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第79話.やつらに恐怖を見せてやる

 戦争にて少数が多数に勝つためには、いくつか条件が要る。


 まず1つ目は『兵士たちから信頼される勇敢な指揮官の存在』だ。指揮官が多数の敵に怯えたらその時点でもう終わりだ。そして兵士たちから信頼されないと、いくらいい作戦を立てても遂行できない。


 2つ目は『多数の敵が満足に戦えない環境』だ。時間、地形、情報などを利用して……多数の敵が本来の戦闘力を引き出せない環境を作る。『戦術』というのは、結局この環境作りの集まりだ。


 1つ目の条件を満たすために、俺は日頃から兵士たちと一緒に過ごした。そして2つ目の条件を満たすために……俺は『奇襲』の敢行を決定した。


---


 この『南の都市』には『隠し通路』がある。


 その隠し通路は100年以上前、迫害された人々が作り出したものだ。『天使の涙』の事件で、黒幕のアンセルは隠し通路を通じて誰にも知られずにこの都市に侵入した。


 逆に言えば……『隠し通路を通じて誰にも知られずにこの都市から出る』こともできる。通路は北の山脈まで繋がっているし、そこから奇襲をかければ……敵からすると『あり得ない方向からいきなり奇襲される』ことになる。


 この奇襲を成功させるために、俺はまず味方から騙した。全軍に『都市を守るような陣形』を命令し……俺は武装した50人の精鋭たちとこっそり隠し通路へ向かった。


 この50人は『レッドの組織』の一員たちを含めて、全員俺が直接選んだ戦士たちだ。体力的に優れていて、勇敢で、士気が高い。こいつらなら多数の敵にも怯まず戦える。


「ここだ」


 墓地の地下の礼拝堂……そこに大きな扉があり、暗い通路に繋がっていた。俺は50人を率いて通路に進入した。


 この通路を歩くのは2回目だ。相当な時間がかかるのはもう知っている。だが俺と精鋭たちはそれくらいで疲れたりしない。


 堅固に作られた地下通路を数時間歩き、やがて都市から離れた。これからは上り坂だ。俺は後ろを振り向いて精鋭たちの状態を確認した。


「うむ」


 みんな強い気迫を発している。その中でも『レッドの組織』の6人は……まるで獲物を目の前にした猛獣みたいだ。俺に影響されたんだろうか。


 上り坂を数時間歩くと、人工的な通路が自然の洞窟に変わる。出口が近いのだ。俺たちはランタンを消して、洞窟を出た。


 外は暗かった。もう夜……奇襲するにはちょうどいい時間だ。


「静かに移動する」


 少し休んでから、月明かりに頼って山道を歩き……敵の移動経路に近づく。そして更に数時間後……道路の近くで野営している軍隊が見えてきた。


「見つけた」


 天幕の数からして、敵はおよそ2000程度……たぶんホルト伯爵の先頭部隊なんだろう。


「それにしても速いな」


 ホルト伯爵の領地からここまで進軍するためには、一般的に10日は必要だと言われている。しかしホルト伯爵の軍隊はたった8日でここまで来たのだ。相当速い進軍ではあるが……その分、兵士たちは疲れているに違いない。


 それにやつらは目の前の『南の都市』に集中していて、背後から奇襲されるとは夢にも思っていない。俺たちは山を降りて、敵部隊の野営地に近づいた。そして奇襲するに十分な距離になった時、俺は命令を出した。


「突撃」


 短い命令を出すと共に、俺は戦鎚『レッドドラゴン』を手にして真っ先に突撃した。


「うおおおお!」


 50人の精鋭たちもまた、鬨の声をあげながら俺に続いた。


「て、敵……!?」


 歩哨に立っていた敵兵士たちは……俺たちの突撃を見て目を見開き、動きが止まってしまう。俺は容赦なく『レッドドラゴン』を振るい始めた。


「ぐおおおお!」


 この戦鎚を使うのは初めてだが、まるでずっと昔から俺の武器だったような感覚だ。瞬く間に数人の敵兵士が打ち砕かれる。盾で防御しようとしたやつらもいたが……無駄だ。『レッドドラゴン』は盾ごと敵を粉砕できる。


「敵襲……! 敵襲だ!」


「は、反撃しろ!」


 やっと敵軍隊が反応し始める。慌てながらも野営地の天幕から飛び出て、俺たちに対抗しようとするのだ。だがもう何もかも遅い。


「はああっ!」


 俺が戦鎚を振るう度に、敵の数が減っていく。俺の全身はもう血まみれになったが……おかげで敵に更なる恐怖を与える。


「うわあああっ!?」


 恐怖に満ちた悲鳴があちこちから聞こえてくる。敵からすれば、完全に予想外の奇襲であり……しかも『暗闇のせいで奇襲してきた敵の正体すら分からない状態』だ。人間は『正体の分からないもの』に対して恐怖を感じる。そして一度恐怖に支配されたら……大男も赤ん坊当然になる。


「に、逃げろ! 逃げろ!」


「救援……救援を呼べ!」


 たった50人の奇襲で、2000人が恐怖と混乱に陥る。不条理なことではあるが……敵としては残酷な現実だ。


「何をしている! 落ち着いて対抗しろ!」


 天幕の前に立って、混乱を収拾しようとする者がいた。敵の指揮官だ。俺は放たれた矢の如く疾走し、敵指揮官に向かって突撃した。


「き、貴様……!?」


 俺が目の前に現れると、敵指揮官は驚愕した。俺はやつの顔を直視しながら血まみれの『レッドドラゴン』を振るった。やつは剣で俺の攻撃を防ごうとしたが……剣が折れると同時にやつの頭も粉砕される。


「う、うわあああ!」


「ば、化け物だ!」


 敵指揮官が無惨な姿で死ぬと……周りの兵士たちは戦意を失い、背を見せて逃げ始める。こうなったらもう戦いでもなく、一方的な殺戮の始まりだ。対抗しようとする勇敢な敵もいたが、俺と50人の精鋭たちによって次々と倒された。数分後には、敵陣の混乱はもう誰にも収拾できないほど拡大された。


 一方的な殺戮が更に20分ほど続いた時、レイモンが俺に近づいた。


「ボス、後ろから敵の軍隊が近づいています!」


 ホルト伯爵の本隊だろう。異変に気付いて駆けつけてきたに違いない。結構素早い対応ではあるが……それももう遅すぎる。


「撤収する」


 俺は迷いなく撤収を命じた。この『50人の精鋭』たちは、いわゆる『鎚と鉄床戦術』で『鎚』の役割を担っている。敵を一方的に叩く時は信じられないほど強いが、敵の攻撃から耐えることはできない。


 俺と50人の精鋭たちは敗走する敵から離れ、山を登って洞窟に向かった。今夜の戦いは……俺たちの大勝利だ。

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