必殺技は語らない。
続編を書くつもりはない予定ですが、多少でも気に入ってもらえればそれでよしです。
それは、とある高校のアニメーション研究会の教室から始まった。
「お~い、山田~」
「あー?」
山田はアニメを見ながら、適当に返事を返す。
「必殺技ってさ~」
「あー」
「【必殺】じゃ、ないよね~」
「…………確かに~」
森口部長は山田に迫って顔を見る。山田は視線を部長に向けることなくテレビに釘付けだ。
その状況にはお構いなしに、部長はポニーテールをフリフリと揺らし、話を続ける。
「ってことはさ~。【必殺】って叫んだら殺せないフラグ立つんじゃな~い?」
「ですかねぇ」
部長はわき腹に拳を構えると、
「必殺! 正拳突き!」
と、超ダサダサな技名を唱え、
「ぐふっ。だが、効かん! なにぃ? ってなるじゃ~ん」
と、自作自演。
山田はスマホを取り出すと、素早く検索をする。
「ググって見ると、必殺技は字で見ると『必ず殺す』って書きますけど、『必ずしも殺さない』って書かれてますね~」
「ふーん。ってことは、【必殺】と語らなければ、相手を殺せるのかねぇ~?」
「いや。必殺宣言しなくても、殺せない時ありますって!」
「えー。じゃあ、何でわざわざ、【必殺】っていう必要あるの~?」
山田は面倒くさそうに目を細めて部長を見た。
「どうでもいいじゃないですか。総称だと思えば」
「駄目です! 私、気になります!」
部長は目を輝かせて近寄る。
おい、そのセリフは言っちゃダメだろ。
山田は目を反らした。
「じゃあさ、その条件を覆そうよ~? 【必殺】宣言したら確実に殺せる的な~。〇ケモンのつ○ドリルみたいな~」
「必殺宣言してないじゃん! しかも『ひん死』だし」
「あ、ホントだ……」
「バーカ、バーカ」
部長はほっぺを真っ赤に染めた。
「兎に角! そーいう奴を作るのっ! 今日のアニ研のテーマなのっ!」
部長が何か言い出しやがったよ。というか、必殺宣言して確実に殺す技って。
それ面白味、全然無いじゃん。ダメだこりゃ。そっとしておこう。
山田は只々、部長が妄想で技名を大声で叫ぶのを、アニメを見る傍らでスルーし続けた。
数時間後。
技名を叫び過ぎて声が出なくなった部長は、酸欠で教室の床に倒れ込んだ。
「【必殺】無視の舞。説明しよう。これは、相手にしないことで心を必ず殺す技なのだ」
解説口調でつぶやき、目を三日月型にして、にやりと笑う山田。
「う、これが【必殺】宣言して確実に殺す技……やるわね」
しおれた声で部長は返答し、気絶。
「いや、それ自滅だから」
つまるところ、死した時に初めて語る技が必殺技なのだ。
ありがとうございました。