俺の嫁はエルフ受けが悪い【10】
「お、起きたね?」
私室で休まされていたラゴくんが戻って来たのを見て、タンポポは意地悪く笑った。
「よく眠れた?」
「首が痛いです……」
「ま、あれはラゴくんが悪いよ。いくら可愛くても、魔王には魔王なりのプライドがあるもんでしょ?」
「……」
タンポポの言葉に、彼はばつが悪そうに視線をさ迷わせた後、未だ不信の目をしているサクラへと向き直った。
「先程は失礼しました、魔王サクラ。どうか、ご容赦を」
しっかりと頭を下げる彼に、サクラは少し考えた後、
「……敬語、嫌い」
そっけなく返した。
「えっ」
「それやめてくれたら、許して上げる」
「なっ……」
サクラの言葉に、わなわなとラゴくんが震え始める。
そして、しばらくした後、彼は「えっと、その、ごめん……」と小さく返した。
消え入りそうな彼の言葉に、サクラは表情を険しくした。
なるほど、こっちもコミュニケーション苦手くんか。
サクラは彼の反応に困ってしまったようで、どうしたものか、と俺やハンナに視線を送ってきた。
対するラゴくんもまた、困り顔でベリィを見ている。
うーむ、この空気、どうしたものか。
互いに黙りこくってしまった魔王たちを見かねてか、パン、とタンポポが手を叩いた。
「さて、それじゃあ一先ず状況確認をしようか」
彼女の言葉に、気まずく思っていた俺たちも飛びつく。
「そ、そうだな!」
「2人のこととか、この国のこととか、いろいろ聞かなきゃですもんね!」
ね、とハンナに同意を求められていたザクロは「ええ、そうね……」とどこか上の空に返事をしていた。
俺たちのやり取りを聞き、タンポポはこっくりと頷いた。
「んでは改めて、この2人はラゴとベリィ。一応、ラゴくんは現在この国を治めている国王で、ベリィはその秘書的なポジションなんだって」
「現国王って、この若さでか?」
「んー、まあ、見りゃ分かると思うけど、彼ハーフエルフだからさ。見た目よりは歳食ってるよ。と言っても今年で30とかだっけ?」
「はい……じゃなくて、うん」
サクラといい、彼といい、年齢詐欺が多くないか?
と思うものの、俺も不死身の関係で20歳ごろの姿を保っているので人のことは言えない。
なんならタンポポはサクラよりも幼く見えるし、ハンナもエルフだしベリィは半竜人だから相応かも分からないときている。
年相応な見た目なのは、この場ではザクロだけだ。うーむ。
「今、何か失礼なこと考えなかった?」
「いやいやまさか」
とはいえ、ザクロも別に老けているなんてことはなく、普通に綺麗なお姉さん、といった見た目である。ハンナほどではないが。
「俺もちゃんと年取る体だったら、ザクロみたいに大人っぽくなれたのかな、とか思ってただけさ」
「ユウキ……」
おっと、いらんこと言った。
悲しそうな顔をするザクロに笑顔を向けて、俺はタンポポに先を促す。
「まあまあ、俺のことはこの際いいだろ。で? その魔王様たちが、なんだってまたタンポポと一緒にいるんだよ?」
「それね。簡単に言うと、僕は巻き込まれたんだ」
「巻き込まれた?」
「うん。国を我が物にしようって連中の起こしたクーデターに、見事に巻き込まれました」
やれやれだよねぇ、とため息をついた彼女は、この国に起きた出来事について語り始めた。
数日前、タンポポは仕事の依頼を受けてこの国を訪れていた。
かつてこの国を治めていた王、ラゴの先代の王様による直々の指名だったとのことで、警戒しながらも大きな成果も得られそうだから、と彼女は仕事を引き受けたらしい。
「打ち合わせに国に来てみたらびっくり。もう先代の王様は死んでて、僕を呼び出したのはかつての王様の側近だったのさ」
その側近、今回のクーデターの首謀者だという男は、持っていた能力で、あろうことかタンポポを襲撃。
とはいえ、彼女はかつて俺と共に魔王を撃退したメンバー。
当然ほぼ無傷で返り討ちにしたのだが、
「いやー、油断したのが悪かったよね。隙をつかれて、厄介なことされてさぁ」
側近が行ったのはタンポポの能力をコピーすることだった。
「お前の能力をコピーって、そんなことできるのか?」
「できるんだよ、あいつは。何となく察してると思うけど、この国、龍と竜人たちの国なんだよね。で、その中でも特異中の特異だったのが、側近男の能力」
「鏡龍……それが、やつの正体です」
ベリィはそう言って、俺たちに見えるように書物を1冊広げた。
異世界の言葉で書かれているらしい本には、咆哮する龍の姿とその説明が描かれている。
「龍そのものとしても強大な種ですが、それ以上に恐るべきはその能力です。鏡面となっている鱗に映し出された物へと変身できる力……彼の真の狙いは、タンポポ様の姿を得ることでした」
「ってことで、見事にパクられたわけですよ、姿と能力をねー」
めんどくせぇー、と天を仰ぐタンポポだが、しかし、俺としてはまだ疑問が残る。
「能力を奪われたってんならともかく、コピーされただけならどうとでもできるんじゃないか?」
「と思うじゃん? いやー、よーく僕の能力調べてたんだろうねー。その場で弱体ポーション大量に作られてさ、僕を倒すんじゃなくて弱体化させることに専念しやがったんだよ、そいつ」
結局、数名の部下と共に側近は逃げて行ったとのことだったが、問題はそこからだった。
「くらった弱体もしばらくすれば治るからそれまではここに居座らせてもらおう、とか思ってたんだけどね? 困ったことにその間にクーデターが本格的に始まっちゃったんだよ」
「こちらを」
今度は水晶が俺たちの間に置かれた。
覗き込むと、そこにはとても平和な光景が広がっていた。
人間たちが笑い合いながら、まだ戦いの跡が残る村の復興に励んでいる様子だ。
瓦礫を撤去したり、家の窓を補修したり、炊き出しを行ったりと、各々が明るい表情で活動している。
「これが、どうしたのよ?」
一緒になって水晶を除いていたザクロが問うと、タンポポは困り顔で答えた。
「それ、元々魔物たちが住んでた村なんだよ」
「はぁ? ……どこにも魔物なんていないじゃない」
一応、彼らが片付けているモノの中には、魔物だったらしき肉塊も見えなくはないのだが、いやいや、あれが、元々住んでいたと?
「側近たちは僕の姿を使って、人間たちを焚き付けて回ってる。領地内にある魔物の村を次々と潰して、人間の村に改造してるんだよ。困ったことに僕は魔王を討伐した人間ってことで知られてるし、旗印としてはばっちり。何より、この国の人間たちは魔物を憎んでる」
タンポポはなおも呑気に言っているが、彼女の言葉にベリィの表情が曇った。
それだけで、少なからず理由は分かってしまう。
「……我々は、人間たちを奴隷として活用しておりました」
「僕も最初はびっくりしたよ。人間がペットとか家畜と同等の扱いされてたからね。とはいえ、この国にはこの国の成り立ちとかルールがあって、それに外の人間がとやかく言うのはお門違い、って思ってたんだけどねぇ」
タンポポはわざとらしく両手を挙げてため息をついた。
「こうなっちゃあ、関わらざるを得ない。人間側につくわけにもいかないし」
「王族に匿ってもらってるから?」
ザクロの問いに、タンポポはひらひらと手を振った。
「違う違う。そうだね、このまま人間たちを焚き付け続けて、魔物が徹底的に潰されて、立場が逆転したとしようか。この国にはもう、強い魔物も、魔王すらもいない。そうなった時、1番強いのは誰か、って話」
「ああ、そういうこと……」
納得した様子のザクロに、タンポポは肯定するように頷く。
何となく俺も状況が飲み込めてきたが、
「えーっと、それだと、どう大変なんですか……?」
うちの嫁はさっぱりなご様子だった。
いや、分かる。
ハンナがこうなっているのは、単純な話、中身の善良さの違いによるものだ。
俺やザクロは、魔物たちの村が人間、ひいてはタンポポの姿をした側近たちに襲われたと聞いて、すぐに悲惨な状況を想像できる。
魔物を効率的に倒す方法なんて、タンポポの能力があればいくらでも作り出せる。
彼女の能力はアイテムを使うこと、そしてアイテムを作り出すこと。
材料は必要とするものの、ある程度のアイテムであればその場でいくらでも作り出すことができる。
そして、彼女が作ったアイテムは並のアイテムよりずっと強力であり、何よりその真価は彼女が使用することで発揮される。
彼女はアイテムの効力を引き上げる力も持っている。
俺と比べれば、ずっと複雑かつ様々な用途のあるスキルをこれでもかと持っている上に、それらを駆使して作り出したアイテムで多様な戦い方を実現する。
その器用な能力に旅の中、幾度となく助けられたものだ。
だが、それはあくまでも味方だからこその出来事。
彼女は、個人的には最も敵に回したくない人間の1人だ。
他者を生かさず殺さず、などというのはお手の物。
洗脳、拷問、虐殺から格上相手への対処、勝利への貢献までなんでもできる。
悪用しようと思えばいくらでも悪用できる、まさしくチート能力の持ち主なのだ。
それを、国を落とそうと考えている存在が手にしているのだというのだから、その手にかかった魔物たちがどんな目に遭っているのかは、想像したくもない。
そして、人間と比べればずっと強いはずの魔物たちがいなくなり、残されたのが人間たちと、タンポポの力を持つ魔物となれば、次は。
「魔物が軒並み潰されて、今度は人間たちが一方的に蹂躙されて、はい、この国は奴らの手に見事なまでに落ちましたとさ、ってなるのが目に見えてるってこと。で、そうなったらもう、人間どころか魔物まで、この国のあらゆる生命が彼らのために使い潰されるんだろうね。ま、ハンナは分からない方がいいと思うよ、こういう血生臭い話は」
タンポポはそう言うが、ここまで説明されればさすがのハンナも良くない想像をしてしまうらしい。
青ざめてしまったハンナの手を、俺は優しく握った。
「だからこそ、俺たちがそうさせないために手を尽くさないとな」
「ユウキさん……」
「そのために呼ばれたってことだろ? お前の回復を待ってたら国が落とされるから、手伝えと」
「違うよ?」
は?
「いやいや待てタンポポ。それ以外に何があるってんだよ?」
「んーまあ、半分は合ってるんだけど、どう考えてもサクラに加えて2人呼ぶのは過剰戦力だよ。いくら僕の力を持ってるって言っても、相手は魔王ですらないんだよ? ステータスは僕じゃなくて相手基準、言っちゃなんだけど、この中の誰か1人でも力貸してくれたら僕と2人でボッコボコにできるよ」
あ、ラゴくんとベリィは別ね、と笑うタンポポに、俺たちは唖然としてしまった。
いよいよ話が見えなくなってきた。
元々何を考えているのか分かりにくいやつだったが、今回ばかりは本当に分からない。
「じゃあ、私たちは何のために呼ばれたんですか?」
「そりゃあ、国を救うためさ」
「でもお前それは違うって」
「別に暴力だけが国を救うわけじゃないよ。革命、うん、ある意味この国には必要なことだと思ってたから、好都合だった」
にこり、とタンポポの瞳が笑っていないことに気付き、俺は身震いした。
普段からのらりくらりと掴みどころのない彼女だが、こういう時、本気の目で言ったこと、やったことは、何が何でも成功させる。
だからこそ、恐ろしくもあり、信頼もできるのだが。
「皆に手伝ってほしいのは、この国の意識改革。このまま親玉をぶっ殺したとしても、この国には根深い問題が残ってる。一応は人間と魔物が共に暮らしている国だってのに、どこまでも魔物優位の思考、思想が蔓延してんのさ」
先ほど同様、ベリィが表情を曇らせる。
彼女にも何かしら思うところがあるようだが、それはさておき。
「こう言っちゃなんだが、俺らが敵を倒したらまた王様の統治に戻っておしまい、ってわけにはいかないのか?」
俺はもちろん人間だし、人間が奴隷扱いされているというのは聞き捨てならないとも思うものの、一応は国として機能していたわけなのだから、クーデターを起こした大本を断てば元々のやり方に戻り、平和は取り戻せるのではなかろうか?
もちろんある程度の確執やら、治安の悪化とかはあるだろうが、それでも国を取り戻すことは難しくないはずだ。
「それで終わりなら僕がとっくに解決してるんだけどねぇ、そこで問題になってくるのが、彼なのさ」
そう言ってタンポポは俯きながら話を聞いていたラゴくんを指さした。
「ね、ラゴくん」
「へっ?」
突然話を振られて、彼は驚いていた。
見る限り、退屈そうにしていた、のだろうか?
まあ、大人の難しい話というのは総じて子供にとっちゃ退屈な内容かもだが、しかしなぁ。
「君の国の話なんだから、もう少しちゃんと聞いといた方がいいんじゃないか?」
「あ、えっ、と……」
静かに窘めた俺から慌てて視線を逸らしながら、彼はしどろもどろになっていた。
そこまで凄んだつもりはないのだが、これは――
「ま、御覧の通りドヘタレのクソ雑魚甘えん坊ナードなわけよ、彼」
「さすがに言い過ぎだろお前……」
俺だってそこまでは思ってない。
「残念ながらこれが言い過ぎってわけでもないんだよ。元々、僕が来なければ傀儡政権の出来上がりまで秒読みってとこだったんだから。側近たちに甘やかされて見事なまでに腑抜けに育ったんだとさ。もちろん、彼を利用するためにわざわざ弱く育てたんだろうね、やれやれ」
心底呆れた様子のタンポポに、ラゴくんは悔しそうな顔をしていたが、それだけだった。
彼女の言うことが全部本当だから、何か言おうにも言えることがない、といったところだろうか?
「んでねぇ、彼の問題点は弱いとことは別にもう1つあってさ。彼、さっきも言ったけどハーフエルフなんだよ」
「それ、私も気になってました!」
ビシッ、と手を挙げるハンナ。可愛い。
「耳とか肌の白さとか、私と一緒だなって。えへへ、久しぶりに森の外でエルフに出会えましたね」
にっこりと笑いかけてくるハンナに、俺も微笑を返す。
マイペースなハンナもとても可愛い。
しかし、
「あ、やっぱり、エルフだったんですね……」
ラゴくんの小さな呟きで、ハンナは分かりやすくテンションを下げてしまった。
なるほど小僧、死にたいらしいな。
「なるほど小僧、死にたいらしいな」
「えっ」
おっと、口に出ていた。
とはいえ、紛れもない本心でもあるため、俺は特に訂正するでもなく、ラゴくんから視線を外す。
「いえ、いいんです、エルフらしくない見た目なのはよく自覚してますので……」
涙目で俯くハンナに、心が痛む。
大丈夫だハンナ、彼には俺が後できつーいお灸をすえておくから。
「まあハンナだから仕方ないねー、エルフ的美点は全部赤点なんだもん」
「タンポポ、弱体喰らってても容赦しないぞ?」
「事実を言っただけでーす。って、ハンナのことは今はいいんだって。話を戻すけど、彼がハーフエルフだとね、この国的には良くないんだよ」
「ま、でしょうね。魔物の国で魔王の跡継ぎが、半分人間ってのが良くない、って話でしょ?」
「正解ー」
ザクロの指摘に、なるほど、と俺も納得する。
この世界のエルフや小人族といった様々な種族は、大半が人間として扱われている。
感覚的には、日本人とアメリカ人は違うよね、といったところ。
肌の色の違い程度の感覚で、耳が長く長命だったり、小人だったりするのを受け入れているのだ。
「なんだってまた、そんなややこしい子が跡継ぎになってんのよ?」
「その辺も側近の暗躍の結果、と言いたいところだけど、先代の王様がエルフに一目惚れしたんだってさ。大恋愛の末に結ばれて、彼を作ったらしいよ」
「……」
両親の話になったからか、ラゴくんは少し暗い顔で俯いてしまった。
そりゃあ、複雑なんだろう、彼としても。
この国の在り方から考えて、彼のお母さんも彼自身も苦労したに違いない。
「彼が生まれた経緯とかは正直問題じゃなくてさ。問題は、彼が国を取り戻したとして、その後今まで通りの国が返ってきちゃうと、またクーデターが起きかねないよね、って話」
「それで意識改革、か」
「そゆこと。人間と魔王のハーフが王様やってても問題ない国造りをしなきゃいけないんだよ。せっかくだから、側近たちの行いをきっかけにさせてもらおう」
悪そうな笑みを浮かべ、タンポポはサムズアップして見せる。
「スクラップ&ビルドは、何かと大事なことだよ。どうしようもないぐらい凝り固まった国全体の観念をぶち壊してくれるってのなら好都合、利用しない手はない。でも僕1人じゃさすがに荷が重いからさぁ、手伝ってほしいんだよね」
ようやく、タンポポの狙いが分かった気がした。
彼女は、彼女なりにこの国の今後も見越した救い方を狙っているのだ。
とはいえ、
「なんだってまた、そんな肩入れするんだ?」
彼女の考えはあまりにも無償の奉仕に近く思えた。
誰かを助けたい、ぐらいの感覚で動いているのだとすれば、壮大すぎる。
国を救いたい、と思うにしては、彼女はこの国との関連がなさすぎる。
客として呼ばれたら巻き込まれた、と先ほど言っていた感じからして、彼女自身にこの国との深い繋がりがあるとは思えない。
俺が知っているタンポポという人間は、意味のない行動を取ることは多いものの、過剰な苦労を無理にでも背負う、なんて馬鹿はしないと思っていたのだが。
タンポポは俺のぶつけた疑問に「んー……」と少し考えた後、にっこりと笑って言った。
「僕さ、結構根に持つタイプなんだよ」
その言葉に、全てを理解する。
なるほど、側近にやられたことが、そんなに気にくわなかったか。
「騙された僕だって、確かに問題あったと思うよ? でもね? 僕の姿を借りてやることがこんなちんけな国を支配することって、何さ? 僕だよ? 魔王討伐に大貢献した、世界中どこでも引く手あまたのスーパー傭兵として各地を練り歩いてる僕になって、やることが地元の支配って、何? あり得ないね、マジで。だから全部ひっくり返す。僕がやったらこうなるんだってのを見せつけてやるのさ」
暗い炎を瞳に灯したタンポポは、悪役さながらの凶悪な笑みを浮かべた。
これに手を貸さなきゃいけないのか、俺たち。
「そういうわけなので、当てにしてるからね、皆!」
弱ってるとは思えない満面の笑みで元気に言うタンポポだったが、
「ああ、悪いけど私はパスよ」
「ええっ!?」
ザクロのそっけない言葉に、情けない声を出した。
「そんな、ザクロが手伝ってくれるのが1番楽そうなのに!?」
「だって、国家問題じゃないのこれ。私、これでも国お抱えの魔法使いなのよ? 他の国の問題に首なんて突っ込めないっての」
「そこをなんとかぁー! 僕今マジで弱ってるんだって! アイテムだって小さな刃物ぐらいしか作れないんだよ!?」
先ほどくらったトラップが小さな刃物だらけだった理由が唐突に判明した。
地雷はあれか、元々持ってたのを使った感じか。
「別に私がいなくても、ハンナとユウキにサクラまでいるんだから、戦力は足りてるでしょ? 魔法だってサクラのキヌが使えるんだし」
「いやいやいやいや、ザクロの転移魔法とかはオンリーワンでしょ? それがあるとないとじゃ雲泥の差だってばー!」
「何と言われようと無理なものは無理よ。私が勝手に手伝って、うちの国に迷惑かけるわけにはいかないの。サクラの頼みじゃなければここに来るのだって本当は嫌だったんだからね?」
「うぇー、マジかぁー……」
押せど引けど変わらないザクロを前に、タンポポはぐったりとソファに体を預ける。
そんな2人のやり取りを横で聞いていたサクラが、ふと、ザクロの服裾を引っ張った。
「ザクロ、一緒にやらないの?」
「ごめんね、ちょっと難しいわ」
「……じゃあ、私もやらない」
と、まさかのことを言い出したサクラに、タンポポだけでなく俺も慌ててしまう。
「待って! サクラまでダメって言い出したらホントに困るんだけど! ねぇ、ザクロ!」
「それは俺も困っちまうな、さすがに……」
「ええ……もう、仕方ないわねぇ」
ザクロはため息をつき、拗ねたようにムスッとした顔のサクラを優しく撫でながら言った。
「私は手伝えないけど、その分もサクラに頑張ってほしいと思ってるわ。すごい魔王なんただから、他の魔王が困ってるのぐらい、ちゃちゃっと助けてあげて?」
「でも」
「お願い。ユウキを、ハンナを、タンポポを……私たちの仲間を、助けてあげて」
どこまでも優しいザクロの声と手つきに、サクラはしばらくしてから、黙って深く頷いた。
「ありがと。……この子と私にこんだけ言わせてるんだから、ちゃんと仕事しなさいよ、タンポポ」
弱ってるから、って言い訳は聞かないからね、と釘を刺すザクロに、タンポポはホッとした様子で再びサムズアップ。
「もっちろん。この中の誰より頑張ってみせるよ!」
「調子いいわねぇ……ま、直接手伝いはできないけど、少しぐらいのバックアップはしてあげるわよ」
「具体的には?」
「お茶淹れたり、とか」
「地味!」
「うっさい!」
ぎゃいぎゃいと言い合う2人を見て、懐かしい気持ちになる。
冒険してた頃もよくこうやって喧嘩してたっけなぁ、この2人。
ともあれ、だ。
「そんじゃま、頑張ろうな、ハンナ、サクラ」
「はい!」
「うん」
「皆様、感謝いたします……」
ようやく纏まった俺たちの協力体制に対し、ベリィは胸を撫で下ろし、深々と頭を下げてくれた。
だがそんな中、ラゴくんだけが、ただただ不安そうな顔でタンポポの方を見つめているのだった。




