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第74話.戦力を整える

 『現国王が昏睡状態に陥った』という噂は、あっという間に王国全体に広まった。

 そもそもこの『ウルぺリア王国』は国王の権限が強い。たとえ馬鹿な国王だとしても、存在してくれないといろいろまずいわけだ。ゆえに国王の異変に関する噂もすぐ広まる。

 俺は一旦小屋に戻り、今後のことについて爺と話し合った。


「くっそ……」


 爺は不満げな態度だった。


「早すぎるんだよ、馬鹿野郎が……」


 爺が杖で地面を叩く。珍しく冷静さを失っている。


「後2、3年すれば条件が揃えるのに……最後に役に立たない馬鹿野郎だ」

「まだ完全に死んだわけじゃないんだろう?」


 俺は勉強しているアイリンを眺めながらそう言った。


「重体なのは確かだから、長くても3ヶ月だ。絶対的に時間が足りない」


 爺もアイリンの姿を見つめた。それで少し冷静を取り戻したようだ。


「お前が兵力を育てる時間も、アイリンが勉強する時間も足りない」

「確かに……」


 たった3ヶ月では……劇的な変化は望めないだろう。


「……こうなったら仕方ないか」


 爺が何か決心した顔をする。


「レッド、私は明日から旅に出る」

「どこへ行くつもりだ?」

「いろんなところさ。少しでも条件を揃えなければならない」

「……分かった」


 爺のことだから何か考えがあるに違いない。詳しいことは聞かないでおこう。アイリンは……しばらくロベルトの屋敷に預けるしかないか。


「俺も明日から『南の都市』の防備を固める。会長の立場を無駄にするわけにはいかない」

「へっ……お前も少しは成長したな」


 爺の顔が少し明るくなる。

 その日の夜はなかなか眠れなかった。もしかしたらこの小屋で爺とアイリンと一緒に過ごすのは……これが最後かもしれない。そんな気がしたからだ。


---


 翌日から俺は忙しく動き回った。

 『南の都市』の裏社会のトップである俺は、まず組織のボスたちに指示して動員できる戦闘員の数を確かめた。


「1043人か……」


 一つの都市の『犯罪組織』にしては結構な数だ。しかし『軍隊』にしては決して多くない。

 しかもこの1043人は、『せいぜいナイフやこん棒などを持ち、街の中で戦う組織員たち』だ。『槍と鎧で武装し、軍事訓練を受けた兵士たち』に比べたらまさに『烏合の衆』に過ぎない。

 何よりもちゃんと武装させる必要がある。幸いこの都市は『お金さえあれば何でも手に入る貿易都市』だ。お金の問題は……組織のボスたちを説得すればいい。


「ずいぶんと本格的だな」


 ビットリオがそう言った。


「槍、鎧、弓……そして食糧まで。戦争でも起こすつもりか?」

「こちらから起こすつもりはない」


 俺はビットリオとクレイ船長、そしてロベルトを見つめた。この都市の裏を牛耳っている『総会』のメンバーたちだ。


「だが、いずれ嫌でも戦争に巻き込まれることになる。その時になって『もう少し準備しておくべきだった』と後悔しても遅い」

「……警備隊は? 戦争はやつらの役目じゃないか」

「警備隊はちゃんと武装しているし、訓練も受けているけど……その数は約500人に過ぎない。ある程度の領地を持っている貴族から攻撃されると対抗できない」


 ロベルトとクレイ船長が頷いた。しかしビットリオはまだ納得できないという顔だ。


「傭兵隊はどうだ? やつらはお金さえ支払えば代わりに戦争してくれる」

「傭兵隊の戦闘力は信頼できるが、お金に関する揉め事でも起きたら危険だ。雇うのはいいけど、万が一に備えてこっちも戦力を整える必要がある」

「うむ……」


 結局ビットリオも同意し、1043人の組織員の中で600人を兵士として養成することになった。

 武装の次の問題は、やっぱり訓練だ。兵士たちがその戦闘力を発揮するためには規律が大事だ。これは人に任せられない。軍事学を勉強した俺が直接やるしかない。だが……一つ問題がある。


「軍馬か……」


 俺は『指揮官』と『切り込み隊長』の役割を同時に遂行しなければならない。そのためには馬に乗らなければならないが……ぶっちゃけ俺の体格と体重に耐えられる馬がいない。

 鎖の鎧を着て、戦鎚『レッドドラゴン』を背負って、予備の剣を腰に差す。その状態で乗馬すると……少し走っただけで馬が疲れてしまう。

 重武装した騎士が乗る巨大な軍馬が必要だ。だがそういう軍馬はこの貿易都市でさえ手に入れることが難しい。しばらくは普通の馬に乗るしかないか。


「隊列を整えろ!」


 鎧や槍などが用意され、ある程度の数の兵士が編成されてからは毎日訓練を行った。俺に与えられた600人を『規律の取れた軍隊』に変えなければならない。

 しかし……俺が本格的な訓練を行い始めたことに対し、反発する人が現れた。それは警備隊隊長のオリンだった。

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