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第87話.もしかしたら俺は……

 12月も半分を過ぎ、どんどん寒くなってきた。


 この南の都市の気温自体は高い方だ。でも海からの風が強くて、冬に外で長居するのは得策ではない。俺は寒さに強いから何とかなるけど……兵士たちが健康を害してしまう恐れがある。


 しばらくは訓練も2週に1回くらいでいいだろう。焦って訓練を敢行したところで、兵士たちが病にかかると元も子もない。


 今俺が率いている兵力は800人だ。義勇軍と傭兵を解散させた後、新兵を募集した結果だ。当面の問題は……この800人が駐屯できる場所がないということだ。今までは野営地とかでも十分だったけど、やっぱり寒い冬にはもうちょっとちゃんとした駐屯地が欲しい。


 木造でもいいから要塞を建てたい。幸いなことに、お金なら十分ある。この南の都市は国王に税金を納めてきたけど、国王無き今は俺が税金を管理している。商業都市の名に相応しい相当な量のお金だ。もちろん浪費するわけにはいかないが、要塞の建築は長期的に見て必要な投資だ。


 結局俺はロベルトやオリンと相談し、都市の東側に要塞を作ることにした。東側を選んだのは……北西方面の領主、つまりホルト伯爵とはしばらく戦わないと判断したからだ。


 要塞の位置と規模、形状などを決めているうちに……12月の残り半分も過ぎて1月1日になった。多事多難な1年が終わり、新年になったのだ。


 都市の所々で新年記念パーティーが開かれた。だが俺はそういう華麗なパーティーに参加する代わりに、近い関係の人々と一緒に食事することにした。


 『レッドの組織』の6人、副官のトム、アイリンとシェラ、そして俺……この10人が小さなレストランに集まった。言わば俺たちだけの素朴なパーティーだ。


 俺とアイリンとシェラは3人で丸いテーブルに座った。2人の少女はもう本当の姉妹に見えるほど親しくなっていた。


「アイリン、スープは美味しいか?」


「あうあう!」


 アイリンが暖かいチキンスープを食べながら笑顔を見せた。


 チキン料理がメインのこのレストランは、俺が経営しているところだ。経営しているといっても、店のことはトムの姉を含めて数人のスタッフに任せている。今日は経営者の権限で貸し切りしたけど。


「あの、皆さん……ご注目ください」


 本格的に食事が始まる前に、レイモンが席から立って声を上げる。


「今日は新年の始まりでもありますが、ボスとお嬢さんのお誕生日でもあります。お2方にお祝いを送りましょう!」


 俺とアイリンを除いて、みんな拍手し出した。


 そう、今日は俺とアイリンの誕生日だ。この素朴なパーティーは……俺たち2人の誕生日パーティーでもあるのだ。


 貧民街の孤児たちは、ほとんど自分の誕生日を知らない。だから適当に1月1日を誕生日にする場合が多い。俺とアイリンも同じであって……今日から18歳と13歳になったわけだ。


 チキン料理が次々とテーブルに運ばれ、楽しい雰囲気の中で食事が始まった。俺はアイリンが丸焼きを食べ始めるのを眺めた。


 俺の13歳の頃と比べれば、アイリンは小さくて純粋だ。俺はあの頃、鼠の爺から格闘技を学んで復讐を夢見ていたが……アイリンは薬学を勉強している。本当に何もかも違うのに……不思議なことだ。


 そう言えば、爺が旅に出てから結構な時間が経った。今何をしているんだろう? もちろん爺のことだから心配する必要はないはずだけど……。


「レッド」


 ふとシェラが話しかけてきた。


「何難しい顔しているの? もうちょっと食べてね」


「俺は18歳だからな。17歳のお前とは違っていろいろ考えなければならないんだ」


「何よ、その言い方!?」


 シェラが怒り出す。


 やがて食事が終わり、俺たちは解散した。俺は2人の少女と一緒にロベルトの屋敷に向かった。流石に今日だけは……仕事しなくてもいいだろう。


「寒いのに人多いね」


 シェラの言う通り、多くの人々が大通りを歩いていた。寒さもこの都市の活気を止めることはできなかったようだ。


 俺たちが大通りを歩き始めると、人々の視線が集まる。


「流石有名人」


「へっ」


 俺とシェラは一緒に苦笑した。


 当然なことだけど、もう俺の名はこの都市の隅々まで知れ渡っている。しかも肌色のせいでどこに行っても目立つから……人々の視線を避けることは不可能だ。


「あの……」


 道の途中、ある老婦人が俺に話しかけてきた。


「この都市を守ってくださって……ありがとうございます」


 老婦人はそう言いながら、まるで領主にお礼をするような仕草をした。アイリンとシェラは老婦人にお礼を返した。


「不思議だね」


 老婦人と別れてから、シェラが口を開く。


「レッドは『この王国を滅ぼしてやる』とか言ったくせに……いつの間にかこの都市の守護者みたいになっている」


「まったくだ」


 俺とシェラはもう一度一緒に笑った。


 アイリンは人々の視線が少し恥ずかしいようだ。赤面になって俺の後ろに隠れてしまった。アイリンのためにも早く屋敷に入るべきだな。


 思ってみれば、この1年間俺は結構変わってしまった。怒りと憎悪が完全に消えたわけではないが……それ以外の大事なものを見つけ出した感じだ。それは……俺の後ろに隠れている小さな少女のおかげだ。


 もしアイリンに出会えなかったら……俺はどうなっているんだろうか。たぶん『レッドの組織』を率いることもなかっただろうし、この都市を守って戦うこともなかったはずだ。それで今頃この都市はホルト伯爵の支配下に置かれているだろう。


 小さな貧民の少女との出会いが……俺の人生を変え、多くの人々の運命を変えた。そう思うと本当に不思議な気持ちになる。


 俺は不良たちに殴られていたアイリンを救い出した。しかし実は……救われたのは俺の方かもしれない。ふとそんな気がした。

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