002
午後の仕事は午前の構想をもう少し具現化していく作業から始まった。
「そこの登場シーンのホロもう少し薄くしてみようか」
「わかりました。こんな感じでどうでしょうか」
私は目の前に移っているウィンドウに手を伸ばし指を下に動かした。
「おーけー、そこでいいよ」
私は手を止めた。そういった細かな作業を延々と繰り返し、大まかな演出の流れが組み上がっていった。
「もうこんな時間だね。そろそろ帰ろうか。あとは現場の仕事だ、僕たちはこの一連のデータを渡して本番を待つだけだね」
「どういった手の加えられ方がされるか楽しみですね」
私は上司に挨拶をしてその場から離れた。そして、朝のように水色の車に揺られて帰路についている。今日の仕事の出来栄えは上出来だったし、私はかなり機嫌がよかった。
「ねえ、レイ、今日の演出どうだった」
私は思わず人工知能のレイに尋ねてしまった。他の人も自分が所持している人工知能に名前を付けている。私は小さいころ好きだった物語の登場人物からとっている。レイは私の着けている端末からデータを読み取り答えた。
「とてもよかったと思いますよ。エキサイティングできる仕上がりだったと思います。」
「ありがとう」
私は少し照れながら言った。たとえお世辞だとしてもうれしい。そこからはレイとの建設的な話で盛り上がり、いつの間にか家に着いていた。今日は疲れていたので、玄関を通ってそのままジェルベッドに向かいそのまま寝た。
もうすぐ本番が始まる。リハーサルをした感じではかなりいい出来になっていたと思う。アナウンスが始まった。私は観客の一人になってこの仕事が成功するのを見守っている。
「それでは、エデンの公演を始めます」
お腹に響いてくる低音が流れ始め、すぐに耳に心地よい高音が流れ始めた。すると宙に二人のショートヘアの女の子が現れた。その周囲には結晶の形をしたシンボルが漂っていた。二人は音楽に合わせ歌い始めた。それに合わせて観客が盛り上がり、場は一気に白熱していった。
本番が終わり、観客が会場を去るのに合わせて、私も会場を後にした。この後打ち上げがあるが、私はあまりそういった馴れ合いが好きではないので、このまま帰ることにする。私はいつもの車に乗り、発進し出した。車の中で今日の演出を反芻し改善点を挙げた。それらは私の家にある記録装置に保存されていった。その後は遠くにあるビルを眺めていたが、ある車が目に入った。二週間ほど前に私の車の目の前を横切っていった黒い車だった。ちょうど仕事も区切りをつけ、この後も予定がなく暇だったので、ちょっとした好奇心で跡をつけてみようと思った。
「あの車にばれない様に跡をつけて」
「わかりました、尾行モードに切り替えます」
レイはそう答え、車が自宅への順路とは違う方向に車体を向けた。