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赤き覇王 ~底辺人生の俺だけど、覇王になって女も国も手に入れてやる~  作者: 書く猫
第11章.深まる乱世に負けない力を蓄える
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第88話.今一番欲しいのは人材だ

 時間が経てば経つほど、『国王不在』の混乱が広がった。

 ホルト伯爵のように果敢な軍事行動を起こす領主はまだいないが、それでもあちこちで紛争が起きている。しかもこういう混乱を治めるべき王族たちは……『誰が新しい王になるのか』という内紛に夢中だ。何もかも鼠の爺の予見通りだ。

 俺が統治している『南の都市』は王国の混乱にも屈せず、むしろどんどん成長している。何しろこの都市の力だけでホルト伯爵の侵攻を防ぎ、『我々の自由は誰にも侵害できない』ということを世に示したのだ。それによってこの都市に対する他地方や外国の信頼が更に厚くなり、貿易や商業の成長が順調に進んでいるのだ。

 何よりも……『自らの手で自由を守った』という事実が、市民たちに確固たる自信を与えている。その自信があるからこそ、市民たちは混乱に惑わされずに強く生きることができる。

 そして俺は市民たちや兵士たちから『信頼と忠誠』を得た。人々が『赤い総大将の指示に従えば間違いない』と信じるようになったのだ。おかげで何の地位も血筋もない俺の統治を、人々が素直に受け入れるわけだ。

 要塞建築も順調だし、南の都市は安定している。このまま乱世を乗り越えることも可能だろう。しかし……俺はこの都市で満足するつもりはない。


---


 要塞が完成したら、都市の守りに全戦力を注ぐ必要がなくなる。つまり……俺もホルト伯爵と同じく他所を攻撃できるようになる。

 だがホルト伯爵が言った通り、俺には『正統性』がない。地位も血筋もない俺が他所を攻撃して勢力を伸ばすと……周りの貴族たちから反発を食らうだろう。それで『万人の敵』になってしまえば……今の戦力では耐えられない。

 『正統性』を除けば、残った答えは『大義名分』だ。他所を攻撃しても反発を食らわないほどの大義名分が必要なのだ。しかし……いかんせんこれも難しすぎる。何せ俺には『貴族社会での政治と外交を遂行できる、頭脳と血筋を持ち合わせている人材』がいないのだ。

 やっぱり今一番欲しいのは有能な人材だ。この王国を滅ぼすことにも、新しい王国を作り上げることにも人材が必要だ。どうにかして、いい人材を見つけ出すことはできないだろうか。俺にはそれが一番の悩みだった。


---


 仕事に少し疲れたら、俺はロベルトの屋敷で少女たちと時間を過ごす。

 アイリンとシェラと一緒にいれば、不思議にも疲れが取れる。軍隊とか統治から解放されて、他愛のない話を楽しめるからだろうか。

 だが今日はシェラに格闘技を教えてやることにした。一応俺は彼女の格闘技の教師でもあるのだ。たまには鍛錬させなきゃ教師として失格だ。

 屋敷の裏側で、俺とシェラは対決を始めた。アイリンが少し心配そうな眼差しを送ってくる。


「はあっ!」


 数回の攻防の後……シェラが俺の足を狙って蹴りを入れた。俺のバランスを崩すつもりだ。体格の差を埋めるにはいい戦術だが……俺はその蹴りを避けると同時に手を伸ばし、シェラの肩を掴んだ。


「うっ!?」


 シェラは俺の関節技から逃げようとした。俺は足払いで素早くシェラを倒し、彼女が地面にぶつかる前に腕を掴んで支えた。


「また負けか……」


 シェラは悔しい顔で立ち直る。


「あんたってさ、以前よりも強くなってない?」

「まあな」

「不公平だよ、そんなの!」


 シェラが真面目な顔でそう言った。俺は苦笑するしかなかった。


「あうあう」


 アイリンが近づいてきた。シェラが怪我していないか心配しているのだ。


「アイリンちゃん、心配しないでね! 私は見ての通り元気だよ!」


 シェラはアイリンの頭を撫でて安心させてから、俺を振り向く。


「もう一度挑戦する!」

「断る」

「何でだよ!?」


 シェラの反応に俺は笑った。戦場で戦って以来、少し落ち込んでいるのかと思ったけど……シェラはすっきり元気になったようだ。


「まだ冬のど真ん中だ。気温も低いし、無理して風邪でも引いたらどうするつもりだ?」

「あうあう!」


 アイリンが声を上げた。『まったくその通りだよ!』という意味だ。


「う……分かったよ」


 シェラもアイリンには勝てないようだ。結局俺たちは屋敷に入り、応接間の暖炉の前に座って休んだ。


「ねえ、レッド」


 ふとシェラが落ち着いた声で話しかけてきた。


「何か悩み事があるなら私たちに言ってね。あまり役には立たないかもしれないけど……いくらでも聞いてあげられるから」

「あうあう」


 アイリンもシェラの言葉に同意した。俺は「ありがとう」と言って、2人の少女の頭を撫でた。

 たぶんアイリンもシェラも……俺が時々難しい顔をしていることに気付いたんだろう。だから心配してくれているのだ。俺は2人の少女に心から感謝した。

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