第81話.決戦の朝が来た
いよいよ決戦の時が近づいた。
ホルト伯爵の本隊は『南の都市』のすぐ近くまできていた。夜、丘に登るとやつらの野営地の光が見えるほどだ。明日……両軍は激突するだろう。
「3500対6000か……」
俺とホルト伯爵は、もう互いの戦力について把握していた。
俺の軍隊は500の警備隊兵士たちが合流して3500人、ホルト伯爵の軍隊は奇襲による被害を受けて6000人だ。
3500対6000……まだ2倍近くの差がある。しかも俺の軍隊のほとんどは、あまり訓練されていない義勇軍だ。このままだと勝利は難しい。
だが、俺の方が有利な点もある。何しろこっちは『防御する側』で、すぐ後ろには豊かな都市がある。前もって有利な地形を確保することができるし、補給にも問題がない。遠征軍に比べて体力的にも有利だ。
士気もこちらの方が高い。義勇軍は『故郷と家族を守りたい』という気持ちで自発的に集まった人々だ。熟練度こそ低いが、士気だけは誰にも負けないくらいだ。それに先日の奇襲戦での勝利で、俺の軍隊の士気は更に上がり敵の士気は下がった。
勝算が無いわけではない。問題は……敵の騎兵隊だ。敵の野営地を眺めながら、俺はそう思った。
「レッド!」
ふと少女の声が聞こえてきた。この声は……。
「シェラ……」
声の主はやっぱりシェラだった。俺は少し驚いた。
「お前がどうしてここに……」
「私も戦うよ!」
シェラが俺の直視する。
「あんたの軍隊には女性もいるんでしょう? 私だって戦える!」
確かに義勇軍の中には女性も含まれていた。体力的に問題がなければ、女兵士も普通に戦えるからだ。だが……。
「お前はまだ16歳だ。いくら義勇軍でも、子供と老人は除外だ」
「あんただって17歳のくせに!」
「俺の軍隊は17歳からだ」
「聞いてないよ、そんなこと!」
シェラが怒った顔になる。
「それに、来週の月曜日が私の誕生日よ。一週くらいは別にいいでしょう?」
「へっ」
俺は苦笑しながら首を横に振ったが、シェラは引かなかった。
「あんたに比べると弱いけど、私も必死に鍛錬したきた……! 戦えるよ!」
シェラの声には強い気迫がこもっていた。俺は彼女に一歩近づいた。
「お前が頑張ってきたのは、俺が一番よく知っている。だが……これは戦争だ。格闘とは違う。殺すか殺されるかの戦いだ」
「私だってそれくらいは……」
「それにロベルトがお前の参戦を許すはずがない」
「父さんは関係ない!」
シェラの目に涙が浮かぶ。
たぶんシェラは以前から義勇軍に参加したかったんだろう。だがロベルトによって阻止された。それで結局……直接俺に来たのだ。
「あんたが人々に言ったんでしょう? この都市の自由を守るために戦おうって。私もここの市民として……戦いたい!」
これは……反論しがたい。
「……分かった。ロベルトには俺から話そう」
シェラの顔が明るくなる。
「ただし、俺の軍隊に入ったからには俺の命令に従ってもらう」
「分かった……ありがとう」
俺は手を伸ばして、シェラの頭を撫でた。
戦場は残酷で……公平な場所だ。そこでは死神が誰にも平等に訪れる。少女も……もちろん例外ではない。だがシェラはそれを知った上で戦おうとしている。その覚悟だけは、もう立派な戦士だ。
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次の日の朝、ホルト伯爵の本隊が進軍を再開し……俺の目の前まできた。
南の都市から少し離れた平原で、両軍は対峙した。ギリギリ弓兵の射撃が届かない距離だ。ここから少しでも近づくと……射撃と共に戦闘が始まる。
俺のすぐ後ろには義勇軍の部隊長たちが集まっていた。彼らは戦争経験者で、各々数百人を率いている。義勇軍がその戦闘力を発揮できるかどうかは、彼らの手にかかっている。
俺は彼らを振り向いて、口を開いた。
「この戦いは……『南の都市』の運命の分かれ道だ」
部隊長たちが俺を見つめる。
「一度敵に征服されたら、もう誰からも『自由都市』の地位を認められなくなる。強者によって侵略されたり、略奪されたりしても……誰も擁護してくれなくなる」
部隊長たちの顔に緊張が走る。
「だからこそ、俺たちの手でこの都市を守らなければならない。この都市の自由は、俺たちの自由は誰にも侵害できないということを……世に示さなければならない」
俺は部隊長たちを眺めた。
「この運命の分かれ道で、お前たちは戦い選んだ。それは人間として誇りを持つべき選択だ。残ったのはただ一つ……勝利を掴むことだ」
俺は拳を握りしめた。
「俺を信じて、各々の役目を果たせ。そうすれば必ず勝利が訪れる。そして敵に教えてやれ。今日は……敵にとって不運極まりない日だということを!」
部隊長たちが口を揃えて「はっ!」と答えた。俺は彼らを各々の部隊に戻させた。
もう戦いの準備は終わった。俺と俺の軍隊は戦意に包まれて、敵の動きを待った。弓兵たちは弓に矢をつかえて、俺の命令だけを待っていた。
ところが……その時だった。敵陣の中から一人の騎兵がこちらに向かった。しかもやつは……非武装だった。
「敵の指揮官、レッドに告ぐ!」
敵騎兵はこちらに向かって叫んだ。
「ホルト伯爵様からの伝言だ! 1対1での会談を望む! 応じたければ前に出よ!」
予想外の言葉に、俺の軍隊はもちろん……ホルト伯爵の軍隊まで騒めいた。
「へっ」
俺は苦笑した。どうやらホルト伯爵は……予想以上の変わり者のようだ。




