女公爵が頼れるのは唯一執事だけってお話
女公爵グレース・オルレアン。彼女は早くから両親を亡くし、女性でありながら公爵家を継いだ若き天才である。領民からの評価は高く、社交界でも注目される存在だ。そんな彼女は誰にも弱みを見せない。唯一、執事であり幼馴染であるグラシアン・ガティネ伯爵令息を除いては。
今日もグレースは部屋に一人で閉じこもる。灯りもつけずにベッドの上で小さく丸まっていた。月明かりが優しくグレースと寄り添うグラシアンを照らす。
「ご当主様。もう大丈夫ですよ」
丸まっているグレースはグラシアンに腹を撫でられて息を吐く。女性特有のこの痛みは、不順なのもあって毎回かなり重いものだ。婚約者も、愛人すらもいない彼女が唯一頼れるのは執事であるグラシアンだけ。彼にだけは、どうせもうバレているし弱みを見せられた。
「大丈夫、大丈夫。…ほら、少しは楽になりませんか?」
「…うん、ありがとう」
ー…
オルレアン家の屋敷では、時々いつもは活動的な主人が急に閉じこもる日がある。けれどみんな何も言わない。執事であるグラシアンが探りを入れさせてくれないのだ。周期からいって女性特有のその日というわけではないだろう、とみんなは思っていた。けれど、彼女はまさにそれで閉じこもっているのだ。生理不順と、それによる生理痛。気分も悪く、またイライラもしてしまう。彼女は人に弱みを見せるのが苦手だ。だから、隠してしまっていた。
最初はグラシアンも弱みを見せてはもらえなかった。グレースを心配して声をかけても、大丈夫だからの一点張り。だが幼馴染でもある彼はついにその日、幼馴染の部屋のマスターキーを使い部屋に入ってしまった。
幼馴染である彼女は、ベッドで蹲っていた。素早く扉を閉めて、鍵をかけると彼女に駆け寄った。
「ご当主様!?どうされました!」
「大丈夫…」
「大丈夫ではないでしょう!」
「大丈夫…一度頼っちゃったら、際限なくなるから…お願い」
「…。いいえ。ご当主様がお辛いのなら、そばにいます」
「…シアン」
「はい」
「お腹撫でて…」
「!…はい」
グラシアンはグレースの腹を撫でる。グレースがほっと息を吐いた。
「…いつもなのですか?」
「うん…」
「その…周期が乱れていませんか?」
「だから余計に辛い…」
「そうでしたか…」
女性特有のそれの辛さはわからない。ただ、いつも気丈な主人が青ざめているのを見ると相当なもののようだ。
「これからは私にだけ、頼ってください。必ず側におります」
「…うん」
こうして、二人だけの時間をグラシアンは手に入れた。願ってもない好機だった。
ー…
「シアン」
「はい、ご当主様」
「…シアンもそろそろ婚約者出来た?」
「いいえ。全ての縁談をお断りしています」
「なんで?」
「わかっているでしょう?ご当主様と同じ理由です」
グレースは目を見開く。なんで、いつからバレていたと思考を巡らす。
「ご当主様はポーカーフェイスは上手いですが、幼馴染の私には通用しませんよ」
ウィンクしてみせるグラシアン。グレースは負けたというように両手をあげる。
「好きです。グレース。私をどうか、貴女の伴侶に」
「…私でいいの?」
「はい」
彼女が頼れるのは、求めるのは、いつだって彼だけなのだ。