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第75話.戦場こそが……

 薄暗い格闘場、歓声を上げる観客たち……もう俺には懐かしさすら感じられる光景だ。


「レイモン! レイモン!」

「やっちまえ!」


 観客たちは今日の主役であるレイモンの戦いに熱狂した。そしてレイモンもまた、自分の才能を最大限まで引き出して観客たちの応援に応えていた。


「はあっ!」


 相手の動きを止める連打からの上段回し蹴り。華麗で、綺麗で、美しい技だ。レイモンの鍛錬された格闘技の頂点と言える。


「レイモン様の勝ちです!」


 進行係が宣言すると、観客たちは更に熱狂し始める。


「10連勝だ!」

「凄いぞ、レイモン!」


 歓声と拍手の中で、レイモンは拳を上げて笑顔を見せた。本当に素晴らしい試合だった。


---


 試合の後、『レッドの組織』の本拠地でパーティーを開いた。たった7人だけのパーティー……ロベルトの屋敷のパーティーに比べると、本当に素朴で小さい。しかし俺にはこっちの方が楽しい。


「ボスも歌ってください!」

「うむ、任せろ」


 一緒に笑って、歌って、話し合う。その他愛のないことが楽しすぎる。


「その、ボス」


 パーティーの雰囲気が少し落ち着いた時、ふとレイモンが口を開いた。


「ここ最近、何か物騒ですけど……どうなっていくんでしょうか?」


 レイモンが質問すると、みんな口を噤んで俺を見つめる。


「ロベルトさんの組織で、槍や鎧を大量に購入していると聞きましたが……やっぱり戦争でも起きるんでしょうか?」

「……よくぞ聞いてくれた」


 俺もみんなを見つめ返した。


「お前たちも知っている通り、国王が昏睡状態に陥った。もうその命は長くないだろう。つまり……乱世が目の前まで来ているのだ」


 レイモン、ジョージ、カールトン、ゲッリト、エイブ、リック……みんなの顔に緊張が走る。


「俺はこれから軍隊を養成するつもりだ。まずはこの都市を乱世の波から守らなければならないからな。しかし……それが全てではない」


 俺は自分の赤い手を見下ろした。


「俺は……天下を取る。立ち塞がる者を一人残らず打ち砕いて、この王国を覆す」


 俺は組織員たちに視線を移した。


「お前らはもう格闘場を制覇した。そこにはもうお前らの望んでいる戦いは存在しない。だから……兵士になれ。俺と一緒に戦場を走るのだ」


 組織員たちは目を見開いて驚いたが、直後口を揃えて「はい!」と答えた。

 そう、この瞬間から……彼らはもう『格闘場の選手たち』ではない。俺の『親衛隊』だ。


---


 翌日の朝、広い空地に600人の兵士たちが集まった。

 俺は鎖の鎧を着て、戦鎚『レッドドラゴン』を背負って、予備の剣を腰に差して、馬に乗った。そして兵士たちの前まで行き……彼らに向かって号令した。


「隊列を整えろ!」


 兵士たちが俺の命令に従って隊列を整えた。彼らはみんな緊張した顔をして、動きも鈍い。しかしそれは当然のことだ。何しろ昨日まではみんな兵士ではなかったのだ。

 俺はそんな彼らを指揮して、少しでも戦術的な動きができるように訓練させた。全速前進、後退、防御態勢、突撃……基本から教育していく。


「前進!」


 兵士たちを指揮しているうちに、俺は奇妙な高揚感に包まれた。これは……初めて格闘場で戦った時の以上の高揚感だ。

 初めて格闘場で戦った時、俺は戦いこそが自分の生き方であることに気付いた。強敵と命をかけて戦う四角形の試合場こそが、俺に相応しい場所だと思い……高揚感に包まれたのだ。

 しかし今……兵士たちを指揮していると、かつてない高揚感が全身を覆う。まるでずっと求めてきた夢が叶えたような……いや、ずっと忘れていた俺だけの道を見つけ出したような気持ちだ。つまり俺に相応しい場所は……他ではなく戦場だ!


「全軍、止まれ!」


 俺は訓練を終えて、兵士たちを解散させた。彼らはもう俺の指揮を自然に受け入れるようになっていた。そして俺も……軍隊を指揮する自分の姿が自然な感じだった。


「ふう」


 馬から降りて、鋼鉄の兜を外した。すると1人の男が近づいてきた。美中年のロベルトだ。


「……驚きました」


 ロベルトは信じられないと言わんばかりの顔だった。


「もちろんレッドさんなら軍隊の指揮もできるだろうと思っていましたが、これは……」


 ロベルトが俺を見上げる。


「こんな短時間で600人がレッドさんの指揮通り動くようになりました。もう軍隊を統率するために生まれてきた人間……そうとしか言いようがありません」

「ありがとう」


 その時、鎧を着ているレイモンが俺に駆けつけてきた。俺はレイモンに手綱を渡し、ロベルトを振り向いた。


「ロベルトさん」

「はい」

「もうちょっと体格の大きい軍馬はいないかな?」


 俺を乗せていた馬はもう疲れ切っていた。これでは……まともに戦うのは難しい。


「レッドさんのための鎧と馬を手配しています。少々お持ちください」

「分かった」

「ところで……レッドさんはいつから乗馬を習い始めましたか?」

「乗馬は今日が初めてだ」

「……信じられない」


 ロベルトが苦笑する。


「君たち!」


 いきなり大きな声がした。振り向いたら数人の男がこっちに向かっていた。それは……警備隊隊長のオリンと彼の兵士たちだった。


「これはどういうことだ!?」


 オリンは慌てる顔で怒鳴った。


「貴族でも官吏でもないくせに軍隊を編成するなんて……事によっては反逆罪に問われる行為だぞ!」

「俺は現状を考えて最善の道を選んだだけだ」


 俺はオリンに近づき、彼を見下ろした。


「現在、王国の内部には不穏な空気が流れている。最悪の場合、この都市が侵略を受けるかもしれない。そんな事態に備えて戦力を整える必要があるのだ」

「それは警備隊の役目だ! 裏社会の人間が手を出してもいいことではない!」


 俺は苦笑した。


「オリンさん、俺は別にあんたと敵対するつもりはない。むしろ協力してこの都市を守りたい。あんたの警備隊だけで侵略に対抗するのは至難の業だろう?」


 オリンが俺を睨みつけてきた。それを見てロベルトが口を挟む。


「私たちの中にはこの都市で生まれ育った者が多いです。裏社会の人間ですが、この都市を守りたいという気持ちは警備隊の皆さんと同じです」


 ロベルトは親切な口調で話を続ける。


「オリンさんの権限を侵害するつもりは毛頭ありません。警備隊の方にも新しい装備や軍馬を納める予定です」


 オリンは険悪な顔のまま何も言わなかった。そしてしばらく後、部下たちと共にその場を去った。


「面倒くさいな」


 俺がそう言うと、ロベルトが笑う。


「まあ、予想通りのことですし……オリンさんも波風を立てるようなことはしないでしょう」

「それはそうだけど」


 オリンも馬鹿ではない。こんな状況で俺と敵対すれば不利になるだけだと知っているはずだ。


「そこまで使命感の強いお方でもありませんからね。賄賂で穏便に済ますこともできるはずです」

「そういうことは任せる」

「はい」


 正直に言えば、警備隊の兵力も吸収したい。単独で貴族たちと戦闘を行うためには……最低でも1000人は必要だ。もう少し……戦力が欲しい。

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