かよ……」

 屋敷に戻り、相談してみるとタンポポはすぐにそう言って机にドカッと組んだ足を乗っけてそっぽを向いた。

 テーブルを囲んで、俺、ラゴ君、ルーツが並んで座る向かいでタンポポはハンナ、ザクロに囲まれて、分かりやすくめんどくさくなっている。

「だって僕、そこの白いのに酷い目に遭わされたんだよ? 今だってまーだ弱体効いたまんまだし! はぁーあ! 僕が強すぎたせいで酷いことになったよね! 困った困ったー!」

 もはや当てつけのような拗ね方に、俺は何となく恥ずかしくなってくる。

 タンポポは実際のところ、全く困っていない。

 数日すれば弱体も勝手に戻るだろうし、何なら俺たちもいるのだから頼れるものはいくらでもある状況だ。

 この場で彼女が思っていることはただ1つ。

 自分を利用したルーツにあれこれと理由をつけて反撃というか、逆襲したいのである。

「あの、タンポポ様、私が全面的に悪かったのはその通りですので、私のことはいかようにもしていただいて構いません。ですが、どうか、ラゴ様のお力になってはいただけませんでしょうか? そのためでしたら、どのような責め苦も耐えてみせますから……」

「責め苦って、僕のことなんだと思ってるのさ……」

 いやお前、この間「拷問する?」と気軽に言ってたじゃん、と横やりを入れそうになったが、頑張って耐えた。

「では、どのように償えばよろしいでしょうか……」

 そう聞くルーツの顔は、ただでさえ真っ白なのに、さらに血の気が引いて白くなっているように見えた。

 相手が相手なだけに、彼もかなり戦々恐々としているようだ。

「んー、何してもらおっかなぁ」

 んふふ、と可愛らしく笑う姿は実に愛らしいが、それゆえにあまりにも悪魔の笑顔だった。

 小悪魔なんて可愛らしいものじゃない、確実にデーモン。

「それじゃあねぇ……しばらく僕にこの国支配させてよ」

「……と、言いますと」

「そのまんまさー。僕の顔でクーデターしてたんだから、そいつが成功したってことにさせてよねって話。で、僕は人間たちを改めて統率して、魔物と自分たちがどれぐらい違うのか、魔物たちの立場が今後この国でどうなるのか、ってのを徹底的に固める。んで、その間にルーツたちには魔物側の立場、考え方を教育してもらう。で、ある程度互いのすり合わせが済んだらいよいよこの国をまともに動かしてくってわけ。そこまで行ったら僕かなりの功労者だよね? この国のいろんな権利とかあれこれ、僕にも噛ませてもらえるよね?」

「え、えーっと、それは、その、願ってもない話ですが……よろしいので?」

「いやだって、それぐらいしないと僕、顔使われ損じゃない? このままだとこの国、まともに機能しないでしょ? 焦土から何か得ようとするよりかはある程度育った作物もらった方がマシってだけの話。言っとくけど収穫できる時期になったらがっっっっっつり報酬もらうからね。覚悟しといてよ」

 そう言って満面の笑みを浮かべるタンポポに、ルーツとラゴは顔を見合せ、静かに頭を下げるのだった。


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